猪・天女・旗

冬野原油

三題噺6日目(だっけ?) 今日はちょっと忙しかった。

 その天女は猪のように猛々しい地上の男に恋をしました。けれどその男の荒々しさを見たほかの天女たちからの評判はすこぶる悪く、どうしたものかと思い悩み、日々泣き暮らしておりました。その涙が雨となり、夏だというのに毎日地上を濡らすものですから、あまたの生き物が満足に腹を満たすことができず死にました。その様子を見て焦ったほかの天女たちは、男を天上へ召し上げることにいたしました。

 雨は無事止み、日の光が地上に十分届くようになりました。しかし田畑を荒らす動物たちを森に押しとどめ、時には狩ることのできた男を失った村は、変わらず飢えに苦しみました。そこで村人たちは、年の半分、春と夏の間だけは男を返してもらうよう天女に願い出ました。

 男と天女が地に降りるとき、目印になるよう建てられた柱があそこにあります。天女は男が村でも森でもどこにいても自分のことを忘れないよう、その柱の先に己の衣をくくりつけ、旗としました。日の光を美しく反射するあれが、天女の衣でございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猪・天女・旗 冬野原油 @tohnogenyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る