第34話 ラストエリクサー完成する
俺はヘンリーとともに工房の裏に回った。
ヘンリーはいつもの冷静な顔に、ほんの少し陰りを宿している。
「先に謝っておくが、まだソラさんの翼を奪った犯人は見つけられていないんだ。すまない」
「そんな顔しないでくれ。それで、進展っていうのは?」
「順を追って話す。まず警視庁では王都の主だったマフィア連中を残らず調べてみたが、
「ふーむ、王都内のマフィアじゃないとすると、一体誰が? 組織持ちの犯罪者じゃないってことか?」
「翼人の羽はたしかに莫大な価値を持つが、取引は闇市場でしかできない。売りさばくときは絶対に組織的なつながりが必要だ。そこで私は、壁外の連中が関わっているのではと考えた」
「っ! 壁外マフィアか!」
驚くとともに腑に落ちる。
これには少し説明が必要だ。
王都は王都内に4大ファミリーと呼ばれるマフィアがあり、これらが裏社会を支配している。しかしこれはあくまで王都の城壁内の話……王都の外、城壁の外に築かれているスラム街にはより凶悪なマフィア、ギャング、犯罪組織が巣食っている。これを王都の住人は「壁外マフィア」と呼んでいる。
よく俺は「はきだめ横丁」を治安が悪い治安が悪いと言っているが……正直そんな王都の最底辺でもそれなりの秩序があるのだ。例えばはきだめ横丁に店を構えているオーナーたち(サイモンやコハクなど)は違法の商品を扱うものの、誰かを襲ったり傷つけたりはしない。
ヤクザ的な言い方をすれば、カタギに迷惑をかけないのがはきだめ横丁住人の
対して、壁外マフィアは違う。奴らは本当になんでもやる。カタギをこそ襲うし、弱いものを率先して狙う。金になるなら何でもする、そんなどうしようもない連中の集まりだ。例えば俺の店に強盗に来た連中も、壁外の住人である。
はきだめ横丁が「違法」地帯とするなら、壁外は「無法」地帯なのである。
ヘンリーが、
「そうだ。そして壁外マフィアとなると、警視庁に情報はない。数も膨大だ。捜査が一気に進まなくなった」
警視庁は市民のための捜査機関だが、情報を集めるためならばマフィアとつながりを持つこともある。そこで王都内のマフィアについては把握している警視庁だが、壁外のマフィアにはまったく捜査の当てがないということだ。
「それでもどうにか西区近くの壁外から、どうも翼人の羽が王都内に渡ったと思われる情報が出てきた。壁外マフィアが関わっているのは、これで間違いないと思う。今は西区壁外にある壁外マフィアをしらみ潰しに調べているところだ。捜査にはまだ時間がかかると思ってくれ」
ヘンリーはそこまで話したところでため息を付いた。俺は礼を言う。
「ありがとうなヘンリー。壁外マフィアの調査なんて滅茶苦茶大変だろう」
「なに、徐々に壁外にも手を入れていきたいとは考えていたからな。今まで王都内の事件で手一杯だったから、いい機会だ。今の王都の治安悪化は、ほとんど壁外からの流入によるものだからな」
「壁外マフィアか……」
そこで、俺は一つ思い出したことがあった。
以前カリンちゃんに絡んでいたチンピラたち。あいつらがコーネリアス
あの時広場周辺の住人たちが、最近コーネリアス一家が荒らし回って困ると話していたはずだ。
「ヘンリー、コーネリアス一家って知ってるか?」
「コーネリアス、コーネリアス……事件資料で何度か見た覚えのある壁外マフィアだな。それが?」
「実は前にこんな事があったんだが」
そこで俺は、以前広場でカリンちゃんがひどい目にあっていた件を伝える。
話を聞くにつれて、ヘンリーの目には鋭い光が宿っていった。
「……ありがとう。さっそく調べてみよう」
「参考になりそうか?」
「ああ。なにか取っ掛かりが欲しかったところだったから助かる。それに最近荒らし回っているという情報が気になるな。なぜ急に勢力を拡大させたのか、理由を知りたい。ひょっとするとなにかつながる点が出てくるかもしれん」
「よかった。捜査大変だろうが、頼む」
「言われるまでもない。警察はこれが仕事だ」
それ以上余分な話はせず、ヘンリーは「では本庁へ戻る」と踵を返す。俺は急いで入れたてのコーヒーを保存容器に入れ、ヘンリーに渡した。ヘンリーはそれを大事そうにアイテムボックスに入れ、警視庁へと戻っていった。
◆
その後、ソラちゃんの捜査の進展はなかった。代わりに3日後、ついにラストエリクサーが完成した。
「できた……ついにできたぞーーー!!!」
輝くクリムゾンレッドの液体が入った小瓶を手に、ニコが叫んだ。
工房内で手伝っていた、サイモン、コハク、カリンちゃん母娘、もちろん俺も一斉に快哉を上げる。
「「「やったーーーーー!!!」」」
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