第23話 追放令嬢 2
Aランクリーダーが叫ぶ。
「お前ら! 俺に構うな、こいつごと巻き込んでいいから攻撃しろ!!」
「「「あ、ああ!」」」
おおっと、意外に覚悟の決まってるやつだな。仲間の冒険者たちも剣や斧を引き抜き盾を構えて、ものすごい勢いで突進してきた。
なるほど判断が早い。冒険者として場数を踏んでいる連中だ。
「やれやれ、接客以外で疲れたくないんだが」
俺はいったんリーダーを突き飛ばすと、襲いかかってくる他の冒険者たちを迎え撃った。
武器持ち相手に素手でだ。だが問題ない。襲いかかってくる剣や斧を次々かわしては、拳で鎧を砕き、盾を割り、兜越しに一撃を入れた。
「ぐっ!」
「がはっ!」
「ぐあっ!」
俺にやられて冒険者たちが後ずさる。
「ま、まぐれじゃねえ。このおっさんとんでもなく強いぞ!」
「くそ、素人のお嬢様さらうだけの仕事がなんでこんなことになるんだ」
「こんな強い護衛がいるなんて聞いてねえっ!」
後ずさって話をする冒険者たち。結構タフだな。店を壊したくないので俺も手加減したが、こいつら自身もBランクにしてはかなり鍛えてある。
こんな手練れの冒険者が女の子一人を狙う理由、ますます気になってきた。
「が、ガアアアアアアア!」
その時後ろから
振り返ると、最初に突き飛ばしたAランクリーダーの姿が変わっていた。全身の筋肉が膨れ上がり、髪は逆立ち、目は赤く血走っている。
足元には薬瓶が転がっていた。わずかに残った薬の色を見るに、あれは鬼人化薬だな。
「あーあー、物騒なもん使っちゃって」
鬼人化薬は筋力など攻撃系のステータスを3倍にするが、寿命を縮める諸刃の剣だ。
仲間の冒険者たちもこれは予想外だったのか、騒ぎ出す。
「あの薬を使ったのか!? 体が保たねえぞ!!」
「しかたねえ。ルチアーナ誘拐に失敗したら、俺達の身だって危ないんだ」
「あいつの覚悟を無駄にするな! 隙ができたら俺達も突っ込むぞ」
「ガ、ガアアア……! オマエラ、オレがコイツをヤル。アト、タノム」
やれやれ、なんだか悲壮感ある戦いになってきた。
とはいえ、鬼人薬を飲んだAランク冒険者の相手はさすがに
「しかたない。俺も指輪外すか」
俺は右手に嵌めているパワー制御の指輪を
コトン。
すると、冒険者たちにステータスを見れるやつがいたらしく、目を見開いた。
「ば、バカな!!? おっさんのステータスがいきなり跳ね上がったぞ!?」
「嘘だろ、あの強さで手加減してたってのかよ」
「グ、グルアアアアア!!!」
鬼人化したリーダーが突っ込んでくる。俺はそれを両腕で受け止めた。
ダンプの突進を食らったような衝撃が身体に走る。衝撃で足元の床が抜けた。しまった。床も張替えだ。
「ちくしょう、内装費高いんだぞぉぉ!」
「ガ!? ガアアアアア!!?」
俺はリーダーを持ち上げると、頭から地面に向けて叩きつけた。リーダーは床に突き刺さり、犬神家みたいな格好になる。
仲間の冒険者たちが驚愕した。
「鬼人化しても敵わないのか!!?」
「う、うそだ、なにかの間違いだ……」
俺は振り返って告げる。
「さて……、後はお前たちだけだな」
「「「ひ、ひいいいいいい!!!」」」
◆
「やれやれ、とんだとばっちりだ」
「「「うう……」」」
襲ってきた冒険者たちを片付けて店の外に積み上げる。俺はパンパンと両手についたホコリを払った。
謎の女の子ルチアーナが、その光景を見てつぶやく。
「すごい……」
ソラちゃんも感心したように拍手していた。
「さすがマスター、やりますね〜」
「ま、はきだめ横丁に店を構えている以上これくらいはな」
「マスター結構強いですよね。喫茶店やるより冒険者の方が向いてるんじゃないですか?」
「はっはっはっは、俺は冒険者をやる気はないよ」
今はもう、な。
冒険者たちは縛り上げて、一旦店の裏に転がしておく。ここははきだめ横丁、すぐに警察が来てくれるような場所ではないのだ。
通報を済ませ片付けを終えて、改めて俺はルチアーナと向き合う。
「さて、流れで助けちまったが、あんたにも聞きたいことがある。ルチアーナとか呼ばれていたな。一体何者だ?」
俺が冒険者たちを倒したのは店に危害を加えたからだ。ガラの悪い連中ではあったが、あいつらが悪者だと決まったわけでもない。
さすがにここまで関わっては、事情を聞かないわけにいかないだろう。
ルチアーナはやや緊張した様子ながらも、口を開いてくれた。
「こんな事になったのだもの、説明しないわけにはいかないわね。まずは助けてくれたことに礼を言うわ、ありがとう。……私はルチアーナ・ド・メルポート。ここロワール王国の隣りにあるシュヴァン公国の、メルポート伯爵家の長女よ」
俺より先にソラちゃんが仰天した。
「えええ〜〜〜〜っ!!? 伯爵家のお嬢様!?」
「事情があって身分は隠していたの。ごめんなさいね」
「いえいえいえそんな。ひえ〜〜、私貴族のお嬢様って初めて見ました」
「貴方おもしろいわね」
ルチアーナが手で口元を隠してころころと笑う。なるほど貴族的仕草だ。ソラちゃんは、ひえ〜と顔を赤くして黙り込んでしまった。
後をついで俺が尋ねる。
「それで、シュヴァン公国の貴族のお嬢様がどうしてこんな場所に?」
「それは……」
ルチアーナは最初言い淀んだものの、やがて意を決したように頭を上げた。
「私はシュヴァン公国の第一王子ナイジェル様の婚約者だった。だけどナイジェル様毒殺未遂の嫌疑をかけられて、国を追放されてしまったの」
「王子と婚約者? 追放?」
「毒殺!?」
俺とソラちゃんが同時に声を上げる。にわかに話が物騒になってきた。
マジで国家規模の事件と関わりがあったとは。ソラちゃんの勘も捨てたもんじゃない。
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