第38話 ランボーと谷川俊太郎と藤本タツキ
詩人の谷川俊太郎が亡くなった。享年92。
パリ・コミューンの大乱から数年後にアルチュール・ランボーが『地獄の季節』を発表した。
ランボーは17歳だった。
太平洋戦争が終わって七年後、谷川俊太郎は詩集『二十億光年の孤独』を発表した。
谷川は当時19歳だった。
この二つの故事から自分は「天下を揺るがす大乱のあとに、必ず十代の超大型詩人が誕生する」という妙な確信を持った。
だから東北大震災のあとも「これから十代の詩人が出てくるんだろうな」とひそかに期待して見守っていた。
しかし今回出てきたのは詩人ではなく、十代でもなかった。
出てきたのは二十代の若き漫画家藤本タツキだった。
初めてチェンソーマンを読んだとき
「自分が待っていたのはこれだ」
と確信した。
瓦礫の描き方に妙にリアリティがあるので作者は震災の被災者だろうなとも思った。
のちの短編集『17-21』で、藤本は山形の美術大学に通っていて被災したとあと書きに綴っている。
そのときやったボランティア体験を藤本はこう書いている。
『土を袋に入れ、トラックまで運ぶという作業を一日しましたが、側溝の土を全て取り除く事ができませんでした。30人くらいで一日中やったのに全然できなかった事に無力感を感じ、帰りのバスの中でも皆沈んでいました。作業中一緒に作業していた体育大学の学生が「俺達が来た意味なかったですね」と言っていました』
名文である。
大乱のあとに大器が登場する伝統は、こうして守られた。
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