グリム兄弟
鷹山トシキ
第1話
俺は英和辞書を読んでいた。
grim(恐ろしい、最上級)
GRIMM(グリム兄弟)
どっちもスペルはグリムだ。
俺は友人から聞いた話を思い出した。
ある村に、恐ろしい兄弟が住んでいた。兄の名は斎藤直次、弟は斎藤直樹と言った。彼らは小さい頃から仲が良く、どこへ行くにも一緒だった。しかし、村の者たちは彼らを恐れていた。兄弟は、暗い過去を持ち、村の周囲で奇怪な事件が起きるたびに、その影に彼らの存在が囁かれていたからだ。
兄の直次は、冷徹で計算高い人物だった。彼は言葉少なに周囲を見渡し、誰も気づかぬうちに物事を動かしていた。直次の目は、まるで他人の心を見透かすかのように鋭く、彼の前では誰も嘘をつけなかった。
一方、弟の直樹は、兄とは対照的に無邪気で、子供のような振る舞いをしていた。しかし、その無邪気さの裏には、異常な残酷さが隠されていた。直樹は動物を弄ぶように、人の心を弄ぶことを楽しんでいた。彼は人々の弱点を巧みに見抜き、無意識のうちにその人を追い詰める言葉を口にしていた。
村では、兄弟に関する噂が絶えなかった。ある時、村の若者が彼らの家に近づいたが、それ以来彼の姿を見た者はいなかった。また、夜中に兄弟が山に向かう姿が目撃されることもあった。彼らが何をしているのかは誰にもわからなかったが、村人たちは彼らが何か邪悪な儀式を行っているのではないかと囁いていた。
兄弟の家は、村の外れにある大きな岩のそばに建っていた。その岩には古くからの伝説があり、かつては神聖な場所とされていたが、今では誰も近づかなくなっていた。岩の周りには奇妙な気配が漂い、そこに足を踏み入れた者は、決して無事に帰ることはなかった。
ある晩、村で最も勇敢な男が、兄弟の家に潜入する決意を固めた。彼は家族を守るために、兄弟が何をしているのかを突き止めようとしたのだ。男は夜の帳が降りるのを待ち、そっと兄弟の家に忍び込んだ。
家の中は、意外にも静かで平穏だった。男はゆっくりと階段を登り、二階の部屋へと向かった。すると、突然背後から冷たい声が聞こえた。
「何をしているんだ?」
振り向くと、そこには直次が立っていた。彼は冷ややかな目で男を見つめていたが、次の瞬間、部屋の奥から直樹が現れ、楽しそうに笑い声を上げた。
「遊びに来たのかい?一緒に遊ぼうよ!」
男は逃げようとしたが、兄弟の目から逃れることはできなかった。直樹は男に近づき、無邪気な声で囁いた。
「どうして怖がるの?僕たちはただ、君を歓迎しようとしていただけだよ」
その言葉を最後に、男の意識は闇に飲まれた。翌朝、村の者たちが男を探したが、見つけることはできなかった。ただ一つ、兄弟の家のそばの岩に新しい傷跡が刻まれているのを見つけただけだった。
それ以来、村人たちはますます兄弟を恐れ、決して彼らに近づくことはなかった。兄弟はその後も静かに村に住み続け、彼らの家に訪れる者は二度と戻って来ることはなかった。
そして、村は次第にその存在を忘れていったが、夜になると、遠くから兄弟の笑い声が風に乗って聞こえてくることがあった。彼らの伝説は、村の者たちの心に恐怖を植え付け続けたまま、語り継がれていくこととなった。
グリム兄弟 鷹山トシキ @1982
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