少しずつ死ぬ病と君と僕。

林 林

プロローグ1「人生に夢をみれたなら」

僕は夢がない、或いは夢をみれない。

 世界は終焉を迎えても尚咲く一輪の花があるというが、それになるにはとてつもない争いと希望を勝ち取ったもののみ。

 そこに参加する権利すらも所有しない僕は所有権を握るため、夢について考えていた。

「——ねぇ後輩くん、もしも夢が実現できるとしたら何がしたい?。」

 百瀬戀先輩のその問いは一見簡単そうに見えるが、僕にはとても難しい難題である。

 故に口籠もってしまう。

「うーん、私だったら長く行きたいかな?こんな病気患わなければよかった。」

「先輩……」

「本当に何で『少死病』なんてあるんだろうね。」

 先輩は『少死病』という病を患っている。

 それは遺伝性が高く、死と相対して戦わなければならない病気。

 発症後五年には死ぬとされる原因不明の治療方法のない人類の敵とも言える病。

 そんな病を患って先輩ももう四年が経つ。

 来年には死を決定づけられた人間なのだ。

「知りませんよ、親がそうだからじゃないですか?」

「そうだね、それもあるお父さんが私が5歳の時に亡くなったし。現在進行形の母子家庭、けっこーつらいねー」

「よくそんなに軽々しく言えますねそんな重い話。」

「どーせ死ぬんだし、もう何言ったっていいよ。別に何したって悲しんでくれる人だっていないし、できることも少ない。人生が終わりみたいな状況で何すればいーんですかねー?」

 その言葉に心底腹が立った。

 人生は一度きり、輪廻転生だの生まれ変わりなど色々言われるがそんなのこの人生ではないし記憶だって残らない。

 ならば今を楽しむほかないのだ。あくまでも自身の感想だが、生きていて楽しいと思えることが充実した人生であり、生きる希望になるのだ。

「そんなこと言わないでください!まだたくさんできま……」

 いい終わるその前。

「何でそんなこと言うの!私だって生きたいし、沢山いろんなことしたい、けど、時間がないの。あと一年で何ができるの?何もできないでしょ……」 

 先輩から零れ落ちる大粒の雫。

 手で拭っても尚流れるその様はまるで喧嘩をした後の子供だ。

「じゃあ、やりたい事をリストにして、できそうなのをやりましょうよ!そうすれば悔いのない人生をおくれますよ!最後は楽しみましょうよ!」

「後輩くん……君はずるいよ、私をこんなに想ってくれて、考えてくれて、叱ってくれて、楽しましてくれる。本当は生きたくて仕方ないし、死だって怖いよ、毎日毎日死へのタイムリミットの砂時計がみるみるうちに落ちる気がして、命が減るという恐怖に怯えながら過ごすんだよ?でも後輩くんがいるから今まで身を投げ出さずにやっていけた。」

 先輩は眼を腫れさせながら僕という存在に向かって、"相談"をしてきた。

「ならもっとそばにいますから!恐怖に怯えたら隣で寄り添いますから泣きそうになったら胸をかしますから、楽しくなったら一緒に盛り上がりますから。」

「なら聞いて、————後輩くん。私は君が好きだよ。何なら結婚だってしたいし子供だって産みたい、けどそう考えるたびに涙が溢れて、これ以上いると本当に生きたくなっちゃう——」

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