〜Ⅰ-Ⅱ〜突然の来訪者

『和の魔界』と人々が呼ぶ、平和を重んじる国があった。

その魔界の統治者である魔王は名を愁円という。

争いを嫌い、諍いが起きても平和的解決を望む男だ。


執務室の机に山積みになった書類(主に国民からの依頼書・嘆願書など)に目を通して、必要な書類に捺印するのが愁円の主な仕事だ。

捺印された書類を纒めるのは秘書のナハトという男である。

ナハトが書類を纒め、または国民などから書類を集めて愁円の机に積み上げる。


その日、机に積み上げられた書類が漸く半分に減った頃。

突然、大きな地震のような揺れが世界を襲った。

揺れは一分間程続いてから止まった。


「ナハト、焔丸(ほむらまる)、烏丸(からすまる)、怪我は無いか?」


愁円は近くに居たナハトと側近の焔丸・烏丸の安全を確認する。


「オレは大丈夫です」


ナハトが散らばった書類を掻き集めながら答える。


「おれも大丈夫だなー」

「僕もだ」


焔丸と烏丸も無事を伝える。


「国民の安全確認と、他にも異変が無いかトキの部隊に調べさせろ」

「了解だなー」

「承知した」


愁円の指示に、焔丸と烏丸が直ぐに行動に移る。

その二人の背中を見送り、愁円は執務室の窓から外を眺めて見た。

何処となく、嫌な予感がしていたからだ。


(何事も無ければいいが…)


―――――


数時間後。

愁円はトキが持ち帰って来た情報に、キャパオーバーを起こしそうになる。


『今まで何も無かった場所に『道』が出来ており、その道の先には国がある』

『その『国』の住人らしき人を見付けたので、話を聞いて見た』

『その人曰く、その『国』は『洋の魔界』と呼ばれる『魔王ライナー』が治める国のようだ』

『魔王ライナーがどういう人物か聞いたが、数々の国と戦争を起こし、勝利を手にし続けている』


「魔王ライナー…どうにも俺の思想とは相反しているな…。嫌な予感がする」


窓から外を眺めて愁円が呟く。

そんな中、執務室にトキの部隊の夕星(ゆうづつ)という男が飛び込んで来た。


「愁円魔王、繋がった『道』から人がこちらに向かって来てるんだなー。数は二人だけど、片方は見た目からしてお偉いさん…下手したら魔王ライナーかも。もう片方は護衛みたいな奴なんだなー。どうする?」


夕星からの報告に、嫌な予感が的中したかもしれない、と愁円は眉間にシワを寄せながら答える。


「取り敢えず、王の間まで連れて来て欲しい。但し、戦闘などになりそうな場合は焔丸と烏丸を呼べ」

「わかった」


愁円の答えを聞くなり夕星は踵を返していく。

そんな彼の背中を愁円は不安そうに見送った。

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