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@azuma12
第1話 僕の救世主、そして転校生。
X−6年6月〜:相沼優志
周りと違うということは良く言えば個性ではあるけれど、その個性の全てが受け入れられるわけではない。僕はいわゆる社会不適応な個性を持っていたようで、周囲に煙たがれていた。
小学生になるといじめにあった。傘で突かれたり、仲間外れにされたり……。自分ではどうして煙たがられているのか、自分の何がいけないのかなんてわからなかった。でも、とりあえず僕が彼らを不快にしていることだけはわかった。だから、僕は彼らの暴力を受け入れるしかなかった。
いつだって何を言われているのかはわからないけど、ペコペコ頭を下げて謝った。それしか、僕に出来ることなんてありはしない。
当たり前のように班決めでは、周りの人たちは僕に「要らない」「来るな」と怒ったり、「ぼっちじゃん」と嘲笑した。
この日も僕は独り取り残されていた。小学5年製の、修学旅行の班。みんなはすぐに仲の良い友だちに声をかけているが、僕は売れ残りになるのを待つだけだった。
「優、こっちの班入れよ」
そんな中、たった一人だけ僕に優しく声を掛けてくれる人がいた。
「え、へーちゃんマジで?」
「優がいても困らねーだろ」
「まぁ、そりゃあそーだけどさ」
「お願い! な?」
彼が僕を入れようとすると、彼と同じ班の人たちは一度は眉をひそめる。でも、結局みんな「へーちゃんが言うなら」と受け入れてくれる。
「優もこっちの班でいいよな?
「う、うん! ありがと、へーちゃん」
僕がお礼を伝えると、へーちゃんは僅かに眉間にシワを寄せた。でも、すぐにニカッと笑う。
その笑顔は太陽のように眩しかった。
へーちゃんは、保育所から一緒だった。
僕が保育所時代からなかなか人の輪に入れないのを見て、よく声を掛けてくれた。
内気な僕と違って、へーちゃんは活発な少年だ。スポーツもできて、勉強もできる。それから、自信に満ち溢れていて周りから慕われるような少年だった。おまけに、顔が整ってる。地毛が金髪でキラキラしているし、快晴のように澄んだ青い瞳で、高学年になれば女の子にモテていた。
僕とは生きている世界が違うへーちゃんだけど、僕が困っていれば気付いて手を差し伸ばしてくれた。輪から溢れる僕を輪に引きずり込んでくれるし、無視もしない。遊ぼうと声を掛ければ一緒に遊んでくれた。
僕はそんな彼を誰よりも慕っていた。心の底から「凄いね!」なんて言って目で追っていたのだった。へーちゃんは「スゲェだろ、俺は強いんだ」といつも白い歯を見せた。
「お前マジでキメェよな!」
「っ」
そろそろ小学校も卒業を迎えるという時期、ようやく雪も降る頻度が減り、雪かきのお手伝いから解放された頃だった。
同級生の正義くんは、突然僕の頭を叩いた。衝撃によろけると、正義くんの友だちの類くんが足を引っ掛けてくる。僕はバランスを崩して無様に転んだ。
クラスの大半にいじめを受けていたけど、学年が上がるごとにその人数は減っていった。理由は、へーちゃんが僕を庇ってくれたからだ。彼はハッキリと「いじめなんてかっこワリィからやめろよ」とクラスの人たちに言ってくれていた。発言力もあるし喧嘩も強いへーちゃんに言われると、大半の人は逆らえなかったのだろう。
その結果、いじめをしてくる人たちは減り、へーちゃんの腰巾着のような人たちが増えたのだった。へーちゃんは来るものを拒まない性格だから、僕へのいじめをやめてへーちゃんと仲良くしたがる同級生たちを受け入れた。今では彼らとへーちゃんが楽しく遊んでいるのもよく見かける。
だから、僕をいじめてくる人は正義くんとその取り巻き数人だけになった。
「お前くせぇんだって!!」
「ご、ごめん……」
「ごめんじゃねぇーし! お前のせいで学校がくせぇんだからよぉ!」
正義くんが拳を握る。僕は訪れるであろう痛みに耐えようとグッと目を瞑った。
「またやってんのかよ、懲りねぇなぁ」
「あっ」
そのとき、呆れたような声が耳に入る。
待ち望んでいたその声に顔を上げると、へーちゃんが目を細めながらこちらに来てくれる。困っているときに登場するなんて、ヒーローそのものだ。
「正義さぁ、そんなに優いじめて楽しいのかよ」
「うるせーな! 平和こそ、ヒーローごっこして楽しいかよ!?」
正義くんはへーちゃんのことも目の敵にしており、キッと目をつり上げた。正義くんも類くんも、へーちゃんに喧嘩で勝ったことがない。正義くんは闘志を燃やしているようだが、類くんはへーちゃんの登場に顔をひきつらせた。
「ヒーローごっこって……それやってたの幼稚園の頃じゃん。もうやってねぇよ」
「うるせぇ! 今日こそ!!」
正義くんはターゲットを僕からへーちゃんに変えて殴りかかる。へーちゃんは正義くんの拳を避けると、正義くんのお腹に蹴りを入れた。
「うっ」
「正義くん大丈夫!?」
うずくまる正義くんに、類くんが駆け寄る。へーちゃんはそんな様子を見て、困ったように頭を掻いた。
「ワリィ、変なとこ入った?」
「お前卑怯だぞ!! 手加減しろよー!!」
「いや、先に弱いものいじめしてたのお前らだろ……」
不幸にも給食の後の昼休みだったために、お腹を蹴られた正義くんはそこで嘔吐してしまう。それを見てへーちゃんも焦ったのか大きな声で「先生!」と叫んだ。
廊下のはじっこにいたけれど、よほどへーちゃんの声が大きかったのか、誰かが呼んでくれたのかすぐに先生が駆けつけてくれた。
正義くんを保健室へ連れていき、廊下を掃除し終えたあと、へーちゃんが先生に訳を話して僕は開放されたが、へーちゃんと類くんは職員室に連行された。
「あ、へーちゃん、さっきはありがとう……その、ごめんね」
「何が?」
しばらくして職員室からへーちゃんが戻ってきた。僕が泣きながら謝ると、へーちゃんは目を丸くする。
「だって、へーちゃん……僕のせいで先生に怒られたでしょ……?」
「いや、俺が蹴ったのが悪いからいいんだよ。それより昼休み終わっちまう! 俺、ヒマワリ行ってくる!」
「ヒマワリ?」
ヒマワリというのは特別支援学級だった。ヒマワリには同じ学年の女の子が在籍している。僕はあまり話したことがないけれど、へーちゃんは仲が良かったのだろうか。
「先生にピアノ教えてもらってんの!」
「あ、そうだったんだ」
「優も一緒に来るか?」
「いいの?」
「いいって! 急ご!」
へーちゃんが明るい笑顔で僕の手を引いてくれる。
そのまま早歩きでヒマワリの教室に向かった。
ヒマワリではちょうど女の子が先生にピアノを教えてもらっていた。彼女はへーちゃんに気づくとパアッと笑う。
「へーちゃん来たんだぁ」
「昨日行くって言っただろ? あ、先生! 俺にも教えて! あと優も!」
「はいはい。もう、平和は元気ねぇ」
特別支援学級には、僕らの教室にはないオルガンが置いてあった。へーちゃんはどうやらそこに惹かれてヒマワリにたまに来ていたらしい。女の子も、へーちゃんが来てとても嬉しそうだった。
僕も、オルガンなんてまったくできないけれど彼がいるだけで楽しかった。少しうまく弾ければ「すげぇじゃん!」と褒めてくれる。うまくできなくても「難しいよなぁ」と共感してくれて、一緒に練習してくれた。
自分を否定されないことが、とにかく嬉しかった。
僕にとって、それがどんなことよりも奇跡に感じた。
「へーちゃんは、凄いね」
「え?」
帰り道、僕が一緒に帰ろうと誘うとへーちゃんは承諾してくれた。実は、僕は入学してから集団下校みたいな強制イベントを除いてへーちゃん以外の同級生と下校すらしたことがない。そう考えると1年生の時に一緒に帰ってくれていたお世話係の6年生が何だか尊く感じてしまう。彼らはもう高校生なのかと思うと、感慨深い。
「へーちゃんはスポーツもできるし、テストもいつも百点だし、友だちも多いし、凄いね」
思ったことをそのまま伝えると、へーちゃんは眉間にシワを寄せた。あまり、嬉しくないようだ。
彼は、ありがとうと感謝されたり褒められてもあまりいい顔をしなかった。それがどうしてなのか僕にはわからなかったけれど、聞くこともなかった。
「別に、フツーだろ」
「そんなことないよ! だって、あとさ、絵も上手だし習字も上手だし、あと歌もうまいし! それから……」
「優、あのさぁ」
へーちゃんが何か言いかけて、やめる。彼は僕の背後に目を向けていた。
「どうしたの?」
彼の視線の方向に目を向けると、そこには黒猫が座っていた。首には鈴がついているから、飼い猫なのだろう。
「へーちゃん、猫好きなんだっけ?」
「うん」
へーちゃんが猫を見る目を細める。
「そういえばさ、ここずっとさ、近所で猫の死体が見つかるって話あったよね。確か猫の生首とかあったんだっけ」
僕が親から聞いた話を何気なく言うと、へーちゃんは猫を見ていたキラキラした目を据わらせて僕を睨んだ。
「何で今、んな話すんだよ」
「ご、ごめん」
「……別にいいけどさ……」
へーちゃんは、また猫に視線を向ける。猫はゆっくりと立ち上がり、僕らの向かう方向とは逆の方向へトボトボと歩いていった。
「猫、見れてよかったね」
「うん」
僕の言葉にへーちゃんはニコリと笑う。それから僕らはゲームの話をしながら家に向かった。
X−6年3月〜:相沼優志
ちょうど、小学校の卒業式のあった日だった。
へーちゃんのお父さんが交通事故で亡くなった。へーちゃんと、彼のお兄ちゃんと剣道教室から家に帰る道で飲酒運転の車に轢かれたのだ。
僕もご近所でたまにおじさんには会っていたからと、お母さんに連れられてお葬式に参列した。
オドオドしているへーちゃんのお母さん、泣いているお兄ちゃんとは対照的に、淡々としているへーちゃんに僕は首を傾げる。
「悲しくないの?」
「悲しかったら泣かなきゃいけねーのか?」
「そういう訳じゃないけど」
僕をへーちゃんはじっと見つめていたが、やがて不敵に笑って見せた。
「いいか、優。つえー奴は悲しくても、痛くても、泣かねーんだよ。まあ、お前みたいな泣き虫にはわかんねーか」
「へーちゃんは泣かないの?」
「泣かねーよ。つえーからな」
へーちゃんは特に強がる素振りも見せず、当たり前のことのように言い張った。
自信に満ちたへーちゃんが、やっぱり僕には太陽のように眩しく見えた。
それから数日後、へーちゃんは引っ越した。挨拶もなく、突然の引っ越しだ。
いなくなる2、3日前までへーちゃんとは普通に遊んでいた。家にゲームがないへーちゃんと我が家で一緒にゲームをしたし、僕の10歳離れた妹とも遊んでくれていた。
最後に会った日、手紙をくれた。今まで僕が催促して僕が嵌っているゲームのキャラクターの絵を描いてもらったりはしていたけど、へーちゃんが自発的に物をくれるのははじめだった。
「……大人になったら読んで」
へーちゃんは何故かそんなことを言った。そのときの笑みは何だか歪で、彼らしくなかった。でも、彼への違和感に言及することは出来なかった。
そして、それが彼との最後の思い出になった。
僕は手紙の中身が気になりつつも、彼の言うことを守ることにした。本当は中学校で「どういうこと?」って聞こうと思っていたけど、彼が同じ学校に来ることはなかったから手紙の中身はお預けだ。
周りの大人たちは、へーちゃん一家について色んな噂をしていた。へーちゃんとお兄ちゃんはいないのに、へーちゃんの家にはお母さんは残っている。それが不思議だった。
「そういえば、猫……」
中学生になってから、小動物の死体が出ることがなくなった。数年間、たまに近所を騒がせていたその事件は、へーちゃんたちが引っ越してから一度も噂になることはなかった。
「猫殺してた犯人捕まったの?」
久しぶりに家でのんびりしている警察官の父に聞いてみる。
お父さんは片手にコーヒー、片手に新聞を持ちながら僕の方を鬱陶しそうに見た。その冷たい瞳に少し萎縮するけれど、家族なのだから雑談くらいしたっていいはずだと自分に言い聞かせる。
「捕まってない」
「そ、そうなんだ……。じゃあ反省してやめたのかなぁ」
僕がよほど見当違いのことを言ったのか、お父さんは大きな溜息を吐いた。わざとらしい溜息にビックリして思わず肩が上がる。親にまで怯えてたら、僕はこの先どうやって生きていくのだろうと自分で自分が心配だが、どうしようもない。
「犯人は死んだ」
「死んだ?」
「優志も知ってるだろう? 明星航一だ」
「明星って……」
明星というのは、へーちゃんの名字だ。彼のお父さんが航一という名前なのかは僕は知らないが、「死んだ」というのならきっとそうなのだろう。ちょうど、猫の事件が終わる時期に、へーちゃんのお父さんは事故死した。
つまり、猫を殺していた犯人はへーちゃんのお父さんってことだ。
お父さんは頭の回転が遅い僕を眼鏡越しに睨んでいたが、やがて新聞に目を移した。12年親子をしてきたのに、僕とお父さんはあまり良い関係性とは言い難い。
まぁ、警察官をしている立派な父にとって、鈍臭い息子なんて理解し難いのだろう。父の言う「やれば出来る」を、僕は出来たことがない。お父さんが僕のことを「育て方を間違った」とお母さんに話していたのを僕は知っている。
「へーちゃん、知ってたのかなぁ」
猫を見つめるへーちゃんを思い出す。温かい目をして猫を見ていた彼は、きっと事実を知ったら心を痛めるのだろう。
「へーちゃんって、平和くんのことか?」
「え、あ、うん。明星平和くんだよ」
「……その平和くんも随分と喧嘩早い奴だったらしいな」
「……け、喧嘩はしてたけど……でも……」
「さすが、犯罪者のガキだな」
へーちゃんのする喧嘩は、基本的には僕や誰かを守ってくれる為の喧嘩だった。へーちゃんが自分から喧嘩を吹っ掛けることはなかった。僕がいじめられていたり、主張出来ない子が困っていたら介入してくれる感じだ。だから、喧嘩早いというのは少し違う気がする。
お父さんは「ふん」と鼻を鳴らして一人で何かを納得したようだった。僕は、へーちゃんを馬鹿にされているような気がしてモヤモヤしたが、やはり何も主張出来ない。
お父さんとの会話は途絶えたので、僕はトボトボと2階にある自室に向かうことにした。階段を上がる前に3歳になったばかりの妹に舌っ足らずに「おにぃたん」と呼ばれた。
妹に抱っこをせがまれ、僕はすっかり重くなった彼女を抱っこする。妹はそれだけで嬉しそうにキャッキャと笑う。
「優志、お母さん買い物してくるから心春のことお願いしていい?」
「うん。心春、お兄ちゃんとお絵描きでもしようか」
「うん!!」
中学でもいじめは続いている。へーちゃんがいなくなって、いよいよ味方は一人もいなかった。
親には相談出来なかった。お母さんは妹の子育てに忙しいし、お父さんは仕事が忙しい。家族のことが大切だからこそ、家族の負担にはなりたくなかった。
自分が耐えるしかない。
泣きたくなるときもあるし、逃げたいときもある。正直、死がチラつくときもある。
でも、僕はその度にへーちゃんと過ごした日々を思い出す。僕に唯一「一緒に遊ぼう」と声を掛けてくれて、唯一「仕方ねぇなぁ」と手を差し伸べてくれた。
彼に、少しでも報いたい。だから、逃げ出したくない。
僕はその一心で、明日も生きるんだ。
僕の世界は、彼で彩られていた。
X年6月1日:相沼優志
高校に入り、2度目の夏がきた。
僕は、家から通えるが地元の中学生があまり進学しないという理由で、片道1時間の新徳高等学校に入学した。中学でも正義くんたちのいじめは続いていたが、何とか通い続け卒業できた。へーちゃんがいなくなってから、結局友だちと呼べる存在は一人もできなかったが、それでも意地だけで登校し続けた自分は凄いと思う。そこだけが自分の誇りだった。
高校でも、僕は一人ぼっちだ。でも、高校には正義くんはおらず、他の人たちもいじめをすること自体が面倒臭いのか、誰一人僕に構ってくる人はいなかった。遠くから囁かれる嫌みは聞こえていたが、聞こえないふりをして絵を描いていた。
そんな、何一つ楽しくない高校生活がダラダラと続いていたが、高校生活2度目の6月に転機が訪れる。
「転校生を紹介する。自己紹介してもらえるか?」
「双郷平和です、よろしくお願いします」
「みんな仲良くするように。双郷、あの一番後ろの席な」
「……はい」
派手な金髪に青く澄んだ瞳。珍しい名前。
僕が間違えるわけがない。
僕の救世主だったへーちゃんこと平和くんが、僕の目の前にいた。もっとも、僕の知る彼の名前は明星平和だったが、お父さんが亡くなってお母さんの旧姓になったのだろう。
約4年ぶりの再会に、僕はソワソワして彼が席に着くまで目で追ってしまう。
へーちゃんは僕の視線に気付いたのかチラッと僕を見たが、すぐにそっぽ向いてしまった。
昼休み、僕は教室の角に座る彼に声を掛ける決心をした。
それまでは転校生であるへーちゃんに色んな人が興味を示し、ホームルーム終了後から休み時間になる度に色んな人たちが彼に声を掛けていた。へーちゃんは眉間にシワを寄せながらテキトーに聞かれたことに答えていたが、休み時間になる度に質問攻めをされて苛ついたのだろう。昼休みになった瞬間、自分の机の上にわざと大きな音を立てて足を乗せ、周りを威嚇した。その結果、誰もが無言で彼の周りから離れて行ったのだった。
それは、僕にとっては好機だった。本当はすぐにでも声を掛けたかったが、みんながへーちゃんに寄るから近づくことすらできなかったのだ。でも、今なら二人きりになれると思い、僕は思いきって彼に声をかけた。
「えっと、へ、へーちゃ……平和くん……僕のこと覚えてる?」
へーちゃんは、目を細めて僕を睨んだ。僕の救世主であった彼は、見た目は完全に柄の悪い少年へと成長を遂げた。学校指定のワイシャツは第二ボタンまで開けており、ズボンも腰パンしており長い足が実際よりも短く見える。
「相沼優志」
「覚えててくれたんだね! ありがとうへーちゃ、えっと平和くん……」
覚えていてくれたことに嬉しさが込み上げて、自然と口角が上がる。そんな僕をへーちゃんは睨んだままだ。
「呼び方なんて興味ねぇ、好きに呼べばいいだろ」
「え、あ、うん。じゃあ、へーちゃんって呼ぶね。あのさ、へーちゃん」
「俺はお前に用はねぇぞ」
へーちゃんはそれだけ言うと、ガタッと席を立ちポケットに手を入れながら教室を出て行った。僕は、へーちゃんがいないのにへーちゃんの席に取り残されてしまう。
「なんか……雰囲気変わったな……」
太陽のように笑う人だった。決して人を遠ざけたりする人ではなかった。常に誰かと一緒にいて、楽しそうにしていた。それが、あんなにも冷たい雰囲気になってしまったなんて……。
まあ、4年も経ったんだ。変わるのも当たり前か。
僕は溜息を吐いて席に戻った。
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