TS美少女の超多元宇宙旅:魅惑の回廊都市
うどん魔人
プロローグ
プロローグ
俺が目を覚ますとそこは、上も下もない白い空間だった。
どうも、目を覚ましたと思ったらそこも夢の中のようだ。
何故かこの夢の中で、キャラクターを作らなければならない、そんな気がする。
残りポイントがわからないが、ポイントを割り振りキャラクターの特性を買う、それがこの夢のルールなのだ。
俺は婚活に失敗したトラウマから美少女性にこだわるようになった。
だから、せっかくなので俺は究極にして至高の美少女を作ろう。
外見は美少女の原型、不思議の国のアリスと白雪姫に゙ならい見た目七歳金髪碧眼。
五感すべてのみならず全てにおいて人智を超越した魅力を持つよう、全力で念じて注げるまでポイントを注ぎ込み魅力特性を買う。
美少女の美少女性が決して失われないよう、考えつくあらゆる特殊事象に耐性を付け、再生能力とかいろいろ付ける。
不老不死で、特殊な効果に対して無敵だが普通に殴って縛ってコンクリ詰めで無力化可能な美少女となった。
究極で至高の美少女を飾る特性もいくつか買う。
何か、デフォルトで既に買われている特性も2つほどあった。
そして残りのポイントの使い道は、キャラクターの本質を反映した異能が買えるそうなので、全部それに使う……最初は内容がわからず覚醒するまで潜在能力扱いというオプションを付けポイント割増。
これで完成を念ずると、夢が終わり目を覚ます感覚がした。
俺が目を開くとどうにも目に映るものと自分の体の感覚に違和感がある。
ここは俺が寝た部屋ではないようだ。
身を起こす。
視界に自分の手が入る、がおかしい。
記憶にある俺の手ではない。
月並みに表現するならすべすべの透明感のあるつややかな白い肌の形の良い手。
が、きちんと表現しようとすると言葉がおかしくなる。
コズミックホラーというジャンルの元祖とも言える作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの生み出したクトゥルフ神話作品のような表現になってしまうのだ。
俺の手は地球の通常の物理学ではありえないスペクトルの、色だけで美しいありえざる白い色の、この色と質感のただの平面を見ているだけで見とれてしまうだろう美しい肌をしていた。
形もまた素晴らしい。
これもまた通常のユークリッド幾何学に基づいてる造形物にはありえざるといえる未知の幾何学による名状しがたいほどの凄まじい美しさの手の形だ。
爪一枚だけでもいつまでも見ていたいと思わせる。
爪の色合いもまた、常識的な表現だと健康的で綺麗な桜色であるが、これも正確を期して表現するなら、通常の物理学では説明のつかないスペクトルの、その色と質感の平面を見ているだけで恍惚となる美しさで、その形もこれまた未知の幾何学によらないないとありえない美しさだ。
自分の手を見た俺は動きをそのまま止め、瞬きすることすらするのが惜しいと、手のありえざる美しさに見とれた。
この手の美しさを見つめることは至福とすら言える。
自分の手のあまりの美しさに思わず俺は自分の片手でもう片方の手に触れた。
なんという手触りだろうか。
絶妙としか言いようのない至高のすべすべした感覚。
人間の知っているいかなる表面の物体全てでこのような触感をもたらすものはおそらくありえない人知を超えた未知の素晴らしい感触だ。
適度な弾力のある、気持ちの良い柔らかい感覚。
あまりにも心地の良い、ただの温度の高い低いの感覚刺激とは思えない、感じているだけで幸せな気分になる体温の温かさ。
触覚に感じられる至福に両手を顔に近づける。
かすかに手の匂いが嗅覚を刺激する…。
意識を至高の恍惚へと導く芳香!
俺の手から漂う芳香は、世界のいかなるシェフの料理もいかなる調香師の香水も足元にも及ばないだろう。
この人知を超えた芳香を無理に科学で説明したいなら、俺の肌はヤバい麻薬作用のある物質を空気中に放散しているとしか思えない。
…、どんな味がするんだろうか…。
嗅覚へのあまりにも素晴らしい刺激に耐えられず、ついつい自分の手を舐めた。
凄まじい、人知を超えた美味が俺の舌を襲った。
味覚というのは甘味、塩味、酸味、苦味、うま味からなる、嗅覚と比べれば単純な感覚のはずだ。
これらの味をどのような強さでどのようなバランスで刺激しようとこれほどの至福は決してありえないはず。
実際には見た目も食感、温度、匂いも美味しさの構成要素であるが、俺の手は見た目も舌触りも体温も匂いも全てが人を至福の絶頂に導くので、あとの問題は舌に感じる味だけである。
5種類からなる味覚への刺激というだけでは説明のつかない素晴らしい未知の味。
強いて言うなら甘みに近い。
「あああああ…」
俺はついに感嘆のあえぎ声を漏らした。
そして固まる。
人で言えば幼い女の子の声なのだが、現実に絶対に有り得ないと断言できる、理解できる限界を超えた愛くるしさと美しさを兼ね備えた声なのだ。
もしこの声で歌など歌ったらどうなってしまうのか想像もつかない。
その魅力のあまり、そのままどれほど固まっていたか。
自分で自分に恍惚となり陶酔しているなんて馬鹿みたいじゃなかろうかという自意識のツッコミが俺をかろうじて正気に戻し、顔から手をはなし視線を無理やり引き剥がした。
俺はどうなってしまったのだろうか。
思い出すのは目が覚める前のキャラクターを作る夢だ。
俺の作った究極で至高の美少女は美しさも匂いも声もさわり心地も盛れるだけ盛っていた。
俺の手と声はまさにそれだった。
もしかすると俺は自分で作った美少女なのだろうか。
夢の中で作ったのは自分自身だったのだろうか。
鏡はなくとも、確かめるのは難しくない。
自分の股間をまさぐる。
…、ない。
あきらかに男性のシンボルがなくなっているのがはっきりと分かる。
今の俺の体は女の子なのだ。
これは夢の続きなのだろうか。
いや、あり得ない。
夢と言うにはあまりにも現実的だ。
思考もはっきりしている。
そして自分自身から感じられる絶対的に非現実的な美と魅力は、夢の中とはいえ人間の想像できるものではない。
絶対に想像できない非現実的な美と魅力こそ、これが逆説的に夢ではなく現実であることの証左なのだ。
周囲を見渡す。
白を基調とする壁と天井。
白のシーツと掛け布団。
窓には白いカーテン。
清潔な印象で調度は少ない。
イメージとしては病室だ。
自分の体はこれもまた病院で入院患者が着ているような淡い色の簡素な寝間着を着ているようだ。
ここは病室らしい。
誰かが眠ったままの俺を病室に運んだ。
俺がたぶん、自分の作った美少女になっているのも…、鏡を見てないからまだ美少女と決まったものでもないが…、それに関係があるのだろう。
手だけでもアレだったのに、自分の顔を鏡で見たらどうなるのかちょっと怖い。
病室ならナースコールの類があってもいいはずだが。
後ろを振り返ると枕元にコードに繋がれたボタンがあるのでこれかもしれない、
ボタンを押す。
おそらくはほどなく誰かがきて状況を説明してくれるだろう。
やがて部屋の外から慌ただしい足音が聞こえ、ドアが開かれた。
入ってきたのは看護師と思しき女性だった。
そのままの姿勢で彼女は固まる。
目は大きく広がり、息が荒いようだ。
その視線は俺の顔を見つめ、僅かにも動かない。
少し待ってもそのまま動かないままなので声をかけることにする。
「あのー? すみませーんー?」
舌と声帯が元の体と異なるためか語尾が伸びる。
俺の声には似合って入るが。
ヤバい。
語彙が乏しいがヤバい。
自分で自分の人知を超えたとてつもない美声に聞き惚れそうになるが、二度目なので、俺は自分自身に耐えやすくなっているようだ。
彼女にとっては違う。
俺の声が耳に入ったらしい彼女の体はビクリと震えた。
再び固まる。
埒が明かないので、ベットから立ち上がり彼女に近づき服の端をひっぱる。
彼女は驚くほど長身に感じられるが、たぶん俺の体は外見年齢7歳程度の美少女になっている可能性が高い。
彼女の背が高いのではなく俺の背が低いのだ。
もちろん触れるのは服だけだ。
彼女の肌には触れないよう注意する。
俺の手触りのよさもまた、人知を超えた、この世のものにはあり得ざる素晴らしさであることは自分で確認済みだ。
「あ、ああ…、大丈夫。もどってきたわ…。ごめんなさいね、あたしったらお仕事中なのに、固まっちゃって。貴女が姿も声も美しすぎるから…」
彼女は正気を取り戻したようだ。
「いえ、問題ありませんー」
「体に異常を感じたりしてない? 痛いところとか無い?」
「大丈夫です。健康そのものですー」
俺の体に異常は感じないが、長年慣れ親しんだ体と今の体は手足の長さも体重もことなるので、動きは少しぎこちないと思う、が問題ない。
「だったら、私は貴女の身に起こったことを説明してくれる人を呼んでくるから少し待っててもらえるかしら」
「はい…、あ、鏡ありませんかー?」
自分が夢で作った、究極で至高の美少女になっているということの最終確認がしたい。
「この部屋にはないから手鏡を持ってこさせるわ」
彼女は如何にも、意志力を絞り出している感じの動作で俺から視線を引き剥がし部屋から出ていった。
次に入ってきたのは…、オーラとしか言いようのないものがある、何かの制服に身を包んだ美女だった。
年齢は20代後半程度だろうか。
スレンダーでさきほどの看護師さんと思しき女性より背が高い。
『オーラ』という言葉を使ったのは、何と言うか彼女を見たら誰もが『仕事ができまくる女!』という印象を抱くんじゃないだろうか、と思わせるからだ。
きっと偏差値80とか90以上ある大学を出ていて、年収は億円くらいある超巨大多国籍企業の幹部社員とか、そんなのに違いないと理由もなく確信を持ってしまうぐらいの高学歴バリキャリオーラともいうべき雰囲気。
気圧されたが、彼女も先程の看護師さん同様固まったので、先程と同じようにして話を進めることにした。
「さて、わたくしの名前はアルフォート・ラプチャーです。ラプチャーが姓ですのでラプチャーとお呼びくだされば。まずお名前を聞いてもよろしいですか?」
まだ鏡を見ていないものの俺の見た目は7歳の女の子だと思うが、ラプチャーさんは先程のたぶん看護師さん(女医さんかもしれんが)より丁重な話し方をしてきた。
「あ、わたしは時夢・未来(ときむ・みらい)ですー。時夢が姓ですー」
7歳の女の子は俺なんて言わないものであるし、仕事の場では一人称はわたし、にしていた。
公私はわける、わりかし仕事ができないこともないくらいの男だったのである、俺は。
今は女の子だが。
これからは究極で至高の美少女らしく、脳内独白の一人称も「わたし」にして万が一にもボロがでないようにしたほうがいいかもしれない。
そうしよう。
今から俺は脳内でも「わたし」なのだ。
「それでは時夢さん、貴女に状況を説明する前にいくつか質問させていただきます、まず…?aslkduremoat amsoeimcmas mmoitoeisure?」
ラプチャーさんはいきなり、わたしの知らない未知の言語を話したが、わたしにはそれにかぶさるように訳が意識に浮かび、脳内にスマホの翻訳ソフトがあるような感覚で意味がわかる。
「?aslkduremoat amsoeimcmas mmoitoeisure?」の意味は「わたしの今の言葉がわかりますか?」の意味だ。
脳内に謎の翻訳ソフトが有るのならこちらの話し言葉も望めば翻訳されるのだろうか。
「mseiteー」
できた。
わたしは日本語で「わかりますー」と答えつつ、ラプチャーさんの使用した未知の言語に訳されることを望むと、舌と声帯が勝手にそう動いた。
「ふむ、万能翻訳能力はお持ちのようですね。手間が省けるでしょう」
何の手間なのかは知らないが、キャラクターを作る際、最初から買ってあった万能翻訳能力を消してポイントを増やそうとかしなかったことは正解のようだった。
「さて、次に貴女は、ここで目覚める前と比べて肉体がかなり、あるいは全く変わっていたりしていないですか?」
「はいー、目覚める前と全然違いますー」
中年といえる男性だったけど今は女の子だ。
「貴女の故郷は地球と呼ばれていませんでしたか?」
「はいー、地球人でー、日本人ですー」
その質問ははまるでここが地球でなく、彼女が宇宙人か何かのようなものだったが正直に答える。
「そこに魔法・超能力・その他異能・特殊能力等はありましたか?」
「ないですー」
そのようなものは幻想である。
「貴女のその色々と超越した外見や声の魅力は強力な異能と言えるものですが、他に異能をお持ちではありませんか?」
「えーっとー、怖いからあまり確認したくないですが様々な特殊効果に耐性があると思いますー。でももしそんなの気の所為だった場合、試して怪我でもしたらこわいですー」
夢を思い出すなら、わたしの残りポイントは全てわたしの本質とも言えるべきものを反映した何かに使われたはずだが、わからないけど自分にはすごい何かが眠っていますとか発言したら、ただの中二病患者だと思う。
それにわたしに本当に何かがあっても、今のところ潜在能力で使えないしどうやったら覚醒するかもわからない以上無いと同じようなものなので、これは黙っておく。
「質問に答えていただきありがとうございます。貴女は全裸で眠っていたところを発見された経緯も含めて今までの質問により『到達不能地球』からの転移者であると判断します。それでは貴女の状況を説明いたしましょう…、もっともこれからの内容には仮説も含まれていますが」
「まずここが何処かという説明から入りましょう。ここは超多元宇宙間回廊都市シャイタンパーです。超多元宇宙に存在する無数の多元宇宙の間を結ぶ狭間ともいえる、さまざまな特別な性質を持った特別な世界に存在する交易都市です。そしてこの部屋はシャイタンパー中央病院の一室です」
「超多元宇宙とはいったいなんですかー」
物理学者が多元宇宙論を提唱しているのは聞いたことがあるがその前に超をつけるとはいったいなんぞや。
「まず、宇宙というのはたいてい複数存在し、多元宇宙を構成します。多元宇宙の法則はさまざまです。ある多元宇宙は無限次元であり、宇宙は無限次元の中に無限に存在する3次元の膜として存在します。また、別の多元宇宙では無限次元ではなく8次元空間に未知のパターンで宇宙が散らばっています」
「我々の知っている中では最大と言える多元宇宙は3次元の宇宙が無限に4次元空間に存在し、その4次元空間は5次元空間に無限に存在し、…とアレフヌルまで繰り返し、そのアレフヌル超空間もアレフワン超空間に無限に存在して、そのアレフワン超空間もアレフワン+1超空間にと無限に繰り返しアレフツー超空間に到達し、という過程を延々と繰り返しやがて絶対無限超空間、すべての集合のクラスというべきものに至るというまさに超巨大というべきもので、これより大きな多元宇宙もあるかも知れないですが想像できません」
宇宙は大きく、それが集まった一つの多元宇宙ですらとてつもなく大きく、それらが集まって構成される超多元宇宙が如何に大きいのか強調するためだろうか、長い説明だ。
「ラプチャーさんがわたしの故郷を到達不能地球と考えた理由は何ですかー?」
「それについては『究極の答えの力』について説明しなければなりません。正式には『なぜ何もないのではなく、何かがあるのかという究極の問いに対する究極の答え』なのですが長いので略しています。この問いの答えを理解できるものはおらず納得の行く答えは決してできません。理解はできなくともその力を人であれば誰もが潜在的に持っていると考えられております。正確にはエネルギーではないので、力というのは不適切かもしれませんがわかりやすいので力という言葉を使っています」
「もし異なる多元宇宙間を移動することがあった場合、異なる多元宇宙の法則下では存在を保てず死に霊魂は消えます。シャイタンパーのある世界に来ることができるのは力が十分な者で他の多元宇宙に移動しても存在していられる者だけです」
「この力が他の多元宇宙での生存が許されるほど強くなくとも、たとえば精神力とか根性とか言われているもので変え難い運命を変えるなど奇跡的なことができると言われており、これが閾値を超え、他の多元宇宙でも生存可能になった者たちのことを仮に『答えの力の覚醒者』と呼んでおります。わたくしも時夢さんも、もちろんその中の一人です」
「まず、時夢さんは転移した者が良く現れる場所に全裸で発見されています。肉体も転移前とまったく変わっていますが、これは到達不能地球からの転移者の特徴なのです。到達不能地球からの転移は魂、あるいは何か不滅のエッセンスのみで行われ、転移先でその本質や理想に基づき『究極の答えの力』で器を作り出しているという仮説が立てられおり、元の肉体は死亡していると考えられています。到達不能地球にこちらから赴くことは不可能であり、それ故到達不能という言葉が冠せられております」
地球のわたしの体は死んだのか…。
わたしの理想と本質が反映されるプロセスがあの夢という形をとったのか。
親より先に死ぬ不孝をしてしまった。
たしかわたしは就職の際いろいろ保険に入っている。
そのまま、適用の機会がなかったため契約内容は覚えていないがわたしが死んでいたら保険金の受取人が両親にならないだろうか。
それなら少しは不孝が償えるだろう。
地球のわたしの部屋でわたしの死体を見つける人には悪いことをしたな。
「到達不能地球からの『答えの力の覚醒者』は大変強力な異能を持っています。これは到達不能地球は『究極の答えの力』があっても使えず異能も魔法もない抑圧された世界であり、それ故に住人は皆強力な『究極の答えの力』を持っていると考えられ、その中でも一際強力な力を持つ者が『答えの力の覚醒者』として転移するのではないかと言われ、その有り余る力で有用で強力な特性や異能を新たに獲得するからと言われております。時夢さんの美貌と耐性は非常に強力であるのも到達不能地球の出身と推察した理由です」
情報量が多い。
ちょっと一息つこう。
20ポイントで完全記憶力を買ったおかげでラプチャーさんのいままでの話は全部覚えているが、話を理解するスピードが増したわけではないのだ。
「あ、あのー、ちょっとお話しの情報量が多いので一旦頭の中で整理したいですー。鏡を持っていたらかしてただけますかー? ちょっとお話しを休んで自分の姿を確認してみたいですー」
「あ、手鏡は用意してありますのでどうぞお使いください。身だしなみの確認は大切ですからね」
手鏡を見るとそこにあったのは、月並みに表現するなら抜けるような透明感のあるつややかな白い肌、ほんのりバラ色に染まった頬、ツヤツヤでプルプルの美しいピンク色の唇。宇宙の深淵を思わせる深く澄みきった碧眼、金の絹糸を思わせる髪の毛、顔のパーツの配置も大きさも完璧の超絶美少女という言葉の前にいくつさらに超を付ける必要があるのか見当もつかないほどに美しく可愛らしい、7歳くらいと思われる少女の顔だった。
もちろんわたしの体なので、どこもかしこもユークリッド幾何学ではありえず未知の幾何学ならばありえる、人知を超えた造形美とこれもまた通常の物理学では説明のつかない未知のスペクトルによるとてつもなく美しい色合いの現実ではありえないレベルの美しさであることはもうわざわざ言わなくてもデフォルトだ。
自分の手をみることで耐性がついたのか、固まった時間は初めて自分の手を見た時より短くて済んだ。
自分で自分の美しさに固まるなんてバカみたいだ。
わたしはその間にラプチャーさんの情報量の多い話をだいたいのみ込んだ。
「さて、そろそろお話しに戻っても大丈夫でしょうか」
「はいー、お願いしますー」
「時夢さんがこれからこの都市でどうなるかといいますと」
今まで聞いた話を整理するに、地球でのわたしはたぶん死んでおり、地球に戻る方法もない。
であるなら、ここシャイタンパーで生きるしかないというのは道理だ。
「都市運営としましては都市運営機構に登録されたトラブルシューターとなることを斡旋することができます。都市運営機構に登録された何でも屋ですね。なにしろ、この都市には多種多様な文化を持つさまざまな異世界から来た異能を持った住人が多いため、トラブルに対応するのに行政サービスだけでは間に合わないがままありまして。有用あるいは強力な異能を持った人物にはまずオススメできる職です。他の仕事に就いても構いませんが。都市運営は一週間くらいは暮らせる一時金を支給しますし、なんならお金を良心的と言える低金利で貸すサービスもあります」
「とはいえ、これは時夢さんにメリットのある話です。福利厚生の一環で頑丈に作られた寮があるから住居をさがす手間も仕事探しの手間も省けますよ」
なるほど、これは大きなメリットだ。
わたしは自他ともに認める活字中毒者だ。
本に囲まれていればわりと幸せな人生が送れるだろうと大学では図書館学を学んだ。
就職の第一志望はもちろん図書館だったが、その夢は破れた。
当時の政権は公務員の求人とかを削りに削ったのだ。
かといって接客業はかなりなブラックが多いとも聞いていたため、書店員になるのも躊躇した。
独立開業で書店を開く資金もないし、ネット通販や電子書籍の影響で現実世界の書店は斜陽となったことを考えると書店員にならなかったのは正解といえるだろう。
しかし、幸いにも母校のコネもあったためか私大職員に採用がかなったのだ。
ネットがガス電気水道レベルのほぼ必須インフラとなった令和日本の世。
ネット環境を維持さえすれば、無尽蔵の活字が読める。
令和日本はネットに接続する時間があれば活字中毒者がいくらでもその欲求を満たすことができる良い世の中なのだ。
ネットが普及し当たり前のものとなる前の時代においても日本は出版も盛んで図書館もある。
そのため夢破れても地球でのわたしの人生は概ねうまく行っていたといって言い。
その後の挫折も婚活失敗の結果、美少女性へのこだわりという性癖が生えたことくらいか。
とはいえわたしの本質と理想を反映させたのが今の究極で至高の美少女の姿ということは、婚活失敗はただのキッカケで実は生まれたときから隠されていた性癖ということもあり得ることだ。
そうだ、この都市にネットはあるのだろうか。
これも後で聞いておかねばならない。
このシャイタンパーで就職を目指す場合、日本での職歴学歴資格は通じないだろうし、実際右も左もわからないところでは履歴書を用意することすら難しいのである。
仕事を斡旋してくれる…わたしにとってなんと魅力的なお話しだろうか。
だがトラブルシューターになるという選択をする前に聞いておきたいこともある。
「ありがたいお話だと思いますー。でもお受けする前にいくつか質問させていただけませんかー?」
「もちろん、どんな仕事をして口を糊するのかは重要ですね。お好きなだけどうぞ」
「わたし、日本では図書館学を学んだ経験があるんですが、図書館職員の求人とかないでしょうかー」
「この都市にも図書館はありますが、今のところ職員はそのための異能をもった者達だけで構成されていたはずです。人手不足という話も無いですので図書館学の知識だけでは時夢さんが就職するのはむずかしいかと」
就職できないのは残念だが、活字中毒者として図書館があるのは朗報だ。
「私立大学職員の職務経験がありますがそれを活かして就職することはできそうでしょうかー?」
「この都市の大学職員はかなり条件の良い待遇であり退職者が出ることはほぼなく、都市住人は寿命を持たないので定員に枠が空くことは滅多になく難しいでしょう。それに時夢さんが勤務なさってた大学とこの都市の大学にどれほど共通点があるか解りかねますので、職務経験が大して役に立たない可能性もあります」
なるほど、日本で身につけたことを活かすという方針は捨てよう。
ここでは夢で得られたもので世間の荒波を乗り越えるのだ。
「わかりましたー。それではトラブルシューターにならせていただく方向でお話しを進めていきたいですー。でもその前に質問させてくださいー。トラブルシューターになるデメリットと、わたしがトラブルシューターになることによる都市運営のメリットについてですー」
「デメリットは特に無いと思われます。危険な依頼も時にはありますがトラブルシューターにはペナルティ無しに依頼を拒否する権利がありますから。強いて言うなら基本給の低さですが、依頼による賞与で埋め合わせられますし、チームに与えられる事務所での待機時間に依頼がなければ副業で稼ぐことと、民間がトラブルシューターに直接依頼することも認められています」
魅力的だ。
「運営側としては、時夢さんの美貌と魅力のように強力な異能の持ち主をトラブルシューターにすることは大抵の場合長期的に利益を齎します。この都市では多種多様な文化と異能が混在するので、行政のサービスで対応しきれないような事柄がしばしば発生するのです」
「わたくしは仕事柄、故郷で美を司る女神だった方にも会ったことがありますが、時夢さんの美しさには遠く及ばないでしょう。時夢さんと対面して会話するだけで傷ついた人の心は癒やされ人に姿を見せるだけで功徳、善行というものです。どんなに美貌の度が過ぎて生活に支障をきたしてもそれを隠して生活することはおすすめしません。持つものは持たざるものに与えるべきです。時夢さんが美しさを隠すのは罪です」
ラプチャーさんは真面目な顔をしてわたしの美貌と魅力を褒め称える。
自分が自分の作った究極で至高の美少女になったということはある意味、自分自身が自分の理想の存在になったということで、今、わたしが日本に二度と帰れない運命を比較的あっさりと受け入れていられる理由でもある。
理想を褒められて嬉しくないわけがない。
わたしはラプチャーさんの称賛を喜んで受け止めた。
「到達不能地球の出身者を都市運営の管理下に置くことは治安上必要でもあります」
わたしはラプチャーさんの提案を受け入れトラブルシューターになる決意をした。
この身の美貌を武器にこれからの人生を切り開くのだ。
そして様々な手続きを受けた。
自己申告で異能や特性と特技、技能を述べる。
最初は、『本人も知らない使い方もわからない異能や特性が他にある可能性がある』というのは中二病患者とか誇大妄想とか思われそうなので黙っているつもりだったのだが、到達不能地球の出身者は強大な異能や特性を持っているものだそうなので納得してもらえるだろうと申告した。
実際これを聞いたラプチャーさんの言は「時夢さんが到達不能地球の出身なら大いに有り得ることです」というものだったし。
履歴書なんてものは、詐称にならない限りで盛れるだけ盛るものなのである。
耐性等は、わたしが本当にあるかどうか怖いので確かめたくはないと言うと、異能や特性が他にもあるかも知れない可能性と一緒に安全に確かめる方法があるとのことだった。
この都市の住人にはゲームよろしく生き物に実際に『レベル』や『能力値』や『ステータス』がある世界の出身者もいるらしい。
『レベル』とはキャラクターの総合的な有能さを数字等で示し、『能力値』とはゲームのキャラクターの基本的な能力をいくつかの項目に分け数字等で示したものであり高いほどよい。
『ステータス』は『レベル』や『能力値』の他、『今までになし得た功罪』『備えた技術』『特性特質特殊能力』等を言語化したものも含むそれら全てといったところだ。
これらの要素が現実のものである世界は、そうでない世界から見るとゲームじみて不自然なようだが、今確認されているところでは全て世界や人間を創造した神が実在し、かくあれかしと世界と人をその様に創造したそうである。
そしてそのような世界には往々にして『鑑定』と総称される能力が存在してステータスを知ることができたりする。
自分のステータスなら『鑑定』なしで知ることができる世界もあり、自分のステータスを見るのは『ステータスオープン』と呼ばれる。
『答えの力の覚醒者』は『究極の答えの力』に余裕があれば自分の故郷の法則を他の世界に押し付け、あるいは異なる多元宇宙では得られないリソースを代替し、自分の故郷で使っていた魔法や超能力や異能を使うことができ、さらに余裕がある者は転移の際新たな異能を獲得することもある。
もっとも、『究極の答えの力』が不足していれば逆に弱体化するそうだが。
『鑑定』の原理は世界によりさまざまだが、これにより異なる多元宇宙でも使用可能となり、相手が『ステータス』が実在しない宇宙の出身者相手でも、ある程度情報を得られるのだ。
ちなみに数字やランクはあまり当てにならない……例えばレベル4と5の間に、大きな能力差がある法則の世界もあれば、そんなに違わない世界もあり、能力値は世界によって項目も数字の基準も異なる。
そのため鑑定者の主観でどんな感じかと感覚を問うたほうがわかりやすく、ステータスが実在しない世界の出身者を鑑定すると数値が上手く出てこない場合も多いそうである。
閑話休題。
都市運営機構の『鑑定』の能力を持ち職員に申告の真偽を判別してもらった結果、申告事項に間違いはなかった。
わたしに潜在するらしい何かはどんなものか鑑定でもわからなかったが、ある事は間違いないとも。
この申告も、わたしがどんなトラブルシューターチームに入るのかを決めるのに重要な参考資料となるのだ。
病院の病室を病気でない人間にいつまでも使わせておくことはよろしくないということで、わたしの身は病室から都市の宿泊施設に移ることになった。
都市運営から支給された、量産品の女児向け下着と子供服に着替える…下着は白のキャミソールと白のパンツ、上着は白のブラウス、ボトムは赤のミニスカート、白いソックス、履くのはサイズをあわせる都合上、白の子供用サンダル。
ラプチャーさん曰く「わたくしが選ばせていただきました。時夢さんの超越的な人知を超えた美貌なら何着ても問題ないでしょうからまあ、適当に」
ちなみに服の代金も宿泊施設の宿代も都市に転移したばかりの新住人に支給される一時金から差っ引かれるそうな。
なんでも、『答えの力の覚醒者』はその有用性や大小は個人差が大きいものの、異能を持っているものであり、たとえ使える異能を持っていなくとも異なる多元宇宙間を移動しても存在を保てる特性はそれだけで得難いものであり、犯罪に走るようなことをせず都市の秩序を守ってくれるなら、人口が増えることは都市にとって有益であるため、転移してきたばかりの新住人への一時金の支給や低金利での生活費の貸出などは人道とかを考えなくても充分に元の取れるローリスク・ハイリターンな投資とみなされるんだそうだ。
いずれにせよありがたい話である。
さて、病室から宿泊施設に移る際になんというか、いろいろあった。
具体的に言えと?
そう、わたしを見た人すれ違う人、全てが皆、さまざまに顕著な反応を示すのだ。
ある人は目を見開き呆然と立ち尽くし、そのままわたしを一心不乱に凝視しつづけた。
わたしを見つめ、滂沱と涙を流す人もいる。
おそらく歓喜の声らしい雄叫びというか、歓声というか「うぼぉぉぉぉぉぉぉ!!!」と声を張り上げる人もいた。
他の人は、そのまま顔だけわたしの方に向けたまま平伏し、おそらくは崇拝と思われる祈りを捧げてきた。
地面に倒れ伏し痙攣しながら恍惚とした表情で、顔だけわたしの方を見つめたままの人もいた。
わたしを見た人の反応を列挙すると、いつまで経っても終わらないのでこの程度にしておこう。
「あのー、なんだかすれ違う人がみんなすごいアクションをするんですけどー」
「時夢さんの美と魅力を目の当たりにした人間の、ごく自然な反応でしょう。お気になさらず」
「…、実際、全裸で倒れている時夢さんの周りには、その美しさのあまりに呆然とした住人たちの人だかりができていました。奇妙な人だかりができていると通報を受けた都市運営のスタッフも時夢さんをみて固まり、再起動して任務を遂行するため本人曰く、今までの人生で最大の意志力を振り絞ったそうです。病院のスタッフが時夢さんを診察する際も、パジャマを着せる際も何しろ時夢さんを見ただけで人は固まりますので、後の語りぐさになるくらいには大変だったみたいですね」
「かくいうわたくしも、今、時夢さんから目をそらして職務を遂行するのに精神力を振り絞っております。許されるなら時夢さんを見つめながらひざまずき、その美しさに全力で崇拝の祈りを捧げたい気持ちでいっぱいなのですよ」
いろいろ夢で盛りまくったからね…。
ここまでとは思わなかったが、明晰夢から覚めるまでの暇つぶし位の感覚で、自分自身のキャラクター作りとは考えてなかったので仕方ない。
とりあえず、交通事故だけは起こさずわたしは無事宿泊施設にたどり着くことができた。
チェックインの際も受付さんが固まったりいろいろあったが、わたしはここで配属が決まるまで過ごすこととあいなった。
シャイタンパーの時間で2日が経過した。
といってもシャイタンパーの存在する大地は無限平面と考えられていて、太陽は空の一点から動かず常に昼なのである。
ちなみにこの都市には季節も天候の変化もない。
いつでも春の穏やかさだそうである。
昼しかなく季節もない、天候も常に晴れのこの街だが、シャイタンパーはわたしの住んでいた到達不能地球と同じ一日24時間を採用しておりシャイタンパー歴では1年365日である。
到達不能地球は超多元宇宙にある多元宇宙の中でも特別な世界とされるため、参考とされたのだそうだ。
暇つぶしも兼ねて何度も読み返した、都市運営発行の冊子『初めてシャイタンパーを訪れた人のために』で読んだことである。
迂闊に外出したらまた、わたしの美しさのあまり、道行く人々を不用意に混乱に叩き込んでしまう。
配属先が決まるまでの待機時間の暇つぶしは必要なのだ。
今のわたしであれば、自分で自分の手を見つめてその人知を超えたとてつもない美しさに見惚れながら無限に時を過ごすことも容易いのだが、それはどうにもきっと傍から見たら馬鹿みたいだろう。
なお、わたしの宿泊する客室にはテレビもあるが、令和日本ではもはや骨董品のブラウン管だ。
番組はあまり面白くもない。
お金を払えばルームサービスで新聞も取り寄せられるそうで、『シャイタンパーの声』なる新聞を隅から隅まで読む。
この都市を知る足しになったと思う。
閑話休題。
わたしはいよいよ配属のチームに紹介されることとなった。
例によってラプチャーさんに案内され、事務所兼寮に案内されるのであった。
事務所兼寮は雑居ビルの中にあった。
事務所のある階の上がチームの居住空間になっているとのことだ。
通勤に面倒がなくてとても良い。
事務所の扉には『都市運営登録トラブルシューター:少女絢爛:事務所』と書かれたプレートが付いていた。
このチーム名で、なんとなくわたしがここに配属された理由がわかった気がする。
事前にメンバーの名前・写真・能力等を記した書類を渡されたし、きちんと目は通している。
わたしの写真と名前と申告した能力を記した書類もメンバーはすでに読んでいるはずだそうである。
だが、本人の口から自己紹介をしあうのは大切だ。
事務所の中では書類で見た3人のメンバーが待っていた。
「やあ、来たね。待っていたよ。既に私達のことは書類で読んでいると思うが改めて自己紹介と行こうか。私はジェラ・ルイーズ。ルイーズが姓だ。私達はチームになるのだし、ジェラと呼んでくれてもいいけど、仲間は私を博士と呼ぶ。ジェラでも博士でも好きな方で呼んでくれたまえ」
そう口を開いたのは、おそらくは歳は中学生程度に見える…、あまりにも美しい少女すぎて年齢の見当がつきづらいがまあ、無理に当てはめるならそれくらいだと思う。
髪は栗色でウェーブがかかったセミロング、瞳もブラウンだ。
日本の女生徒が着る制服のようなものに身を包んでいる。
それにしても美しい…。
『宇宙は無数にあり多元宇宙を構成し、その多元宇宙も無限にあり超多元宇宙を構成する』らしいが、彼女は宇宙一の美少女くらいの水準は軽く達成しているだろうと思わせる。
もしかしたら多元宇宙一かもしれない。
美の女神、いや、美の女神とか美の化身とか呼ばれる水準すら超えるんじゃないだろうか。
そしてそれは彼女だけではない。
他の2人も彼女と同水準のとてつもない超絶美少女。
そしてさらに加えて、自分で言うのも何だが、指先の爪一枚、髪の毛一本の美しさですらおもわず見惚れて人は至福の境地に導かれるわたしまでいる。
髪の毛一本というのは誇張ではない。
宿泊施設で待機しているとき、ちょっと思いついて、自分の髪の毛を一本指でつまんで試してみたのだ。
結果としてわたしは、髪の毛一本に、そのユークリッド幾何学を無視した未知の幾何学による線分による美しさと物理学で説明のつかないありえざるスペクトルの色彩と質感に深く感動し、意識は至福の三昧境へと達し、自分の髪の毛一本を凝視しながらちょっとの間固まっていた。
我ながらバカみたいな話である。
わたしは髪の毛一本ですら人知を超越した絶対的な、バカみたいな美しさを放っているのだ。
そんなわけで、この部屋は美少女がインフレして何かの限界を突破している不自然で異常な美少女インフレ空間だ。
この中に美少女を周囲に引き寄せる特性とか持っている人がいるんだろうか。
そんな特性は買わなかったので、それはわたしではないだろう。
まぁ、わたしは自分が女の子になった今も、好みの相手は美少女のままなので、結構なことだ。
「じゃあ、博士とお呼びしますねー」
「私の特技は…世界に私の考えた一見もっともらしいサイエンス・フィクション的な嘘理論を押し付け、嘘の超科学理論にもとづく超科学ギミックを制作し動作させることだ。押し付ける嘘理論がもっともらしければもっともらしいほど、大きな現象や世界法則を無視した現象をたやすく起こせる。まあ嘘理論にもとづくメカはたいてい私しか整備も修理も使用もできない事が多いし量産して普及させるなんて不可能だ。嘘薬学で作った薬もたいてい私にしか効かない」
一応支給された書類で読んではいた。
博士は、その発明したギミックが自分にしか使えないという制限があるとはいえ、マンガ的な超天才発明家なのだ。
「それにしても、写真であらかじめ知っていたとはいえ、実物のキミを目の当たりにすると凄まじいな…。私達は1日時間をもらって、キミの写真をひたすら見つめ続けてその圧倒的な美貌の猛威に自分たちを慣らしたつもりだったんだが。これでさらに美貌のあまりに恐怖を与えることもできるとは恐ろしい…」
わたしを見て固まらなかった理由だろう。
固まった人に声をかけて我を取り戻させることをうながす手間が省けてありがたい。
「さて、博士の次はワタクシでございますね」
博士の次にそう発言したのはメイド服姿の超長身な美少女だった。
年齢はよくわからないけれど18歳くらいだろう。
わたしは外見年齢7歳程の女の子の姿になったことで身長がかなり低くなっているのだが、それにしても彼女は驚くほど背が高い。
男性でも彼女に匹敵する身長の持ち主は、世界広しとはいえ、ほぼいないだろう。
それだけではない。
胸はたぶん片方だけで頭より大きい。
腰の高さが地球人とは異種族な驚きの高さで、ウエストの太さも驚きの細さ、股下から足元までの長さが身長の半分より長く、お尻はスカートの上からわかるすごい大きさだ。
頭身は14か15頭身くらいあるんじゃないだろうか。
彼女も博士と同じくらいの美しさだと思うが、博士とは異なりその魅力は性的魅力が占める割合が非常に多いと見た。
とはいえ多分、このレベルのぶっちぎった性的魅力だと男性のみならず女性であれ中性であれ等しく魅了するんじゃなかろうか。
髪は黒で瞳も黒だ。
わたしも外見年齢を18歳くらいにしていれば絶対的で圧倒的な性的魅力を放散できたんだろうか。
キャラクターメイクキングの際、7は美少女の年齢のマジックナンバーだと外見年齢を7歳に設定したが、外見年齢を7~18歳くらいまで変化させられるとか、そんな特性があれば探して買っておくべきだったんだろうか。
とはいえ今の自分の容姿に不満があるわけでもなし、それに今の美しさに圧倒的な性的魅力なんて加わったらどうなるかちょっとわからない。
たぶんこれでいいのだ。
「ワタクシの名はエミリーでございます。姓は、故郷では低い身分の出身のためございません。どうぞエミリーとお呼びください。メイドでございます。皆様からお給金と必要経費を出していただき、ここの寮母役を務めさせていただいてございます」
「それではわたしもエミリーさんとお呼びしますー。それではわたしもお給金はらいますので寮母役お願いしてもよろしいでしょうかー?」
わたしも自分ひとりの家事くらいはやっていたが、積極的に食器洗い機、ロボット掃除機、ヒーター乾燥のドラム型洗濯機といった最新家電をフル活用して労力をできるだけ減らしていた。
シャイタンパーで買えるかどうかわからない。
料理は…、得意料理はお金のない学生時代によく作ったもやしの牛脂炒め。塩コショウたっぷり。あと目玉焼き。納豆ご飯とか。
ほかにはレトルトをレンジで温めるとか?
プロに任せられるなら任せたほうが良さそうな気がする。
それに、他の皆が彼女に寮母をお願いしているのに、わたしだけしなかったら今後の人間関係に支障をきたすだろう。
「もちろんでございます。ワタクシの特技は魔法でメイドの掃除洗濯料理ができることでございます。ほかにはワタクシの故郷世界の平均的な魔法使いたちより膨大な魔力を持ち、魔法の秘奥義とも言える大秘術『真なる魔力の言葉』を全て習得しております。自慢めいて聞こえるかも知れませんが、ワタクシの故郷世界ではこれに勝るものは究極大呪文たる『願い』の呪文くらいでございます。使用する力が大きいため連続して使えないものの、発動させればさまざまな事態に柔軟に対処できるワタクシの切り札でございます。あとは強運でございます。ただの偶然ではなく、ある程度確率を都合よく操作できる異能でございます」
なるほど書類で読んだとおり。
『真なる魔力の言葉』は彼女の世界の魔法体系でも最高に属するもので、数十種ある、一つ一つが術者の思うがままに現実を歪めることほどの力を秘めた、軽々しく使用してはならないとされる秘技である単語『真なる魔力の言葉』を組み合わせ、言葉の意味するさまざまな現象を引き起こすというものだそうだ。
常人を超えた魔力を蓄積できる彼女ですら『真なる魔力の言葉』を組み合わせて使える単語数はせいぜい2,3。
組み合わせた単語の数にもよるが、一度使用すると蓄えた魔力をほぼ使い果たすため回復するまでしばらく使えないこのチームの切り札、と書類に詳細が記されていた。
「すごいですー。あれ? でもそれだけすごいならもっと偉い魔法使いになれるのではないでしょうかー。それともエミリーさんの故郷はメイドさんがとても偉い世界なのですかー?」
「ワタクシも男女同権で身分制度もないシャイタンパーに転移してから知ったのですが、故郷は男尊女卑と家父長制と身分制が支配する国でございまして。女性の地位は非常に低いのでございます」
だったらどうして魔法の秘奥義とも言える大秘術を身につけることができたのだろうかと疑問に思ったが、初めてであったばかりでそのようなつっこんだことを尋ねるのも失礼かもしれない。
ついつい思ったことを口に出してしまったが、今の質問も失礼に思われたかも知れない。
別に面接をしているわけではないのだ。
ちょっと反省。
「さて、次はボクかな?」
と次に口を開いたのは鮮やかな赤毛で瞳は金色、ショートヘア、タンクトップとホットパンツに身を包んだ、美しい褐色の肌の、生命力に溢れた印象を人に与える美少女だった。
美少女過ぎて彼女も年齢の見当がつけづらいが、日本で言えば高校生くらいではないだろうか。
彼女は圧倒的健康美とでも言うべき魅力を発散していた。
「ボクはルン・ムク。ルンが名前だよ。チームメイトになるんだから親しみを込めてルンと呼んでくれるとうれしいな」
「それではルンさんでー」
「ありがとう。ボクの特技は神仙道だよ。神仙道といってもわからない人のほうが多いから説明するけど、天・地・人の神秘的な力である気を練り己の心身を養う術で、素質のないものにはほとんど身につかないんだ。自分で言うのも何だけどボクは神仙と呼ばれる高みの域に達していて、老いも病も毒も完全に克服した完璧で丈夫な体とか、超人的な身体能力とか、天地の精気を食むことで飲食を不要となす技とか、気と呼ばれる神秘の力で意志力を強化して催眠魔法だの洗脳魔法だのに抵抗するとか、気の力で空を飛ぶとかいろいろ芸当を身につけてるよ。得意なのは身体能力の高さにまかせて敵を殴ることかな」
そう、書類にも書いてあったが彼女は超人の肉体を持っているのだそうだ。
ここまで美少女なのも神仙と呼ばれる高みに到達しているからなんだろうか。
このチームが戦闘するときの主戦力らしい。
「すごい素質をお持ちだったのですねー」
「まあ努力もしたけど素質もあったよ。ボクの故郷ではほとんどの人間が魔法の素質を持っていてね、皆魔法が使えるんだ。でもボクは魔法がまったく使えなかったんだ。魔法ありきの文明だからハンディキャップだね。だからなんとか人生を切り開くため、かわりのアドバンテージとなるかもしれない神仙道の修練に賭けたよ。素質がなかったら費やした時間が無駄になるだけだから、修練が実を結び始めて自分に素質が…、それも神仙の高みに到達できそうな素質があることがわかった時は嬉しかったよ」
「ふむふむー」
「それではわたしの番ですねー。わたしは時夢・未来。時夢が姓ですー。時夢でも未来でもお好きな方でお呼びくださいー。えーっと、そうそう特技は見た目の良さですー。後、見た目の良さを損なわないための耐性をいろいろと備えていますー。チームにどんな貢献ができるかまだわかりませんが、がんばりますので、よろしくおねがいいたしますー」
日本人の感覚では会ったばかりで名前呼びはなかなか距離が近いのだが、多種多様な文化が混ざり合うこの都市ではどうだかわからない。
「キミの耐性は事前に見せてもらった書類で読んだ。インチキじみた能力をことごとく無効化できるのに、ただ普通に殴ればキミを無力化できるとはユニークだ」
「殴られたくはないですがー」
「まあ未来ちゃんはボクが守るよ」
ありがたい。
「ところでキミは副業はどうする? このチームは皆副業を持っている。私はシャイタンパーの大学にさまざまな仮説を論文にして発表するのが副業だ。異能のせいで自分で実験すると結果がどうしても歪むので仮説の証明は他の研究者に任せている。プログラマーもしている。エミリーは自己紹介で言ってたがここの寮母役。ルンは気の力で人をいろいろ癒せるので、まあ癒し手としてお金を稼いでいる。説明は受けていると思うがトラブルシューターの基本給は非常に安いのだ。依頼がなければ待機時間だからしかたがないが」
「うーん、わたしまだこの都市に不案内ですし、取り柄は見た目くらいだし、何をしたものかー」
「そうだな、この事務所で喫茶室兼バーとかどうかな? キミの美貌は超多元宇宙の至宝だ。それを見つめ恍惚となりながらお茶や酒、軽食を嗜むのだ。きっと需要があるだろう」
「未来ちゃんなら、顔写真を宣伝ポスターに載せておけばきっと大盛況だね。どちらかといえば、お客さんが来ない心配より来すぎる心配をしたほうがいいんじゃないかな? いつ依頼があるかわかんないし当日予約制にして営業時間も短くして、料金も高く設定して客単価をあげようよ。大丈夫、未来ちゃんの美貌ならそれでもお客さん側にお釣りが来る価値があるから」
「あら、それではワタクシは、魔法メイドとして、口に入って飲み込めるものに使って、なんでも美味しく感じられるようにする呪文がつかえますので、料金を払っていただければかけてさしあげますわ。喫茶室兼バーのメインは時夢様の美貌ですから、飲食物は適当でもお客様には納得していただけると思いますが」
ただじゃないんだ。
まあ、あくまでエミリーさんではなくわたしの仕事だし。
仲間になるとはいえ、こういったことはきちんとしておくのは当然だ。
…、ってなんだかわたしが喫茶室兼バーを開業するのが当然の流れになっているけど。
とはいえ、わたしに何ができるかを考えるに、唯一の取り柄の美貌を活かそうとして博士が考えてくれたこの案はなかなか魅力的だ。
拒否してやりたい他の副業も別にない。
わたしはこの流れに乗ることを決めた。
職業:トラブルシューター。
副業:喫茶室兼バーのマスター、バーデンダー。
として、ここシャイタンパーで生きるのだ!
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