第6話 『テシガワラマリカ』
(
どうして認識の齟齬が生じているのだろう。湧き出る疑問を押しやり、案理は伝えるべきことをピックアップした。
「そうよ。あなたは当時、間違いなく時の人だった。事件発生から数日はしきりに報道されていたんじゃないかしら。一ヶ月が経過した時点で、ついでみたいにキャスターがお決まりの文言を並べていたけれど、そのあとはぱったり……。他の事件と同じでね…………」
――――『勅使河原茉莉佳さん(十四歳)が行方不明になって、今日で一ヶ月が経過しました。明るい性格でクラスのムードメーカーだった彼女は今、どこにいるのでしょう……』。
(彼らは伝達役なのだから、感情を込めたら必要のないものまで載ってしまう――というのは今だからわかることで、当時の私にはとても冷酷で不気味に感じられたのよね……)
沈痛な面持ちにそぐわない平板な声でニュースキャスターが台本を読み上げている場面が、案理の記憶には生々しく残されていたのだった。
「ふーん。そうなんだ~。……んで、あたしの行方不明事件が連日報道されてた頃から数えて、今は何年目?」
どこか他人事のように尋ねるマリカは、案理の言葉を信じていないのだろうか。
「ええと……。あの頃、私は中学生だったからちょうど三年くらいじゃないかと思うのだけれど」
「三年んん!? お隣サン、よくあたしのこと覚えてたね!??」
「たかが三年よ? 驚くほどのことでもないでしょうに。同い年の女の子だったというのもあるし、報道に使われていた写真がとても可愛らしかったからというのも無関係ではないでしょうけれど。……でも、実物は写真よりももっと素敵ね」
「ええ? あなたみたいな美人さんに言われてもいまいち信用できないというか……。でも、せっかく褒めてもらったのに否定したら失礼だよね。ありがと!!」
活動的な印象の彼女に笑顔を向けられた案理は、ひまわり畑にいるかのような錯覚に陥った。
「――――そういえば名前ってもう聞いてたっけ? あたしのことはマリカでもマリリンでもテッシーでもいいけど、短い付き合いになるかもしれないとしても『お隣サン』じゃちょっとアレだしね~。……あ、ラマやんって呼ぶ友達もいたかも! 忘れてただけだったら申し訳ないけど、もっかい教えてくれない?」
「まだ名乗っていないから大丈夫よ。私は
「おお~、
そのあと二人は一旦解散したが、夕方に『カレーを作りすぎた』と言って尋ねてきたマリカを案理が家に通し、朝の会話の続きに興じたのだった。
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