第5話 『勅使河原茉莉佳』
(声は聞き覚えがない。……ということは、やっぱり小さい頃遊んでいた子か読者モデルとか……?)
案理は失ったと思われる記憶の数々を追うのを半ば諦めてしまっていた。――尤も、彼女には他にも思い出すべきことがあるはずなのだが。
「
(さっきまでは寂しそうにしていたのに、『
長い睫毛に縁取られた瞳は、今ここにいないはずの愛する者の姿だけを映していた。しかし――――。
(…………『
案理の脳内には、決別したはずの違和感が再浮上してきた。
「彼とは出会ったばかりのような気もするけれど、ずっと昔からいたような気もして…………」
「ああ、いいね~。そうそう! そういうのが聞きたかったんだわ。『初めて会ったはずなのに、昔から知ってたみたいな気がする……!』、わかりやすく運命の恋って感じだし、羨ましいくらいラブラブじゃん♪」
「比喩なんかじゃないわ。本当に思い出せないの。……彼といつどこでどうやって知り合って、恋人になったのか……」
「ふーん。そうなんだ」
隣人の彼女は途端にトーンダウンした。甘酸っぱい話か際どい話を御所望だったのだろう。
「『ふーん』とは何よ。失礼ね。私、真剣に悩んでいるのだけど」
「ごめんごめん」
彼女が顔を向きを変えたことで、案理の記憶にあったある人物の写真との照合がかなった。
「……思い出したわ……!」
案理はつかつかと塀のきわまで歩み寄った。
「何を?」
「あなたのことをよ!!!」
「え? でも、あたしはお隣サンのこと知らないよ? あたしたち、今日初めて会ったと思うんだけど……」
大きな目は恐ろしい怪物でも見ているかのように右へ行ったり左へ行ったり細かく動き回っている。
「そうね。私たちが会ったのは今日が初めて。直接会うのも初めて。……でも、私はあなたのことを一方的に知っていたの。
写真では伝わるはずのなかった表情に目を奪われながらも、案理は朧気な記憶を手繰った。
「ニュースで? あたしを?」
「ええ。あなた、
三年前、全国的に行方不明事件が頻発していた時期があり、彼女は被害者のうちの一人だった。
(行方不明事件はなくなったわけじゃなくて、いちいち報道されなくなっただけだという噂も誰かから聞いたおぼえがあるけれど、もしかしてこの町は――……。ここに住んでいる人たちは――……)
お洒落な住宅が立ち並ぶ通りを一瞥した案理の背筋に冷たいものが駆け抜けていった。
「名前はそれで合ってる。あたしはマリカ。
案理の思考を遮ったのは、彼女の返事だった。
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