第2話 変な区域
「……私、
話題を探していた案理だったが、彼女の口は何者かに操られているかのように言葉を綴り出した。
(私ったら……。こんなことを言われても困るでしょうに。すぐに撤回して――――)
「んー? そんなん当たり前っしょ?
突拍子もない発言にも彼女は動じない。それどころか、両腕を広げ、その場で一回転してみせた。
「みんな?」
「そう! この住宅街ってさ、
華麗なターンは一回だけでは終わらなかった。二回、三回。四回目の途中で飽きたのか、彼女は動きをピタリと止めた。
「あなたもそうでしょうに、変って…………」
「変なもんは変でしょ~! 自分含まれてても変なときは変って言うよ? あたし、そんなに変?」
「……まあ、それもそうね……」
一文の中に何回『変』を捩じ込むつもりかと思いながらも、案理は自身の置かれた状況を受け入れつつあった。
「だから、アナタも当然ラブラブカップルの片割れ~ってことになるはずなんだけど〜……♪ さっき見送ってたのだって、ダンナかカレシのどっちかでしょ?」
彼女が口元に手を当てた際、大粒のダイヤモンドが光を受けて煌めいた。
「そ…………っ、そういうあなただって、この区域にお住まいであるからには、愛し合うお相手がいらっしゃるんでしょう? からかわれる謂れなんてないと思うのだけど?」
「まあね~♪ ここに来てからはずっと、あたしにメロメロなダンナくんと二人暮らしだよ♡♡」
「お幸せそうで何よりね」
「ありがと~♪ でも、変でしょ? みんな相手いるとかさ〜。ご都合主義な作品でもここまでしないって!」
(恋人でも友達でも、身近な人の仕草が移るのはよくあることよね。……同年代より年上のお姉様方に可愛がられているのかしら?)
大仰なジェスチャーを交えて話す彼女は、若いだろうにもっと上の世代のようだった。
「何が訊きたいの? 彼との関係は――たぶん、婚約者……なんじゃないかと思うけれど。あなたが聞きたいのは、彼との関係? どこまで行ったかとかそういうことかしら」
ケラケラという形容がよく似合う軽快な笑いに包まれながら、案理は揃いの指輪を隠すように指でつまんだ。当然だが、そのまま上に動かせばすぐに外せるそれを左右に捻ってみてもズレてしまうことはない。
(…………とは言っても、私はほとんど何も覚えていないし、期待に応えることは出来そうにないのだけど……)
いつからか左手薬指に嵌まっていた指輪は不自然に固まったまま定着してしまった記憶のようで、炎天下だというのに案理は小さく身震いした。
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