第10話 解かれた封印


「ああ、それもそうだった。嬢ちゃん、本当にねえ……。他のお客さんじゃあ、そうはいかなかったよ」


 レインは紙がしっかり仕舞われたのを見届け、話し出した。


「…………レイン。いつまでもこの屋台をぼくたちだけで独占しているわけにもいかないし、そろそろあげてくれる?」


「もちろんさ。嬢ちゃん、さっきすくったヨーヨーを両手に持って、正面……玄関のほうをこっちに向けてくれるかね?」


「ええ。……こんな感じでどうかしら?」


 レインの指示に従い、案理は両手でヨーヨーを包み込むようにして掲げてから、位置を調整した。


「………………」


 すると、レインは案理の目を見つめて頷き、玄関扉を一筆でなぞった。


「終わったよ」


「え? もう終わり?」


 あまりの呆気なさに案理の目が見開かれる。大きく丸く、ほんのり赤茶けた虹彩は、向かいの屋台に並べられたあんず飴のようだった。


「ああ、わしの役目はここまでさ。これでだねえ。その子のことも、もう仕舞ってもらって構わないよ。手に持って運んでやってもいいけどね」


「うーん、そうね……。今日は荷物が多くて鞄に空きがないし、このまま持って帰ることにするわ! そのほうが宣伝にもなるでしょうし」


「本当に優しい嬢ちゃんだ。このあと客足が伸びたら、お前さんのおかげだね。先にお礼を言っておこうか。本当にありがとうねえ。嬢ちゃんは手が塞がっているから、おまけはお前さんに持っていてもらおうじゃないか。きちんと二人分あるから、仲良くお食べ」

 

 わたあめのように甘くふんわり笑んだレインは、ミコトの手に大振りの飴玉らしきものを握らせた。

 

「うん。あとで渡すから安心して。お疲れ様、レイン。今回もいい仕事っぷりだったね」


「お前さんも、嬢ちゃんを案内してくれてありがとうねえ」


(なぜだかとても愛おしい……。自分で獲ったから? それとも手触りやサイズ感、このフォルムのせい?) 


 旧知らしい二人が互いの行いを労い合っているあいだ、案理は手の中のヨーヨーを撫でていた。


「嬢ちゃんがその子をくれることを願っているよ。ヒーッヒッヒッヒ…………」 


 その様子を見たレインは、口角を限界まで引き上げる。笑い声と相俟って魔女のようだった。


(不思議なことを言うのね。ヨーヨーはもう掬い終わっていると思うのだけれど……。喋り方も笑い声もとても個性的だし、ファッションセンスだって…………。でも、とても親切な方だったわ)


「ええ。素敵な体験をありがとう! これ、大切にするわね!」

  

 ヨーヨーを左手に移した案理はレインに向かって手を振り、レインもそれに応えるように控えめに手を振り返した。

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