人魚すくい

片喰 一歌

序章

序章 未だすくわれぬ魂


 きみを呼ぶ声が聴こえたら

     おあげよ、あわれな人魚



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 


「ヒ……ヒヒヒヒヒ……。今宵はどんなお客さんがお見えだろうね」


 幾重にも重なったフリルの袖の先からは、細く細い尖った指が覗いている。


「…………泣いているのかい? 嘆いているのかい? ああ、そうだねえ。そうだろうとも! いつまでもこんなばばあとしけた暮らしじゃあ、だろうさ…………」


 精巧につくられた人形のように欠点のない美貌を誇る愛くるしい少女は、可憐な外見に似つかわしくない魔女然とした口調で、水面に浮かぶ彩り豊かないくつもの球体に話しかけているようだった。


「だけども、大丈夫。……大丈夫。お前さんがたも、きっと、きっと……運命に巡り逢える…………」


 不吉な予言めいた声が掛けられると、球体たちは一斉に跳ね、水面には大きな波が立った。

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