第2話・日本国の日常に現れたダンジョン

 

 ––––西暦2025年、世界は未曾有の事態に震撼した。


「ご覧ください!! 東京湾の上空に、未知の超巨大建造物が現れました!!!」


 日本の首都たる経済大都市東京、その玄関口たる東京湾の高度1000メートルに、全長十数キロに及ぶ物体が出現したのだ。


「一体……、世界はどうなるのでしょうか!?」


 あり得ない事態を前に萎縮する記者の上を、航空機が高速で通り過ぎた。

 東京都の災害派遣要請を待たずに、航空自衛隊のF-2戦闘機が上空から偵察を行ったのだ。


『こちらヴァイパーゼロ1、目標は頂上部に庭園らしきものを備えた人工物の模様。何か膜状のものが張ってあり、視認ができない』


『ヴァイパーゼロ2も目視、武装の類は確認できませんが……隠蔽されている可能性があります』


 戦闘機部隊は、浮遊物体の周りを何周もした。

 結果として、大きな入り口を複数備えた一種の迷宮であると断片的だが判明。


 日本政府は即座に災害緊急事態の布告を宣言し、未知のダンジョンから何かが出て来た時に備え、自衛隊に戦後初の防衛出動を命令。


 横須賀基地のイージス艦が警戒にあたった。

 何か現れれば、即座に対空ミサイルを叩き込むために……。

 幸い洋上なので、破片は海に落ちる。


 海上保安庁が東京湾への入域を制限しているので、民間船舶もいないので好都合だった。


 ちなみにだが、これを受けて横須賀に停泊していたアメリカ軍空母は緊急出航。

 そのままシンガポールまで逃げてしまった。


 後にこの行動がアメリカに大ダメージを与えるわけだが、今は誰も知らない。


 さて、ここに来て2つの選択肢が政府内に出て来た。

 対処法はシンプルで––––ダンジョンを破壊するか、内部を探査するかだ。


「羽田空港は全便が欠航、東京湾が封鎖されているため……輸送船舶が入れない。このままでは経済的ダメージが計り知れません!」


 経済産業省と国交省は、東京の海空域を塞いでいることへの経済的ダメージから、即座の破壊を支持。

 だが、ここで防衛省が待ったを掛けた。


「浮遊に繋がる動力部を破壊することは可能かもしれません、しかし今破壊してしまえば、あのサイズの物体がそのまま湾に落ちることになります」


 もしそうなれば、前代未聞の高波で関東エリアは壊滅的被害を受けるだろう。

 っとなれば、残された選択肢は1つ。


「……自衛隊に内部の調査を行ってもらい、もし制御室があるならばそこを占領してもらいたい。そうすれば湾内から出せるかもしれん」


 時の首相の判断により、防衛省は迅速に動いた。

 一部野党と、主に中国から防衛出動に対しての非難が出ていたが、国民は政府の選択を支持した。


 野党はともかく、安全な中国本土の人間に内政干渉をされるいわれなど無いからだ。


 この行動も、後にアメリカ同様のダメージを中国に与えるわけだが、当然誰も知らない。


 ダンジョンが現れて15時間ほどして、陸上自衛隊東部方面総監をトップとした統合任務部隊を編成。

 ※統合任務部隊、1つの目標に対してあらゆる組織が集まって出来た部隊※。


 使える全てのヘリコプターで、普通科––––いわゆる歩兵をダンジョン内部へ送り込むこととなった。

 第1次調査隊の人数はおよそ200人。


 これに加え、ヘリに積んだ高機動車などの比較的軽い車両も追加される。


 ダンジョン内部の情報は、国民のみならず全世界が待望していた。

 そこで、当時の防衛大臣はSNS廃人だった改革相の意見を聞き入れて『特別配信チーム』を結成。


 白羽の矢が立ったのは、練馬駐屯地から派遣される予定だった––––


「俺……っすか?」


 防衛大学校を卒業したての小隊長、新海 透3尉だった。

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