陸上自衛隊ダンジョン無双配信記〜令嬢広報の生配信を手伝っていただけの筈が、バズった上にダンジョン攻略で日本を世界最強国家にしてしまった〜

tanidoori

第1話・もしも現代にダンジョンが出現したら

数回の銃声が響いた。

 味気なく乾いたそれは、弓矢で武装したゴブリン・デビルを圧倒的な遠距離から倒してしまう。


消音器サプレッサーで抑制されているとはいえ、結構響くもんだな……。これじゃ耳の良いモンスターには効果薄そうだ」


 単眼鏡で目標の死亡を確認した陸上自衛官––––新海透(にいみとおる)は、構えていたアサルトライフルを下げた。

 スマホを取り出すと、ヘルメットのカメラに同期した映像とコメント欄が流れ続ける。


【やっぱ自衛隊ツエエ……! あんな遠距離狙えるのかよ】

照準器サイトは何を使ってるんだろう? やっぱ高性能な米国製?】

【新海さんの配信のおかげで、自衛隊の活躍が見れて嬉しいです!!】


 同接数はかなり多い……方なのだと思う、流れるコメントが結構早いくらいの人数。

 本当は返信してあげたい気持ちがあったが、透は気持ちをグッと抑えて我慢した。


「四条2曹の頼みとはいえ、こんな平凡な配信で本当に自衛隊の広報になんのか……? 俺なんかより本人が出れば良いんじゃ? あの人すっげぇ可愛いんだし」


 思わずボヤいていたところ……。

 数秒ほどして、コメント欄に続きが書き込まれた。


【結晶取りに行かないの?】

【警戒してるんだろ、今回は新海3尉が1人だけの配信だし……さすがプロだ】

【やっぱ違うな、さすがは日本経済をV字回復に持っていった英雄だ】


 かなり評価の高いコメント達だが、透は単純に忘れていただけなので慌てて結晶を取りに行く。


「四条2曹は結晶を10個取ってくるだけで良いって言ってたけど、まぁ……これくらいなら多分誰でもできるよな」


 ぼやきつつ回収場所まで歩き着く。

 銃は安全マージンをチート級に取れる分、結晶を回収するのにはかなり不向きだと思った。


 手に持ったそれを、腰のダンプポーチに放り込む。


「……このダンジョンが現れてもう2ヶ月か、たったそれだけの時間で本当に色々あったな」


 予定通り結晶を回収した透は、周囲の安全を確認。

 次いで銃の点検を行った。


「残弾90発、予備のハンドガンはまだ使ってない。そろそろ帰っても良いよな?」


 配信にはノイズゲートで、銃声などの大きい音しか入らないよう設定されている。

 ゆえに喋り放題というわけだが、あいにくとのんびりもしていられない。


 “門限”が近づいていたからだ。

 帰路に着こうとした時、ふとコメント欄を見る。


【そういえば最近出て来た民間ハンターのルリちゃん、今同じ階層で狩りしてるらしいぜ】

【マジかよ、法改正してから猟友会もダンジョンに入れるようになったとはいえ、まだ自衛隊以外じゃキツイだろ】


 ルリという名は聞いたことがあった。

 高齢化の進む猟師という存在でありながら、まだ21歳の若い女性ハンター。


 しかし、法律上––––猟師は熟練者以外ショットガンしか使えない。

 それも、装弾数がやたら少ない民間用の猟銃。


 どこか嫌な予感がした透は、配信に目を凝らす。


【10キロ離れたボス帯にいるよ……ルリちゃん】

【はぁ? いや猟銃じゃ無理だろ! いくら稼げるからって危険過ぎる】

【嫌だぜ……、ダンジョン内初の死亡者が推しとか……】


 弾かれたように走り出した透は、木陰に止めていた装甲車に装備ごと乗り込んだ。

 ガソリンの残量が十分であることを確認すると、車内無線を起動する。


「CP、こちらバーナー1。民間のハンターがまだ未解禁のエリアに入った模様。送れ」


『なんだと!? 位置はわかるか? 送れ』


「本官より南西10キロの地点と推定される、これから救出に向かう。対戦車ヘリによる支援を要請したい。送れ」


『了解、大至急目標の保護を行われたし。終わり』


 車を走らせながらコメント欄を見る、ここには警察がいないのが幸いだ。


【ヤバいよ! ルリちゃんもう弾殆ど残ってない】

【これ新海3尉はどこ向かってんの? もしかして––––救出に行ってる?】

【頼むぞ自衛隊! 国民を守れるのはアンタらしかいないんだ!】


 別にほだされたい訳じゃない。

 褒められたい気持ちも無い。


 ただ、死に頻している国民を放って帰ることだけは、透が自衛隊に入った時点で選択肢に無い。


 しばらくして、“危険エリア”とテープが張られた場所へ着く。

 トップスピードで走らせていると、やがて目の前に炎が現れた。


「せめて坂本3曹がいてくれたら、多少楽だったのにな……ッ」


 燃え盛る草原の中を、1人の少女が全速力で走っていた。


「嫌あああぁあ!! もうダメええぇえ––––!!」


 猟銃を腕に抱えながら、ルリと呼ばれる人気配信者がモンスターに追いかけられていた。

 敵の種類は、迷宮区:甲種害獣––––地竜だった。


 車を止め、開けたドアから透はアサルトライフルを撃ち放った。

 飛翔した5.56ミリ高速ライフル弾は、地竜の脇腹に穴を開ける。


「ごアガアアアアアァァアアッ!!!」


 怯んだ隙を狙って、高機動車をルリの近くに寄せた。


「こっちだ!! 乗れ!!」


「ッ! 自衛隊!?」


「早くしろ! もう時間が無い!!」


「…………!!」


 数秒の後、ルリが運転席へ飛び込む。


【うおおおおおおおぉぉおおおお!!!!】

【やっぱり助けに行ってたんだ!!】

【でも地竜って、新海3尉の残弾で倒せるもんなのか!?】


 アクセルを押し込み、急発進。

 大急ぎで敵から距離を取る。


「あのっ、あなたは––––」


「説明は後な! 今は舌を噛まないよう気をつけて!」


 腕時計を見ると、後10秒で予定の時刻だった。

 こちらを捕捉し、敵が巨躯を動かそうとした瞬間––––


 ––––ドドォンッ––––!!!


 まるで噴火でも起きたように、地竜が足元から爆発に襲われた。

 その威力は凄まじいもので、堅牢な装甲に覆われた敵があっという間に絶命……大量の結晶となった。


「なんとか……、なったな」


 シートにもたれ掛かる透の上空を、迷彩色のヘリコプターが通り過ぎた。

 陸上自衛隊の保有する、対戦車ヘリコプターが上空で旋回する。


「あのっ、ごめんなさい……わたし。何て言ったら……」


「説教はどうせ後でたんまりされるだろうし、俺からは何も言わないよ。1つ言うなら––––」


 透は自らの陸自迷彩服を整えながら、助手席のハンターへ微笑む。


自衛隊おれたちは、絶対に国民を見捨てない」


 未だ未知のベールに包まれた超巨大ダンジョンで、今日も自衛隊は戦い続ける。

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