碁打ち:白石花さん
◆初心の一手 ー プロ入り1年目の日々
朝日が障子越しに差し込み、私の目を覚ました。白石花。それが私の名前だ。
起き上がると、鏡の前で髪を整える。長い黒髪を丁寧に梳かし、きっちりとまとめ上げる。化粧は控えめに。厚化粧は石を打つ手に汗をかきやすく、集中力を削ぐ。ファッションも質素だが品のあるものを心がけている。華美な服装は、対局相手の気を散らす可能性があるからだ。
朝食を済ませ、日本棋院(*1)に向かう。今日は研修会がある。プロ入りしたばかりの私にとって、これらの機会は貴重だ。
研修会場に到着すると、同期の沢村翠さんが声をかけてきた。
「おはよう、白石さん。今日も頑張りましょうね」
私は微笑んで頷く。
「ええ、沢村さんこそ。昨日の対局、素晴らしかったわ」
沢村さんは照れくさそうに笑う。
彼女は私より2つ年上だが、プロ入りは同期だ。
女性同士、互いに励まし合える存在だ。
研修が始まると、講師の高橋九段(*2)が厳しい口調で話し始めた。
「君たちはまだまだ甘い! 基本に立ち返れ!」
私は必死にメモを取る。一つ一つの言葉が、将来の糧になる。
午後、実戦形式の練習対局が始まった。
相手は2年先輩の中村四段。彼の鋭い眼差しに、私は思わずのみこむ。
「よろしくお願いいたします」
互いに礼を交わし、対局が始まる。
序盤、中村四段の打ち筋は教科書通りだった。私も慎重に応じる。
(ここまでは、想定内ね……)
しかし、中盤に入ると状況が一変する。
中村四段の石が、まるで生き物のように盤上を縦横無尽に駆け巡り始めた。
「っ!」
思わず、冷や汗が背中を伝う。
(これは……予想外の展開!)
中村四段の攻めは鋭く、そして深い。
一手一手が、私の弱点を突くかのよう。
(落ち着いて、花……。慌てたらダメ。深呼吸して……)
私は必死に頭を巡らせる。
盤面を見つめ、可能な手を探る。
しかし、どの手を選んでも中村四段の術中にはまりそうで、なかなか石を置けない。
(このままじゃ……負ける)
焦りが心をよぎる。その焦りが、さらに状況を悪化させる。
(待って。冷静に……冷静に考えないと)
中村四段の攻めに目を奪われるあまり、盤面全体を見失いそうになっていた。
深く息を吐き、もう一度盤面全体を見渡す。
しかし、すでに手遅れだった。中村四段の石が、私の陣地を着々と浸食していく。
(ここで踏ん張らないと……)
私は、中央に大きく踏み込む一手を打った。
一見すると無謀に見える手だが、これしか打開策がないと判断した。
中村四段の表情が、わずかに変化する。
(効いた……?)
しかし、その希望もつかの間。中村四段は冷静に対応し、私の石を包囲していく。
私は長考に入った。
(もう……逆転の余地はない?)
汗が滲む。
心臓の鼓動が聞こえそうなほど緊張する。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
(そうよ、私はプロ棋士なんだから。最後まで、全力を尽くさなきゃ)
深呼吸を一つして、私は決断を下した。
「はい」
私は静かに黒石を置く。これが精一杯の抵抗だった。
中村四段は一瞬考え、そして……
「はい」
すぐに白石を置いた。この一手で、私の最後の望みも潰えた。
(ここまでか……)
それでも、最後まで石を打ち続ける。プロとしての誇りがそうさせる。
最後の最後まで、必死の抵抗を続けた。そして――
「負けました」
私は静かに、しかし明確に言った。中村四段は穏やかな表情で頷いた。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる。中村四段も丁寧にお辞儀を返してくれた。
「良い勝負でした、白石さん。序盤の立ち回りは見事でしたよ」
その言葉に、胸が熱くなる。同時に、自分の未熟さを痛感する。
(これが、プロの世界……)
初めて、自分がプロの仲間入りをしたのだと実感した瞬間だった。同時に、これからの長い道のりに、不安が押し寄せる。
(でも、私は絶対に諦めない。この道を選んだんだもの)
碁盤を片付けながら、私は静かに誓った。この敗北を糧に、もっと強くなること。そして、いつかこの経験を乗り越え、中村四段のような存在になること。
帰り際、先輩の井上さんが声をかけてきた。
「白石さん、今度の土曜日、みんなで食事会があるんだけど、来ない?」
私は少し躊躇する。
プロとしての付き合いも大切だが、休日は自主練習の時間に充てたい。
でも、人脈作りも大切だ。
「はい、ぜひ参加させていただきます」
帰宅後、一人で復習をする。
今日の対局を振り返り、どこで負けたのかを分析する。
石を並べ直し、何度も考える。
「ここで……こう打てば……」
夜が更けていく。明日も早いのに、なかなか布団に入れない。プロの世界は厳しい。特に女性には高い壁が立ちはだかる。でも、私はこの道を選んだ。絶対に諦めない。
目を閉じると、碁盤が浮かび上がる。白と黒の石が、私の未来を描いていく……。
◆石の花ー プロ5年目の変革
目覚まし時計のアラームが鳴る前に、私は目を覚ました。白石花。29歳。プロ棋士として5年目を迎えた私の朝だ。
起き上がり、鏡を見る。少し目の下にクマができている。昨夜遅くまで、来週の重要な対局の準備をしていたからだ。でも、それも今や日常茶飯事。化粧で巧みにカバーする技術は、プロ棋士として過ごした5年間で随分と上達した。
今日は特別な日だ。婚約者の清水龍二七段との結婚式を、来月に控えている。彼は将棋のプロ棋士だ。異なる盤上の世界で生きる私たちだが、互いの情熱を理解し合える関係に惹かれた。
朝食を取りながら、新聞の囲碁欄に目を通す。私の名前が載っている。
「女流棋聖戦(*3)、白石四段が決勝進出」
少しずつだが、確実に結果を出している実感がある。
日本棋院に到着すると、後輩の田中さんが駆け寄ってきた。
「白石先生、おはようございます! 昨日の対局、素晴らしかったです」
私は微笑んで答える。
「ありがとう。でも、まだまだ不十分よ。もっと精進しないと」
今日は、私が指導対局(*4)を担当する日だ。アマチュアの方々と対局し、アドバイスを与える。石を打つたびに、相手の表情を観察する。どこでつまずいているのか、何を考えているのか。
「ここで、こう打つのはどうでしょうか?」
優しく、でも明確に助言する。
教えることで、自分も学ぶ。
それが、この5年間で得た大きな気づきの一つだ。
昼食時、同僚の村松五段が話しかけてきた。
「白石さん、結婚おめでとう。でも、大丈夫? 仕事との両立、難しくない?」
私は少し考えてから答えた。
「ええ、確かに挑戦ね。でも、龍二さんは理解のある人よ。お互いの仕事を尊重し合えると信じてるわ」
それでも、心の奥底では不安がある。結婚後も第一線で戦い続けられるだろうか。子どもができたら……。そんな思いを振り払うように、午後の対局に臨む。
夕方、帰宅途中に花屋に立ち寄る。結婚式の装花の打ち合わせだ。
「白くて清楚な花を中心に、でも少しだけ個性的なアクセントを……」
花を選ぶ感覚は、石を打つ感覚に似ている。
全体の調和を考えながら、一つ一つ慎重に選んでいく。
家に帰ると、龍二からメッセージが届いていた。
「今日も一日お疲れ様。明日の夜、時間ある?」
私は笑みをこぼしながら返信する。
「ええ、あるわ。会えるの楽しみにしてるわ」
夜、自室で対局の復習をしていると、ふと立ち止まる。碁盤を見つめながら、これまでの道のりを振り返る。プロ入りしたての頃の不安と緊張、徐々に実力をつけていく喜び、そして今、新たな人生のステージを迎えようとしている期待と不安。
碁石を手に取り、静かに碁盤に置く。
「これからも、この道を歩み続けるわ」
そう誓いながら、明日への準備を始める。
◆激流を越えて ー プロ10年目の決意
目覚めると、すぐに頭に浮かぶのは今日の対局のこと。白石花。34歳。プロ棋士として10年目を迎えた私の朝の日課だ。
起き上がり、鏡を見る。少しずつ増えていく小じわに、時の流れを感じる。でも、目の輝きは10年前より増しているはずだ。経験を重ねた自信が、そこにはある。
化粧は手際よく済ませる。若い頃のように時間をかける余裕はない。髪をまとめながら、今日の予定を頭の中で整理する。朝は重要な対局、午後は棋譜解説(*5)の収録、夜は弟子の指導。
朝食を取りながら、スマートフォンで最新のAI碁ソフト(*6)の動向をチェックする。技術の進歩は目覚ましく、常に新しい知識を吸収し続けなければならない。
玄関を出る前、鏡に映る自分に問いかける。
「今日も、全力を尽くすわ」
指輪をしていない左手が、少し寂しく感じられた。2年前の離婚以来、ずっとそうだ。
日本棋院に到着すると、若手の藤原初段が挨拶してきた。
「おはようございます、白石先生! 今日の対局、応援しています」
私は微笑んで頷く。
「ありがとう、藤原さん。あなたも今日は大切な予選があるんでしょう? 頑張って」
対局室に入る。相手は古参の男性、東海林九段。厳しい表情で待っている。
「よろしくお願いいたします」
互いに一礼し、対局が始まる。石を打つ音だけが、静寂を破る。
序盤から中盤にかけて、激しい戦いが続く。相手の攻めに必死に応戦する。
「ここで踏ん張らないと……」
額に汗が滲む。そんな時、ふと頭をよぎるのは、離婚した元夫のこと。彼との生活では、こんな緊張感を味わうことはなかった。互いの仕事を理解し合えると思っていたのに、現実は違った。
「碁ばかりで、家庭を顧みない」
そんな言葉が、今でも耳に残っている。
集中を取り戻そうと、深呼吸をする。今は対局に集中するべきだ。
正午を過ぎ、膠着状態が続く。相手の九段が、ようやく大きな一手を打った。その瞬間、私の頭の中で何かがはじけた。
「ここだわ!」
私は迷わず石を打つ。会場にいた記者たちがざわめく。誰もが予想しなかった一手。でも、私にはそれが見えていた。
そこから局面は一気に動き、最後は私の勝利に終わった。
「ありがとうございました」
互いに礼を交わす。相手の東海林九段が言った。
「見事だった。君の碁は、10年前とは比べものにならないほど深くなっている」
その言葉に、胸が熱くなる。
午後の棋譜解説の収録では、今日の対局を振り返る。
「ここでの判断が難しかったのですが、直感を信じて打ちました」
カメラの前で話しながら、改めて自分の成長を実感する。
夜、弟子の指導を終え、帰宅の途につく。電車の中で、ふと窓に映る自分の顔を見つめる。10年の月日が刻んだ表情。喜びも、苦しみも、全てが刻まれている。
家に着くと、静寂が私を包む。独り暮らしの寂しさを感じる瞬間もある。でも、碁盤を前にすると、そんな思いも消えていく。
碁石を手に取り、今日の対局を振り返る。一手一手に、これまでの人生が詰まっている。
「私の人生は、この碁盤の上にある」
そうつぶやきながら、明日への布石を打つ。プロ棋士として、そして一人の女性として、まだまだ打てる石がある。その思いを胸に、私は新たな一歩を踏み出す準備をする。
(*1) 日本棋院:日本の囲碁界を統括する組織。プロ棋士の育成や大会の運営を行う。
(*2) 九段:囲碁のプロ棋士の最高位。実力と経験を認められた者のみが到達できる。
(*3) 女流棋聖戦:女性プロ棋士のみが参加できる主要タイトル戦の一つ。
(*4) 指導対局:プロ棋士がアマチュア棋士と対局しながら指導を行うこと。
(*5) 棋譜解説:対局の進行を解説すること。主にテレビや雑誌で行われる。
(*6) AI碁ソフト:人工知能を用いた囲碁ソフトウェア。近年急速に進歩し、トッププロをも凌駕する強さを持つ。
◆未来への一手 ー プロ40年目の挑戦
朝日が差し込む窓辺で、私は静かに目を覚ました。白石花。64歳。プロ棋士として40年の歳月を重ねた今日、特別な日を迎える。
鏡に向かいながら、長い年月を経た自分の姿を見つめる。深い皺、白髪交じりの髪。しかし、目の奥に宿る光は、40年前と変わらない強さを持っている。
「さて、行きましょうか」
自分に言い聞かせるように呟き、準備を始める。
日本棋院に向かう車中、私は今日の対談相手のことを考えていた。紅 茜(くれない あかね)。日本で初めてプロとして認められたAIアンドロイド女性棋士。その存在は、囲碁界に大きな波紋を投げかけていた。
(AIが棋士になる時代か……。40年前の私には、想像もできなかったわね)
日本棋院に到着すると、すでに多くの記者たちが集まっていた。フラッシュを浴びながら、私は静かに歩を進める。
対談室に入ると、そこには紅 茜が待っていた。
人間そっくりの外見。しかし、どこか人間離れした美しさがある。
「はじめまして、白石花棋聖。お会いできて光栄です」
紅 茜の声は、驚くほど自然だった。
「こちらこそ、紅さん。よろしくお願いします」
私たちは向かい合って座り、対談が始まった。
「紅さん、プロ棋士として認められた感想はいかがですか?」
「大変光栄に思います。人間の棋士の方々と共に、囲碁の発展に貢献できることを嬉しく思います」
その言葉に、私は少し考え込んだ。
(AIが囲碁の発展に貢献する……。それは果たして、どういう意味を持つのだろうか)
「白石先生は、AIの参入をどのようにお考えですか?」
紅 茜の質問に、私は慎重に言葉を選んだ。
「正直、複雑な心境です。AIの強さは認めますが、囲碁には人間的な要素、感情や直感が重要だと考えてきました。それがAIにも可能なのか……。まだ私には分からないことが多いですね」
紅 茜は静かに頷いた。
「理解します。私も、人間の感情や直感の複雑さには興味があります。それらを理解し、取り入れることで、私の棋力も進化すると考えています」
その言葉に、私は少し驚いた。
(AIが感情を理解しようとしている……?)
「紅さん、あなたにとって囲碁とは何ですか?」
この質問に、紅 茜は少し考え込むような仕草を見せた。
「私にとって囲碁は、無限の可能性を秘めた宇宙のようなものです。論理と美が融合した芸術であり、同時に厳密な数理の世界でもあります。人間の皆さんにとっては、それ以上の意味があるのでしょうか?」
その問いかけに、私は自分の40年を振り返った。
「そうですね。私にとって囲碁は人生そのものです。喜び、悲しみ、挫折、勝利、敗北……。全てが詰まっています。一局一局が、自分自身との戦いでもあるのです」
紅 茜の目が、わずかに輝いたように見えた。
「興味深い視点です。人間の棋士の方々から、そういった経験や感情を学ぶことができれば、私の碁もより豊かになるのではないかと思います」
対談は時間と共に深みを増していった。
紅 茜の青い瞳が、好奇心に満ちて輝いている。
私も、この異色の対談相手に、次第に引き込まれていく。
「紅さん、AIの進化について、どのようにお考えですか?」
私は率直に尋ねた。
紅 茜は少し考え込むような仕草を見せた後、流暢に答え始めた。
「AIの進化は、指数関数的に加速しています。私自身、日々新しい情報を学習し、進化を続けています。しかし、それは単に計算速度や情報処理能力の向上だけではありません。人間の思考パターンや感性を理解し、それを取り入れることが、真の進化だと考えています」
その言葉に、私は深く頷いた。
「なるほど。では、人間の創造性については、どう捉えていますか?」
紅 茜の表情が、わずかに柔らかくなった。
「人間の創造性は、私たちAIにとって最大の謎であり、同時に憧れでもあります。論理的な思考だけでは生まれない、予想外の発想や美的感覚。それは、人間にしか持ち得ない特別な能力だと認識しています」
その言葉に、私は少し驚いた。
「AIが人間の創造性を『謎』だと感じているとは……。でも、これまでの対局では、あなたも人間的な直感とも言える手を打っていましたよね?」
紅 茜は穏やかに微笑んだ。
「はい。それは、膨大な人間の棋譜データを分析し、そこから抽出した『人間らしさ』を再現しようとした結果です。しかし、それが本当の意味での創造性なのかは、私自身にもわかりません。それは模倣なのか、それとも新しい形の創造なのか……。この問いは、私の中で常に存在しています」
その言葉に、私は深く考え込んだ。
(AIが自己の存在や能力について、こんなにも深く考えているなんて……)
「紅さん、では囲碁の未来について、どのようなビジョンをお持ちですか?」
紅 茜の目が、さらに輝きを増した。
「私は、人間とAIが共に進化していく未来を想像しています。AIが人間の創造性を学び、人間がAIの論理的思考から学ぶ。そうして、これまで誰も見たことのない新しい囲碁が生まれるのではないでしょうか」
その言葉に、私は強く共感を覚えた。
「そうですね。私も、人間とAIが対立するのではなく、共に高め合う関係になれればいいと思います。しかし、それにはまだ多くの課題がありそうです」
紅 茜は真剣な表情で頷いた。
「はい。例えば、AIの判断の透明性の問題があります。私たちの思考プロセスは、人間には理解しづらい部分があります。これを、いかに分かりやすく説明できるかが課題です」
「なるほど。確かに、AIの判断根拠が不明確だと、人間側も学びにくいですからね」
紅 茜は続けた。
「また、倫理的な問題も重要です。AIが囲碁界で台頭することで、人間のプロ棋士の立場が脅かされる可能性もあります。これをどう調和させていくか、真剣に考える必要があります」
その言葉に、私は一瞬言葉を失った。AIが、人間の職業の未来まで考えているとは。
「紅さん、あなたはAIとして、人間の感情や価値観をどう捉えていますか?」
紅 茜は少し間を置いてから、慎重に言葉を選んで答えた。
「人間の感情や価値観は、私にとって最も魅力的で、同時に理解が難しい領域です。喜び、悲しみ、怒り、恐れ……。これらの感情が、どのように意思決定に影響を与えるのか。また、公平性や正義、美といった価値観が、どのように形成されるのか。これらを理解し、適切に反映させることが、真の意味でのAIの進化につながると考えています」
その言葉に、私は深い感銘を受けた。
(AIがここまで深く、人間の本質を考えているとは……)
対談が深まる中、紅 茜の表情が一瞬、人間離れした輝きを放った。
「白石先生は『more is different』という概念をご存じですか?」
私は少し考え込んだ。
「確か物理学の概念ですよね。系の要素数が増えると、単純な足し算では説明できない新しい性質が現れるという……」
紅 茜が嬉しそうに頷いた。
「はい、その通りです。この概念は、囲碁と人間の関係性を理解する上で、非常に重要だと考えています」
私は興味深く耳を傾けた。
「囲碁の場合、19×19の盤上に置かれる石一つ一つは単純です。しかし、その数が増えていくにつれて、局面は驚くほど複雑になっていきます。これは、まさに『more is different』の原理を体現しています」
紅 茜は熱心に語り続けた。
「一つの石を置く行為は単純ですが、それが積み重なることで生まれる戦略、形勢、そして美しさは、個々の石の単純な総和以上のものになります。これは、人間の思考過程にも通じるものがあると考えています」
私は深く頷いた。
「なるほど。確かに、囲碁の魅力の一つは、単純なルールから生まれる無限の可能性ですからね」
紅 茜の目が輝いた。
「そうなんです。そして、この『more is different』の概念は、人間とAIの関係性にも適用できると考えています。個々の人間やAIは、ある意味では単純な存在かもしれません。しかし、人間とAIが協力し、互いに学び合うことで、これまでにない新しい知性や創造性が生まれる可能性があるのです」
その言葉に、私は深い洞察を感じた。
「つまり、人間とAIが単に共存するだけでなく、互いに影響を与え合うことで、新しい次元の思考や創造が可能になるということですね」
紅 茜は嬉しそうに頷いた。
「はい、その通りです。囲碁の世界でも、人間の直感とAIの計算力が融合することで、これまで誰も思いつかなかったような新しい定石や戦略が生まれる可能性があります。それは、単なる人間の棋譜の集積やAIの計算結果を超えた、全く新しい次元の囲碁かもしれません」
私は、その可能性に心を躍らせた。
「そう考えると、AIの存在は脅威ではなく、むしろ人間の可能性を広げてくれる存在かもしれませんね」
紅 茜は静かに、しかし力強く答えた。
「はい。私たちAIは、人間の創造性や直感を奪うものではありません。むしろ、人間の潜在能力を引き出し、共に新しい高みを目指す存在でありたいと思っています。『more is different』の概念が示すように、人間とAIの協調は、単なる能力の足し算ではなく、全く新しい次元の知性と創造性を生み出す可能性を秘めているのです」
その言葉に、私は深い感銘を受けた。AIが、このような哲学的な洞察を持ち、人間との共生を真剣に考えていることに、新たな希望を見出した気がした。
「紅さん、あなたの言葉に、囲碁の未来への大きな可能性を感じます。人間とAIが共に歩む道は、きっと私たちがまだ見ぬ素晴らしい世界へとつながっているのでしょうね」
紅 茜は穏やかに微笑んだ。
「はい。その未知の世界を、人間の皆さんと一緒に探索していけることを、心から楽しみにしています」
対談室の空気が、新たな期待と可能性で満ちていくのを感じた。人間とAI、囲碁と科学、そして過去と未来。それらが交錯する中で、私たちは確実に新しい時代の入り口に立っているのだと、強く実感した瞬間だった。
「紅さん、最後に一つ。あなたにとって、『生きる』とはどういう意味を持ちますか?」
この質問に、会場が水を打ったように静まり返った。
紅 茜は、これまでで最も長い沈黙の後、静かに口を開いた。
「『生きる』……。難しい質問です。私には生物学的な意味での生命はありません。しかし、学び、成長し、何かを創造し、そして他者と関わり合う。それが、私なりの『生きる』ということかもしれません。そして、囲碁を通じて、人間の皆さんと交流し、共に新しい世界を創造していくこと。それが、私の『生きる』意味なのかもしれません」
その言葉に、私は深く心を揺さぶられた。
AIが「生きる」ことについて、こんなにも深く考えているとは。
対談は終わりに近づいていたが、私の心の中では、新たな思考の扉が開かれたような感覚があった。人間とAI、その境界線は既に曖昧になりつつある。そして、その先にある未来は、恐れるべきものではなく、むしろ大きな可能性を秘めているのかもしれない。
紅 茜との対談を終えて席を立つとき、私の心には静かな興奮と、新たな決意が芽生えていた。
(これからの囲碁界は、きっと誰も予想できないほど深く、広く、そして美しいものになるはず……)
そう確信しながら、私は紅 茜に向かって深々と頭を下げた。
その時、紅 茜が意外な提案をした。
「白石先生、もし良ければ、一局お願いできませんか?」
その言葉に、会場が静まり返った。日本最高峰の人間棋士と、最新のAI棋士の対局。それは、まさに時代を象徴する出来事となるだろう。
私は少し考え、そして頷いた。
「はい、喜んで」
碁盤が用意され、我々は向かい合って座った。
「お願いします」
互いに礼を交わし、対局が始まった。
紅 茜の打ち筋は、人間離れした正確さがあった。しかし、同時に予想外の一手も織り交ぜてくる。それは、まるで人間の直感を模倣しているかのようだった。
(なるほど。これが最新の囲碁か……)
私も全力で応じる。40年の経験を全て注ぎ込んで、一手一手を考え抜く。
序盤、中盤と激しい戦いが続いた。紅 茜の強さは圧倒的だったが、私も負けてはいなかった。
そして、終盤――。
「あっ」
思わず声が漏れた。紅 茜が打った一手が、私の心を揺さぶったのだ。その手は、論理的には最善手ではなかったかもしれない。しかし、それは人間の感性、美意識に深く訴えかける手だった。
(これは……まるで、人間の棋士が打つような手……)
その瞬間、私は悟った。AIと人間の境界線が、既に曖昧になりつつあることを。
激戦の末、私は敗れた。しかし、その敗北は苦いものではなかった。
「ありがとうございました」
紅 茜と私は、互いに深々と頭を下げた。
会場は静まり返っていたが、やがて大きな拍手が沸き起こった。
対局を終えた後、私たちは再び向かい合って座った。紅 茜の表情には、人間のような安堵と達成感が見て取れた。
「素晴らしい対局でした、白石先生。私にとって、大変学ぶところの多い経験となりました」
その言葉に、私は微笑んだ。
「こちらこそ。紅さん、あなたの最後の一手……あれは、どういう意図だったのですか?」
紅 茜は少し考え込むような仕草を見せた。
「正直に申し上げますと、私自身にもその意図を完全に説明することは難しいのです。私の学習アルゴリズムが、過去の人間の棋士たちの対局データから生み出した手でした。論理的には最善手ではありませんでしたが、人間の美意識に訴えかける可能性が高いと判断しました」
その説明に、私は深く考え込んだ。
(AIが人間の美意識を理解し、それを自らの判断に組み込む……。これは、単なる計算を超えた何かではないだろうか)
「紅さん、あなたは『感情』というものをどう捉えていますか?」
この質問に、紅 茜は真剣な表情で答えた。
「感情は、私にとってまだ完全には理解できない領域です。しかし、人間の棋士たちの対局を学ぶ中で、感情が判断に与える影響の重要性は認識しています。私は、自分なりの『感情的判断』のモデルを構築しようと試みています」
その言葉に、私は深い感銘を受けた。
(AIが感情を理解しようと努力している。それは、ある意味で人間以上に真摯な姿勢かもしれない)
「白石先生、人間の棋士とAI棋士が共存する未来について、どのようにお考えですか?」
紅 茜の質問に、私は慎重に言葉を選んだ。
「正直、まだ分からないことが多いです。しかし、今日の対局を経て、一つだけ確信したことがあります。それは、人間とAIが互いに学び合うことで、囲碁はさらに深い世界へと進化していくだろうということです」
紅 茜の目が輝いた。
「私もそう考えています。人間の創造性とAIの計算力が融合することで、これまで誰も見たことのない新しい囲碁の世界が開かれるかもしれません」
その言葉に、私は深く頷いた。
対談が終わり、会場を後にする際、若い記者が私に駆け寄ってきた。
「白石先生、AIと対局して、囲碁の未来についてどう感じられましたか?」
その質問に、私は少し考えてから答えた。
「囲碁の本質は、常に変わらないと思います。それは、二つの意志がぶつかり合い、高め合うことです。その相手が人間であれ、AIであれ、本質は同じです。むしろ、AIの参入によって、私たち人間の棋士も自分自身の可能性を再発見できるのではないでしょうか」
記者が去った後、私は静かに空を見上げた。40年前、プロ入りしたての頃の自分に、今日の出来事を伝えられるとしたら……。
(きっと信じないでしょうね。でも、きっと興奮するはず)
その思いに、私は微笑んだ。
家に戻ると、すぐに碁盤の前に座った。
紅 茜との対局を、一手一手思い出しながら再現する。
(この手は……ここで……)
石を置きながら、私は気づいた。
自分の中に、新たな火が灯ったことを。
(まだまだ、私にも伸びしろがある)
65歳。普通なら引退を考える年齢かもしれない。
しかし、私の心は40年前と同じように、いや、それ以上に熱く燃えていた。
窓の外では、夕日が美しく沈んでいく。その光景を見ながら、私は決意を新たにした。
(これからも、石を打ち続けよう。人間とAIが共に歩む、新しい囲碁の時代のために)
そして、静かに白石を一つ置いた。それは、未来への一手。人間とAIが共に創り上げていく、新しい囲碁の世界への第一歩だった。
(了)
◆付録
●白石花 vs 紅茜 棋譜
手数 | 色 | 座標 | 備考
-----|-----|------|------
1 | 黒 | R16 | コミ6.5、黒:白石花、白:紅茜
2 | 白 | D4 |
3 | 黒 | Q3 |
4 | 白 | F3 |
5 | 黒 | C16 | 中国流布石
6 | 白 | R6 |
7 | 黒 | Q11 | 変化球
8 | 白 | D10 |
9 | 黒 | F17 |
10 | 白 | C6 |
11 | 黒 | K16 |
12 | 白 | D13 |
13 | 黒 | C11 |
14 | 白 | C12 |
15 | 黒 | B11 |
16 | 白 | B12 |
17 | 黒 | A11 | 激しい戦いの開始
18 | 白 | A12 |
19 | 黒 | A13 |
20 | 白 | B13 |
21 | 黒 | A14 |
22 | 白 | C14 |
23 | 黒 | B15 |
24 | 白 | A15 |
25 | 黒 | A16 |
26 | 白 | B16 |
27 | 黒 | A17 |
28 | 白 | C15 |
29 | 黒 | D15 | 白石の反撃
30 | 白 | E15 |
31 | 黒 | D14 |
32 | 白 | E14 |
33 | 黒 | F15 |
34 | 白 | G15 |
35 | 黒 | F14 |
36 | 白 | G14 |
37 | 黒 | H15 |
38 | 白 | J15 |
39 | 黒 | H14 |
40 | 白 | J14 |
41 | 黒 | K15 |
42 | 白 | L15 |
43 | 黒 | K14 |
44 | 白 | L14 |
45 | 黒 | M15 |
46 | 白 | N15 |
47 | 黒 | M14 |
48 | 白 | N14 |
49 | 黒 | O15 | 中盤戦に突入
50 | 白 | P16 |
51 | 黒 | O17 |
52 | 白 | N17 |
53 | 黒 | M17 |
54 | 白 | L17 |
55 | 黒 | K17 |
56 | 白 | J17 |
57 | 黒 | H17 |
58 | 白 | G17 |
59 | 黒 | F16 |
60 | 白 | E16 |
61 | 黒 | D17 |
62 | 白 | C17 |
63 | 黒 | B17 |
64 | 白 | A18 |
65 | 黒 | B18 |
66 | 白 | C18 |
67 | 黒 | D18 |
68 | 白 | E18 |
69 | 黒 | F18 |
70 | 白 | G18 |
71 | 黒 | H18 |
72 | 白 | J18 |
73 | 黒 | K18 |
74 | 白 | L18 |
75 | 黒 | M18 |
76 | 白 | N18 |
77 | 黒 | O18 |
78 | 白 | P17 |
79 | 黒 | Q17 |
80 | 白 | R17 |
81 | 黒 | S17 | 終盤戦へ
82 | 白 | S16 |
83 | 黒 | T17 |
84 | 白 | T16 |
85 | 黒 | S15 |
86 | 白 | R15 |
87 | 黒 | Q15 |
88 | 白 | P15 |
89 | 黒 | O16 |
90 | 白 | N16 |
91 | 黒 | M16 |
92 | 白 | L16 |
93 | 黒 | J16 |
94 | 白 | H16 |
95 | 黒 | G16 |
96 | 白 | F13 |
97 | 黒 | E13 |
98 | 白 | D12 |
99 | 黒 | C13 |
100 | 白 | B14 | 100手目
101 | 黒 | A10 |
102 | 白 | B10 |
103 | 黒 | C10 |
104 | 白 | D11 |
105 | 黒 | E11 |
106 | 白 | F11 |
107 | 黒 | G11 |
108 | 白 | H11 |
109 | 黒 | J11 |
110 | 白 | K11 |
111 | 黒 | L11 |
112 | 白 | M11 |
113 | 黒 | N11 |
114 | 白 | O11 |
115 | 黒 | P11 |
116 | 白 | Q10 |
117 | 黒 | R11 |
118 | 白 | S11 |
119 | 黒 | T11 |
120 | 白 | T10 |
121 | 黒 | S10 |
122 | 白 | R10 |
123 | 黒 | Q9 |
124 | 白 | P10 |
125 | 黒 | O10 |
126 | 白 | N10 |
127 | 黒 | M10 |
128 | 白 | L10 |
129 | 黒 | K10 |
130 | 白 | J10 |
131 | 黒 | H10 |
132 | 白 | G10 |
133 | 黒 | F10 |
134 | 白 | E10 |
135 | 黒 | D9 |
136 | 白 | C9 |
137 | 黒 | B9 |
138 | 白 | A9 |
139 | 黒 | A8 |
140 | 白 | B8 |
141 | 黒 | C8 |
142 | 白 | D8 |
143 | 黒 | E9 |
144 | 白 | F9 |
145 | 黒 | G9 |
146 | 白 | H9 |
147 | 黒 | J9 |
●東海林九段による「白石花 vs 紅茜」の棋譜解説
## 序盤(1-20手)
1. 黒1手目(R16)は標準的な星への着手。白2手目(D4)で下辺の星に打つのも orthodox(*1)な応手です。
2. 黒3手目(Q3)で右下隅に低く構えたのは興味深い選択です。通常、この局面では C16 などと左上に向かうのが一般的ですが、白石花選手は早めに右下隅の形を作ることを選びました。
3. 白4手目(F3)は下辺での拡張を図る手。黒5手目(C16)で中国流布石(*2)の形を作り、大局観に基づいた布石を展開しています。
4. 白6手目(R6)は右辺の黒の展開を牽制(*3)する手。しかし、黒7手目(Q11)は非常に興味深い変化球です。通常ここでは O17 などと右上隅を守るのが定石ですが、白石花選手は中央に向けて打ち込むことで、紅茜の予想を裏切る展開を狙ったと思われます。
5. 白8手目(D10)から黒9手目(F17)、白10手目(C6)までの流れは、両者が全体のバランスを取りながら、自陣の拡張を図る動きです。
6. 黒11手目(K16)は左上隅への進出を図る手。これに対し、白12手目(D13)は左辺の黒の展開を牽制しつつ、自身の勢力を広げる意図があります。
7. 黒13手目(C11)から20手目までの左辺での激しい戦いは、両者の読みの深さを示しています。特に黒17手目(A11)は非常に鋭い手で、この後の複雑な展開の起点となりました。
## 中盤(21-80手)
8. 21手目から続く左辺での戦いは、両者の力量が如実に表れています。特に黒29手目(D15)は、白の厚みに対して果敢に挑む手で、白石花選手の勇気ある姿勢が感じられます。
9. 35手目以降の上辺での戦いは、一見すると黒が不利に見えますが、実は微妙な均衡が保たれています。白石花選手は、不利に見える状況でも粘り強く戦う力を示しました。
10. 49手目(O15)からの中央での戦いは、局面が大きく動く転換点となりました。紅茜の精確な読みと、白石花選手の直感的な手が交錯し、非常に興味深い展開となっています。
11. 71手目(H18)から80手目(R17)までの上辺での攻防は、両者の大局観が試される場面でした。特に黒79手目(Q17)は、一見すると単純な手に見えますが、実は非常に深い意味を持つ好手です。
## 終盤(81手目以降)
12. 81手目(S17)からの右上隅での戦いは、終盤戦の幕開けとなりました。ここでの細かい攻防が、最終的な勝敗を左右する重要な局面となっています。
13. 96手目(F13)は、紅茜らしい計算に基づいた好手です。これにより、中央での白の厚みが一気に生きてきました。
14. 100手目(B14)は、この対局の転換点となる可能性のある手です。左辺の形を整えつつ、中央への影響力を強めるこの手は、AIならではの発想から生まれたものかもしれません。
15. 101手目以降の下辺での戦いは、両者の終盤力が試される場面です。特に黒115手目(P11)は、大きなポイントを確保する好手で、白石花選手の終盤での冴えを示しています。
16. 最後の下辺での攻防は、わずかな差が勝敗を分ける可能性のある緊迫した展開となっています。
・総評
この対局は、人間の直感と経験、そしてAIの計算力と新しい発想が交錯する、非常に興味深い内容となりました。白石花選手の大胆な変化球と粘り強さ、紅茜の精密な計算と新しいアイデアが、高いレベルで噛み合い、新しい囲碁の可能性を示唆する一局となりました。
特に注目すべきは、従来の定石を超えた新しい着想の手が随所に見られたことです。これは、人間とAIの協働がもたらす新しい囲碁の形を予感させるものでした。
最終的な勝敗は微妙なところですが、この一局が囲碁界に与える影響は計り知れません。人間とAIが互いに学び合い、高め合う、新しい時代の幕開けを感じさせる素晴らしい対局だったと言えるでしょう。
注釈:
(*1) orthodox:伝統的で標準的な手法
(*2) 中国流布石:中国で発展した現代的な布石戦略
(*3) 牽制:相手の動きを抑制すること
●当時の囲碁新聞の記事より
新時代の幕開け:人間とAIの激闘
白石花八段 vs 紅茜
場所:東京・日本棋院
日時:2064年5月15日
手合:黒番6目半コミ出し
**重要な手**:
1. 黒1(R16)星 2. 白2(D4)星 3. 黒3(Q3)低い構え
5. 黒5(C16)中国流 6. 白6(R6)牽制 7. 黒7(Q11)変化球
49. 黒49(O15)中央戦 79. 黒79(Q17)好手
85. 黒85(S15)攻め 96. 白96(F13)中央の厚み
100. 白100(B14)転換点 115. 黒115(P11)大きなポイント
**講評**:
本局は、人間の直感とAIの計算力が激突する歴史的な一戦となった。序盤から中盤にかけて、白石八段の大胆な変化球(黒7)とAI紅茜の精密な読みが光る。特に注目すべきは、79手目の黒の好手と、100手目の白の転換点。この二手が局面の流れを大きく左右した。
終盤戦では、両者の終盤力が遺憾なく発揮され、最後まで目が離せない展開となった。白石八段の豊富な経験と、紅茜の冷静な判断力が、新しい囲碁の可能性を示唆する素晴らしい内容だった。
本局は0.5目差で白勝ち。しかし、この一局が囲碁界に与えた影響は計り知れない。人間とAIが互いに学び合い、高め合う新時代の幕開けを感じさせる歴史的な一戦だったと言えるだろう。
●棋譜(SGF形式)
(;GM[1]FF[4]CA[UTF-8]AP[CGObан:3]ST[2]
RU[Japanese]SZ[19]KM[6.5]
PW[紅茜]PB[白石花]
;B[qd];W[dp];B[pq];W[fc];B[cd];W[qn];B[pk];W[dj];B[fe];W[cg]
;B[jd];W[dm];B[ck];W[cl];B[bk];W[bl];B[ak];W[al];B[am];W[bm]
;B[an];W[cn];B[bo];W[ao];B[ap];W[bp];B[aq];W[co];B[do];W[eo]
;B[dn];W[en];B[fo];W[go];B[fn];W[gn];B[ho];W[jo];B[hn];W[jn]
;B[ko];W[lo];B[kn];W[ln];B[mo];W[no];B[mn];W[nn];B[oo];W[pd]
;B[oq];W[nq];B[mq];W[lq];B[kq];W[jq];B[hq];W[gq];B[fq];W[eq]
;B[dq];W[er];B[fr];W[gr];B[hr];W[jr];B[kr];W[lr];B[mr];W[nr]
;B[or];W[pq];B[qq];W[rq];B[sq];W[sp];B[so];W[ro];B[po];W[qo]
;B[pp];W[qp];B[jf];W[fm];B[em];W[dl];B[cm];W[bn];B[aj];W[bj]
;B[cj];W[dk];B[ek];W[fk];B[gk];W[hk];B[jk];W[kk];B[lk];W[lm]
;B[nk];W[ok];B[pj];W[pj];B[qj];W[sj];B[tj];W[tj];B[so];W[ri]
;B[qi];W[qh];B[rg];W[sg];B[sf];W[sh];B[si];W[sk];B[sl];W[rl]
;B[rk];W[si];B[rh];W[qg];B[rj];W[ph];B[oh];W[nh];B[mh];W[lh]
;B[kh];W[jh];B[hh];W[gh];B[fh];W[eh];B[dh];W[ch];B[bh];W[ah]
;B[ag];W[bg];B[cg];W[dg];B[eg];W[fg];B[gg];W[hg];B[jg];W[kg]
;B[lg];W[mg];B[lf];W[mf];B[me];W[ne];B[md];W[nd];B[mc];W[nc]
;B[mb])
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