(七)暴走

「ナギ、アレはどうなっている」

 黒影は大太刀を構えながら、顎先でそれを示した。次から次へと閃くまばゆさに目を細める。眼前を満たす雷の中心にうずくまっているのは、ほかでもないソウだ。彼を中心にして、途方もない雷が生まれ、周囲に破壊のかぎりを尽くしている。一帯は焼けて、すでに生命の気配はない。

 焼き切れる、においがする。

 惨状を目の前に声をふるわせたのはナギだ。

「そんな。こんな事故、めったに起こることではないのに。いや、ありえない。だって――、」

「説明しろ。アレはどうにかできるのか。端的に、わかるように話せ」

「……体内から体外へ。発露した魔素――すなわち、〈魔導力〉が暴走しています。本来、個体が持っている魔素が発露し、かつ〈魔導力〉となって暴走することはないのです。たとえ、なんらかの原因で暴走したとしても、現代の人間があれほどの規模で発現させられるわけがない。ありえないんです」

「ソウはどうなる」

「このままだと暴走した〈魔導力〉によって……死んで、しまいます」

「方法があるんだな」

 黒影は低い声でうながした。しかし、返ってきた言葉は「危険です!」という、実に腑抜ふぬけたもので、それを聞いた瞬間、黒影はナギの襟首をつかんでいた。

「やるかどうかを決めるのは後でいい!」

 びくり、とナギの肩が大きくふるえる。そのさまも実に不快だ。

「どのみちこのままだとキサマも雷に呑まれるぞ」脅す。「それとも、ソウを捨て置くか。それもかまわん。ワタシはキサマを護るつもりなど毛頭ない。どこへでもゆけ!」

 ナギはすこしの間、情けなく視線を逸らしたまま黙っていたが、やがて、自らを諭すように腕のバングルに触れた。一度目を閉じる。そして、ひらく。その一挙一動でさえ、どこかもったいぶっているように感じられて、いらだたたしい。

 まぶたにぐっとちからを入れたまま、彼は歯噛みするように声をしぼりだした。

「……外部から、彼の内部にある、魔素回路に干渉します。しかし失敗すれば、二人とも死にます。ですから推奨しません。それでも、そんな危険を冒してまで、あなたは――、」

「二度言わせるな」

 ぎろり睨む。

 怯えなかった。代わりに、一度息をついて、そしてどこか諦めたように、また口をひらいた。

「まず、目の前の雷撃をかいくぐったうえで、ソウくんに直接触れる。このとき、できれば彼の意識が、あなたに向いたほうが良い。――ここまでが第一段階」

「次は」

「ソウくんの魔素回路へ干渉を開始します。この時、彼の意識に呑まれないように気をつけてください。感覚はおそらく、魔導武具を使用するときと近しいはずです。弾かれないよう、かつ呑まれないように自我を保ちながら、黒影ちゃんの魔素を流しこんで……って、黒影ちゃん!」

 彼の説明が終わらないうちに、黒影は地面を蹴った。ソウがナイフを抜いたのが見えたからだ。

(あの、バカ)

 大太刀で雷撃を裂きながら、湿った地面を蹴る。チカチカと明滅する光の残滓をはらって、一直線に、向かう。

(自害するつもりか!)

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