真夜中のジイさん
永嶋良一
第1話
ボクは一年前まで、ある病気で長期の入院をしていた。
これはそのときに、ボクが本当に体験した話だ・・・
ボクの病室は個室だった。でも、お金を出して特別に個室にしてもらったわけではない。病気の性質から、ボクは否応なしに特殊な装置が付いた病室に入れられていたのだ。許可なく勝手に病室から出ることは固く禁じられていた。だから、シャワーやトイレが病室内に設置されていた。
ただ、特殊な病室に入れられていたといっても、病室のドアが施錠されていたわけではない。入り口に『ここは特殊な病室なので、ドアを開けっぱなしにしないでください』といった趣旨の掲示がしてあるだけで、入り口のドアにはカギはなく、病室に入ろうと思えば誰でも簡単に入ることができた。
ある夜のことだ。
その夜、ボクは眠れなかった。でも、これは珍しいことではないのだ。一日中、ベッドの上で過ごしていると身体のリズムがおかしくなってくる。夜になっても、なかなか寝付けないことが多いのだ。おそらく体のリズムが、「今は夜なのか昼なのか」ということを認識できなくなるからだろう。
そのときも、ボクはベッドの上で眠れない夜を過ごしていた。
病院の夜は、夜勤の看護師さんが2時間ごとに巡回に来ることになっていた。時刻で言うと、22時、0時、2時、4時の4回だ。
看護師さんの巡回のときには、ボクは眠れなくても、寝たふりをするようにしていた。起きていると・・看護師さんによっては、自分が病室に入ったときに立てた音で、ボクを起こしてしまったと勘違いして、「あっ、私が起こしてしまったんですね。しまったぁ、本当にごめんなさい」と狼狽する人がいるからだ。
こんなとき、ボクはいつも「いえ、違うんです。ボクは眠れなくて、ずっと起きていたんです」と説明するのだが、夜中に、それも2時間ごとに、こんなやり取りをしていると、本当に眠れなくなってしまう。それで、いつも寝たふりをしているというわけなんだ。
さて、その夜のことだ。
2時になって・・巡回の看護師さんが、そっとドアを開けて室内に入ってきた。ボクは、いつものように寝たふりをしていた。病室内には・・夜間に部屋をほんのりと照らすための小さな室内灯がありますね・・あの室内灯だけをつけていた。でも、室内灯といっても、ここは病院なので・・一般家庭のものよりは、はるかに明るくて、室内灯の明かりだけでも室内の様子がよく分かるのだ。
看護師さんは、そんな明りに照らされた、ボクと室内をゆっくりと見まわした。そして、何も異常がないことを確認すると、そっとドアを開けて病室を出て行った。
それから、20分ぐらいしたときだ。
病室のドアが、カチャリと音を立てた。
(つづく)
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