第41話 潜入

エニグマ号はイリディウム監獄の周囲に漂う、見えない障壁のような静寂の中に入り込んだ。ゼノは、コクピットの窓から監獄の暗い影をじっと見つめていた。巨大な金属の塊が無音で宇宙空間に浮かび、まるでその存在そのものが銀河の秘密を飲み込んでいるかのようだった。


「到着するぞ。」リラ・ナイトシェイドが静かに呟いた。彼女の手は、慎重にエニグマ号を操縦し、監獄の脇にある遮蔽された軌道に滑り込ませていく。


「スキャンは完了した?」ゼノが尋ねると、ナヴィがすぐに返事をした。


「完全にステルス状態だ。監視システムには引っかからない。」彼女の声は冷静だが、その表情には慎重な警戒が滲んでいた。


「よし、突入準備だ。」ゼノはすぐに作戦チームに指示を飛ばした。


ケイド・ローガンは、慣れた手つきでブラスターを腰に装着し、シールド装置をチェックしていた。「こんな場所に潜入するのは、これで何度目だ?」彼は半ば冗談のように呟いたが、その目は鋭く、戦闘準備は完璧だった。


「忘れたのか?前回は命を落としかけた。」リラが彼を横目に見ながら言ったが、顔には微かな微笑が浮かんでいた。


「だからこそ、今回は成功させるさ。」ケイドは不敵に笑った。


ゼノは黙ってブラスターを腰にしまい、データパッドに表示された監獄の詳細な地図を確認した。「内部の協力者と合流するまで、絶対に無駄な戦闘は避ける。カサンドラの救出が最優先だ。」


「誰が協力者か分かっているの?」リラが尋ねた。


ゼノは彼女を一瞥し、重々しい声で答えた。「正体は不明だが、彼女が連合のために命を懸けて情報を流していることは確かだ。信じるしかない。」


リラは短く頷き、静かに呼吸を整えた。ブリッジの緊張感は、潜入が始まる前の嵐の前の静けさのようだった。


「よし、行くぞ。」ゼノの声が響いた。


船内のドアが開き、彼らはエニグマ号から静かに降り立った。監獄の外壁にある薄暗いサービスハッチに向かい、ナヴィが機器を操作してハッチのロックを解除した。金属製のドアが静かに開き、その先には無数の通路が広がっていた。


「こっから先は、俺たちの腕次第だな。」ケイドが呟き、ブラスターを握り締めた。


ゼノは彼に軽く目を向け、真剣な表情で言った。「この一歩が、銀河の未来を左右する。慎重に行こう。」


彼らはハッチを越え、イリディウム監獄の暗い腹の中に足を踏み入れた。その瞬間、冷たく張り詰めた空気が彼らを包み込み、無数の眼が彼らを監視しているような感覚が漂った。


廊下は無音で、不気味なまでに静かだった。しかし、その先には、カサンドラ・ヴェイルが持つ銀河の未来を揺るがす秘密が待っていた。

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