第3話

 応仁の乱が激化し、京都の街はかつての栄華を失い、荒廃の一途をたどっていた。町は戦火で焼き尽くされ、逃げ惑う民衆の悲鳴が至る所で響き渡っていた。寺院や神社もまた戦場となり、守りを託された神々の力は衰えていった。


 この混沌の中、霧島遥香は霊泉の力を操る巫女として、数々の土地を巡り災厄を鎮めてきたが、今、彼女にとって最大の試練が訪れていた。京都の中心で、古くからの怨霊たちが再び目覚め、その力を増しつつあったのだ。


 特に恐れられていたのは、平安時代から封じ込められていた「鬼門」の守護者たる怨霊、そしてそれを率いる強大な霊「闇の将軍」。かつての戦で命を落とした者たちの憎しみが、この混乱に乗じて闇の将軍を呼び覚ましたのだ。彼の力は、夜空を覆う闇そのものであり、彼が放つ呪詛は一帯に広がり、兵士たちを狂気に陥らせた。


 遥香は、京都に到着するや否や、その地に漂う強大な邪気を感じ取った。彼女は急ぎ、霊泉の力を高めるため、都の東山にある古い神社へと向かった。そこには、遥香の祖先が残した霊具が隠されており、それを使うことで怨霊たちと対峙するための力を得ることができるという。


 しかし、神社にたどり着いた時、そこもまた戦火の影響で荒れ果てていた。朽ち果てた社殿の前で、遥香は先祖の霊に呼びかけ、霊具を手に入れるべく、古い祭壇の封印を解いた。封印が解かれると、霊具の中から眩い光が放たれ、遥香の体に浸透していった。それは、かつての巫女たちが長い年月をかけて蓄えてきた霊的な力であり、今、遥香に全てが託されたのだ。


 力を得た遥香は、東山から都の中心部へと戻り、鬼門の封印を強化するための準備を始めた。彼女の周囲には、戦乱のさなかで命を落とした者たちの魂が集まり、怨霊の力に対抗するための護り手として共に立ち上がっていた。


 夜が更けるにつれ、闇の将軍が率いる怨霊たちが京都の街に迫り、遥香はその全ての力をもって彼らを迎え撃った。霊泉の力が放たれるたびに、怨霊たちは光に焼かれ、その姿を消していく。しかし、闇の将軍はそれに怯むことなく、遥香へと迫りくる。彼の剛力は凄まじく、遥香もまたその圧倒的な力に押し返されそうになった。


 だが、彼女は諦めなかった。霊具の力を全て開放し、結界を張り巡らせることで、闇の将軍を封じ込めることに成功した。彼の狂気の叫び声が響き渡る中、遥香は最後の力を振り絞り、彼を封印するための呪文を唱えた。


 光が街を包み込み、闇の将軍の姿が徐々に薄れていった。その瞬間、京都の夜空には再び星が瞬き、遥香の目には、戦火の残骸の中にかすかな希望の光が見えていた。


 しかし、応仁の乱の激化は止むことはなく、遥香の戦いもまた終わることはなかった。彼女は、破壊と混乱の中で人々を守るため、さらなる戦いの旅を続ける決意を胸に、再び旅立った。彼女の名は、やがて「霧島の巫女」として、戦乱の時代を生き抜く者たちの希望の象徴として語り継がれていった。


 霧島遥香が京都での激闘を終え、闇の将軍を封印した瞬間、彼女の周囲に突然異変が起こった。霊具の力が空間に干渉し、周囲の景色が急速に歪み始めた。彼女はその変化に驚きながらも、次第に視界が白く覆われるのを感じた。


 気がつくと、遥香は見知らぬ現代の街に立っていた。周囲には高層ビルが立ち並び、忙しそうに行き交う人々や、道路を行き交う車が見える。京都の戦乱から一変し、彼女は令和の時代にタイムスリップしてしまったのだ。


 彼女は辺りを見回し、呆然とした。遥香がかつて知っていた日本の風景とはまったく異なる現代の景色が広がっていた。歩道に立つビルの看板、街中を駆ける電車や車、人々の服装や生活様式の違いに、彼女は驚きを隠せなかった。


 その時、彼女の目に映ったのは、街の一角に立つ大きな神社だった。その神社には古い石の鳥居があり、神社の境内には伝統的な雰囲気が漂っていた。遥香は、現代の中に昔の面影を残すこの神社に惹かれ、足を運んでみることに決めた。


 神社に着くと、彼女は静かに境内を歩きながら、神社の神主や参拝客たちと出会った。神主は、遥香の古風な装いと不思議な雰囲気に興味を持ち、彼女に話しかけた。遥香は、自分がタイムスリップしてきたことを説明し、その神社に引き寄せられたことを話した。


 神主は彼女の話に耳を傾け、神社に伝わる古い伝説や、その神社が過去に霊的な力を持っていたことを教えてくれた。遥香は、その話を聞きながら、自分の使命がまだ終わっていないことを感じた。現代の日本でも、何らかの形で霊的な力や神々の助けが必要とされているのかもしれないと考えた。


 その夜、神社の境内で一晩過ごすことにした遥香は、夢の中で再び祖先の霊と出会った。霊たちは、彼女にこの時代でも新たな使命が待っていることを伝えた。彼女の力が、現代の問題にも対応できるようになったというのだ。


 翌朝、遥香は現代の街を歩きながら、霊的な力を駆使して困難を乗り越える決意を新たにした。彼女は、古代の知恵と現代の技術を融合させながら、新たな時代における戦いに挑むことを決めた。京都の戦乱を超えて、彼女の新たな冒険が始まるのであった。

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