第2話
稲葉神社の境内で、結界が完成し、ゾンビの侵略は一時的に食い止められた。しかし、稲葉正隆は、この結界だけでは長く持たないことを理解していた。夜が明けるまでの間に、さらなる強力な力が必要だと感じていた。
その時、稲葉神社の奥から静かに現れたのは、一人の若い女性だった。彼女の名は霧島遥香(きりしま はるか)、この地に伝わる巫女の血を引く者であり、古代の秘術を継承する最後の巫女だった。遥香は、祖母から伝授された術を使って、この地に隠された力を解き放つことができると稲葉に告げた。
「時間がありません、私がやるべきことは一つ。神社の奥にある霊泉から力を引き出し、この地に永遠の結界を張ることです」
遥香はそう言うと、巫女装束に身を包み、霊泉へと向かった。霊泉は、神社のさらに奥深く、杉並木の裏手に隠された神聖な泉であり、古くからこの地を守護する力を宿していた。しかし、その力を引き出すには、強力な術者が必要だった。
霧島遥香は、霊泉の前に立つと、深い呼吸をして瞑想に入った。彼女の心は徐々に澄み渡り、霊泉と一体化していった。遥香の体から淡い光が放たれ、その光が泉の中へと吸い込まれていく。泉の水は静かに揺れ、やがて光り始めた。
一方、稲葉神社の外では、結界の力が次第に弱まり、ゾンビたちが再び押し寄せてきた。生存者たちは必死に抵抗を続けていたが、次第に力尽き、疲弊していた。その時、神社の門前に一筋の光が降り注ぎ、遙香が霊泉の力を引き出す儀式を完了したことを知らせた。
遥香は巫女の杖を高く掲げ、古代の言葉で強力な呪文を唱え始めた。その声は風に乗って響き渡り、周囲の杉並木が再びざわめき出した。すると、霊泉から溢れ出した力が一瞬にして広がり、神社全体を包み込んだ。その光は、まるで夜を明るい昼間に変えるように強烈だった。
その瞬間、ゾンビたちは足を止め、その場で崩れ落ちた。遙香の唱えた呪文の力が、ゾンビたちを消滅させていたのだ。生存者たちは、呆然と立ち尽くしながらも、遥香に向かって感謝の声をあげた。
「これで終わりじゃないわ。夜が明けるまで、まだ何が起こるかわからない。皆さん、ここで夜を明かしましょう。結界の中なら安全です」
遙香は生存者たちに語りかけた。彼女の言葉には、力強さと安堵が混ざり合っていた。生存者たちは、稲葉神社の境内に集まり、疲れた体を休めた。
夜が明けると、浦和の街は静かに目覚め始めた。ゾンビの脅威は去り、街に再び平和が訪れた。遙香は、霊泉の力を使ってこの地を守るための新たな結界を完成させ、その力を後世に伝えることを決意した。
稲葉神社の巫女として、霧島遥香はこれからもこの地を守り続ける。彼女の存在は、生存者たちにとって希望の象徴となり、浦和の街に新たな時代をもたらす光となった。
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