賢者と魔王。千年後の世界で再び出会い、冒険者として旅をすることに

世界るい

第1話 賢者千年後の世界へ転生する 

「あー、あー」


 千年。千年ぶりの肉体だ。

 

 魔王と相討ちとなり、死んでから千年という長い時間を魂として過ごし、今日ようやく生まれ変わることができた。


 にぎにぎ。


 随分と小さくなった手を握ったり開いたりしてみる。


「肉体、久しぶり」


 感動もひとしおだ。空気を吸い、辺りを見渡す。転生したのは深い森の中、小さな湖のほとりまで駆ける。風が気持ちいい。

 そして湖を覗き込めば──。


「たっはー、若っ」


 笑えた。若かりし頃の自分だ。魔王を討った時は三十を超えていたが今はどうだろうか。黒目黒髪の少年。せいぜい十歳くらいだろう。


「ま、この年齢なら全裸でも怒られまい」


 転生したての俺は全裸だった。深い森の中で自然との一体感を堪能するには丁度良い。『魔法収納アイテムボックス」の中には千年前の様々なアイテムが時間を止めて保管されているため子供服だって探せばあるだろう。

 だが今は無粋だ。草に寝転び、土に塗れ、湖を泳ぎ、空を飛び回る。


「俺は自由だぁぁぁああ!!」


 全裸で叫ぶ。驚いたのか鳥たちが一斉に森から羽ばたく。


「ハッハッハッハ。平和だなぁ〜、っと」


 言ってたら翼竜種、ワイバーンに突進されたのでひらりと避ける。


 ぐぅ〜。腹が鳴った。


「ふむ。では、転生一発目の食事はお前にすることとしよう。今は昼時くらいか。ならば聞け昼ごはんよ。俺の名は賢者ウィルフレッド。今からお前を喰らうものだ」


 名乗りを上げ、無詠唱で魔法陣を五枚浮かべ、重ねていく。五重魔法──『風神』


 意思を持った暴風がワイバーンの全身を粉砕し、切り刻む。血液は全て蒸発し、内臓は森の彼方へ。鱗は全て剥がれ落ち、身と皮と骨がぐるぐると宙に浮いている。


 そのままゆっくりと森の中へ降り、土魔法で鍋を作り、水魔法で水を張る。岩魔法で塩を入れたら火魔法で一気に沸騰させ、骨と皮を投入。ダシを取っていくが、重力魔法で圧力を掛けると時短だ。分離魔法でアクは浮かせて蒸発させる。

 

 あっという間にできた澄んだ色のワイバーンスープでローストしたワイバーンの肉を煮込む。その間に鉄魔法で生成した串に肉を差し、人差し指の先から火魔法を出し、じっくり丁寧に脂を落としながら焼いていく。


 木魔法で皿とお椀、スプーンを作り、はい完成。ワイバーンスープとワイバーン串だ。


「いただきまーす。ズズッ。うめぇぇぇぇっ、千年ぶりの食事うめぇぇぇよぉぉ。煮込んだ肉はとろとろで溶けて、焼いた肉はジューシーで歯ごたえもある、と」


 よかった。魔法使えて本当に良かった!


「ご馳走様でした」


 たらふく食べたあと、使った鍋や食器は土へと還し、木へと還す。世界から借りたものは世界へと還す。これこそ魔法なり。


「さてー、いい加減服を着て街へいくかー。魔法収納アイテムボックスの中は……。うーん、ごちゃごちゃしてるー」


 アイテムボックスの中を覗き込んだがあるかないか分からない子供服を探すのはめんどくさい。



「ならば作るまで召喚魔法、エクストラシルキーワーム」


 魔法陣から白く輝く人差し指ほどの大きさのイモムシが現れる。


「服一式頼む」


「シャー」


 エクストラシルキーワーム君は小さな口で小さく返事をすると糸を吐き出し、あっという間に服が出来上がる。着色センスまで抜群だ。


「うん、ありがとう」


 俺は最高の着心地に満足し、召喚魔法を解く。


「じゃあしゅっぱーつ」


 転移魔法を使い、人族最大の王国エルスタンの王都へと転移する。


「到着、と。おー、実際に見ると結構大きいなー」


 魂で過ごしている時もこの世界のことは見ていたがやはり実際に自分の足で立ち、自分の目で見ると違うものだ。


「いやー、千年前とは大違いだねー。あんな立派な門まで作っちゃってまぁ」


 正面出入り口であろう立派な門には門兵が何人も立っており、馬車や通行人の受付をしているようだ。


「まぁ何はともあれ入ってみますか」


 何気なくスタスタと門をくぐろうとする。


「止まれ。一人か?」


 まぁそりゃ子供が一人で外から入ろうとしたら止められるよね。


「そうだよ」


「では身分証、もしくは通行証を見せろ」


「んー。ないけど、はいこれ」


 俺は多少なり世の中のことは知っているつもりだ。見ず知らずの相手に言うことを聞かせたい時は殴るか袖の下ワイロか洗脳魔法だ。今回は穏便に済ませたいので金貨を渡した。


「なっ、こ、これは!?」


 門兵は驚きながらまじまじと金貨を眺める。俺がニコリと笑うと門兵もニコリと笑い──。


「ピーーーーーッ。怪しい少年一人を確保!連行しますっ!」


 笛を吹かれ大声で連行されると告げられた。


「金貨偽造は重罪だ。少年と言えど罪は重い。両手を出せ」


「……はい」


 こうして俺は千年振りに王都へ金貨偽造容疑者として帰還するのであった。



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