第27話 新入部員
私は語尾ににゃ~と付けるキャラに覚えがある。ゲームでは装備品などはフォルモーント王立学院内にある魔法具店にて購入することになるが、その魔法具店を経営しているのは魔法具制作部であった。この声の正体は、魔法具店の看板娘であるミーツェ・ハンチヴェアカーで間違いないだろう。
※ ミーツェ・ハンチヴェアカー 15歳 フォルモーント王立学院1年生 女性 身長163㎝ 栗毛のセミロング 猫のような大きな銀の瞳 小さな鼻とおちょぼ口 頭には猫耳のカチューシャを付けている。
「メロウ、こんなところで油を売っていないで、魔法具制作部に行くにゃ~」
「魔法具は食べられないから、料理研究部に入部するの」
メロウは大きく首を振ってミーツェの誘いを断る。
「ダメにゃ~。私と一緒に立派な魔法具士になると約束したにゃ~。あの約束は嘘だったにゃ~」
ミーツェは、悲し気な目をしてメロウに訴える。
「……」
メロウは何も言えなくなって俯いた。
「さぁ、一緒に行くにゃ~」
ミーツェはメロウの手を掴み連れて行こうとする。しかし、メロウは俯いたまま動こうとしない。
「メロウ、どうしてにゃ~。もう私のことが嫌いになったにゃ~」
ミーツェはにゃ~にゃ~と猫のように泣き出した。
「ちがうの。私はミーツェのことは大好きなの。でも……」
メロウも泣き出してミーツェにしがみついた。私は2人の姿を見て罪悪感を感じてしまった。おそらく2人は幼い頃に、フォルモーント王立学院で魔法具の勉強をして立派な魔法具士になると約束をしたのであろう。フォルモーント王立学院に入学するのはとても困難な道のりであり、入学するために2人は切磋琢磨して頑張ってきたにちがいない。それなのに私は、自分の部活を成立させるために、ゲームで得た知識を利用してメロウを強引に入部させようとしている。また、私の身勝手な行動の為に誰かの人生を変えようとしていた。プリンなど入部しなくても、魔法具店のように学院内で店を出して、販売することは可能である。むしろ、私は学院内でデザートを販売して、いずれカフェを開く時のための下地を作るつもりでいた。私はメロウの大食いを利用して入部させようとした卑怯な女である。
「私のことが好きにゃら、一緒に魔法具制作部へ入部するにゃ~」
「でも……」
メロウは顔をくしゃくしゃにして迷っているようだ。
「メロウちゃん、魔法具制作部に入部するといいわ」
これ以上私はメロウを引き留めることはできなかった。
「私はミーツェのことは大好きなの。でもプリンも大好きになったの」
メロウの気持ちはまだ揺れ動いている。
「メロウちゃん、プリンはいずれ学院内でも販売するつもりよ。それに、料理研究部が設立できたらいつでも遊びにきてプリンを試食するといいわ」
兼部を勧めたかったが、ミーツェは兼部を認めないと言っていた。兼部とは生易しいものではない。特に新入生は授業と部活で忙しくて兼部するのは難しい。
「……」
メロウの心はまだたゆっている。幼い時の約束か、それともプリンの誘惑か……。
「メロウ、魔法具制作部にはスイーツの時間があるにゃ~。一緒に美味しいスイーツを食べる約束を思い出すにゃ~」
「そうだったの。私は魔法具制作部に入部して美味しいスイーツを食べまくるの」
メロウは決断する。
「え!今何て言ったの」
私は自分の耳を疑った。
「ごめんなさいなの。プリンもとってもおいしかったの。でも、魔法具制作部のスイーツはすごく新鮮で美味しいと有名なの。だから入部は辞めるの」
「ちょっと待ってメロウちゃん。もっと詳しく教えて」
私は全力でメロウを引き留める。
「教えるの。私とミーツェは貧しい下級貴族の出身なの。でも、5歳の時、お母様に聞いたの。フォルモーント王立学院の魔法具制作部に入部するとお腹いっぱいスイーツが食べられるの。私とミーツェは甘い食べ物が大好きなの。だから、一生懸命2人で勉強をしてフォルモーント王立学院に入学したの。プリンのが甘くて美味しいけど、スイーツの時間がない料理研究部には入らないことにするの」
衝撃的な事実を聞いて私は呆れかえってしまったが、これは一気に2人とも勧誘できるチャンスだと感じた。さきほどの発言は前言撤回して卑怯と思われようが関係はない。
「メロウちゃん、ミーツェちゃん、聞いて。料理研究部に入部すれば、1日2回甘い食べ物を食べられる時間があるわ。しかも、いままでに食べたことがない美味しい食べ物を用意することを約束するわ」
「本当なの!」
最初に目を輝かせたのはメロウである。メロウは私の手に落ちたと言っても過言ではない。しかし、ミーツェは眉間にしわを寄せて私の言葉を疑っている。
「今日立ち上げる部活に、1日2回も美味しい食べ物を用意できる資金はないにゃ~」
ミーツェの言う通りである。できたての弱小の部活に学院から部費が支払われることはない。一方、魔法具制作部は、自分たちが作った魔法具を売って資金を調達することができるので、たくさんのスイーツを用意できる。しかし、私は5大貴族の令嬢かつ、自領では発案したお菓子でそれなりの利益を得ている。そんじょそこらの貴族とは違うのである。それに、学院内での販売活動が軌道にのれば、さらに資金が入ることになる。
「私のことは知っているかしら」
「有名だから知っているにゃ~。レーヴァンツァーン家の堕落令嬢にゃ~」
やっぱり私の悪名は至る所に届いているようだ。
「そう、私は5大貴族の堕落令嬢よ。お父様に頼めばいくらでも美味しい食べ物を用意できるのよ」
こういう時には堕落令嬢の肩書は説得力を増す。この言葉を聞いた2人は目を輝かせて入部すると言ってくれた。
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