第18話 魔法は剣に勝る

 フラムの行動は全て裏目にでてしまっている。ゲームではローゼは第1魔法研究部に入部して、イーリスから光魔法を学びつつフラムとの距離も縮まっていく。しかし、リアルの世界では全く逆のベクトルに進んでいる。フラムはローゼを第1魔法研究部へ入部させたい為に、私の悪口を言うことで、ローゼとの距離は離れていくばかりである。ゲームではクールで優しい韓国風のイケメンのはずが、リアルでは強引で空気を読めないヒステリック男子だとローゼに印象付けてしまった。さらにフラムは好きになったローゼが自分の思い描く道筋に進まないことへの苛立ちと、それを邪魔をしていると勘違いしている私への怒りで、完全に感情をコントロールできなくなっている。そんな状況で兄がフラムに模擬戦を申し込んだことによりフラムは怒りのままに突き進む。第1剣術探求部の部長であり今年特級騎士に合格した兄を圧倒的な強さで倒すことで、ローゼにカッコ良い姿を見せて自分に惚れさせるという駄作をとったのであった。そんなフラムの愚かな姿を見透かしたのか定かではないが、正義の令嬢イーリスは模擬戦の申し出を許可した。



 「お2人共、模擬戦の許可を出しましたが1つだけ条件があります」

 「聞かせてくれ」



 兄は落ち着いたトーンで聞き返す。



 「私が審判を致します。もし、危険と判断すればすぐに試合は中止致しますのでご理解ください」

 「問題はない」

 「俺もだ」



 2人の了承を得たことでイーリスが審判をすることになる。フォルモーント王立学院の闘技場は、生徒同士の技術の研鑽のために模擬戦をする場所であるが、それはあくまで表向きの顔であり裏の顔も存在する。今回の模擬戦は裏の顔の姿であり、学生間のトラブルや因縁を解決する場所となる。ゲームで兄が私に模擬戦を挑んだのもこの闘技場なので、もしかすると、私の行動により兄は私ではなくフラムに模擬戦を申し込むルートに変わったのかもしれない。そう思うと少しだけ複雑な気分になってしまう。



 「リーリエさん、メッサー様は必ず勝つと思います」



 私の浮かない表情を察知したローゼは、優しい笑みを浮かべながら声をかけてくれた。



 「そうね。兄は絶対に負けないわ」



 ゲームの兄はフラムと戦うどころか相手にもされないクズキャラである。一方フラムは1年生で特級魔法士に合格した天才魔法士であり、フォルモーント王立学院の中でもトップクラスの実力の持ち主である。すなわち、モブ以下と主要人物という天と地の差がある設定になっていた。しかし、リアルの世界では、兄は2年生で特級魔法士に合格した。フラムより1年遅い合格になるがモブ以下の兄が主要キャラの背後にまで手を伸ばすところまで這い上がってきたのである。

 

 新入生たちは思わぬショーの始まりに大いに沸いていた。特級騎士と特級魔法士の戦いはとても興味深い戦いでもある。この世界では騎士よりも魔法士のが強いとされているが、それはゲームでも同じことである。魔法士は騎士を見下し、騎士は魔法士に反骨心を抱いている。新入生の7割は魔法士なので兄にとってはアウェーの戦いになるだろう。



 「突然ですが、これより第1魔法研究部副部長フラム・グローサーベーアと第1剣術探求部部長メッサー・レーヴァンツァーンの模擬戦を行いたいと思います。勝利条件はどちらかが降参をした時、または、私の判断で勝負の勝敗を決めさせていただきます。なお、観客席には魔法障壁を配備致していますので、安心してご観戦してください」



 イーリスの言葉に新入生たちは興奮を抑えきれずに声を上げる。



 「フラムさん、生意気な騎士に天誅を!」

 「騎士などこの学院のお荷物にすぎないぜー」

 「堕落令嬢もろともぶち殺してください」

 「ついでに偽聖女にも天誅を!」



 新入生の魔法士達は、水を得た魚のように元気になってヤジを飛ばして目を輝かせる。一方、少数派の新入生の騎士達は、肩身が狭く応援をすることはできないが心の中で騎士の勝利を願う。



 「メッサーさん、がんばってください」



 ローゼは小さな体からは想像できないほどの大声で兄を応援する。すると、多くの新入生の魔法士がローゼを睨みつける。



 「この裏切り者が!やっぱりお前は偽物だったな」

 「コイツ正体を現したな」



 ローゼの言葉に悪意の言葉が投げつけられる。私はローゼに危害が加えらるのではないかと思い、すぐにローゼをかばうように前に立ち、罵声を飛ばした人物を睨みつける。



「静まりなさい。模擬戦は技術の研鑽を磨く場所です。応援するのはよろしいですが、相手を非難する言葉は控えてください」



 イーリスの言葉に観客席は再び静まり返る。



 「それでは模擬戦をはじめます」



 イーリスの開始の合図により模擬戦が始まった。兄は腰に帯刀している剣を抜き、魔力で筋力を強化して相手の出方を見るように剣を構えて動かない。騎士が魔法士に劣ると言われる原因の1つは間合いである。前世の記憶で説明すれば、拳銃と包丁どちらが強いのかと同じであり、答えは言うまでもないだろう。魔法の射程範囲は0mから50m、魔法の質によってさらに遠くからの攻撃も可能だ。しかし剣の射程範囲は個人差によるが1m前後だろう。剣圧により飛ぶ斬撃とうい技もあるのだが、飛ぶ斬撃をつかいこなせるのは一部の騎士だけである。離れた場所から一方的に蹂躙できる魔法士が優勢なのは当然だ。

 一方フラムは直ぐに兄から20mほど離れた場所に移動して絶対安全圏に入る。騎士がどれだけ魔法で筋力を強化をしても一瞬で20mの距離を縮めることは不可能なため絶対安全圏と言われている。この距離を保ちながら魔法で攻撃すれば騎士に負けることはない。特に障害物のない闘技場ならなおさらだ。この事を考えると闘技場は魔法士に有利な場所と言わざる得ないだろう。



 「お手本通りの戦法だな」



 兄はフラムのイメージ通りの動きを見て、余裕の笑みを浮かべる。



 「強がれるのも今のうちだけだ。火に勝る攻撃方法は存在しないことを身をもって感じるのだな」


 

 攻撃魔法の基礎は火魔法、水魔法、氷魔法、風魔法が基本とされる。しかし、火魔法以外を使う魔法士はほとんど存在しない。その理由は簡単だ。強力な火を前にすれば水は蒸発し、氷は解け、風では火を消すことはできない。また、強力な火は剣盾鎧など全ての物質を溶かす。この世界では火魔法は絶対的強者の魔法である。その火属性を属性進化させた爆炎属性を手にしたフラムは学院最強の魔法士の1人と言われるのは当然だった。



 「Flame Meteor Bomb火炎流星弾



 フラムは右手をボールを掴むように鷲掴みの形にして魔法の言葉を述べる。すると、右手の掌から魔力が放出されて直径2mほどの燃え盛る隕石の塊が形成され兄に向って発射された。その間僅か0,5秒。発射された直後に隕石の塊は破裂して直径10㎝ほどの無数の火の塊に変わり兄を襲う。その間僅か0,1秒。1秒未満で攻撃が完成する魔法は剣よりも勝ると言われるのは当然だった。

 


 

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