第4話 先読みの魔女

 私はロベリアを見て頭の中が真っ白になり呆然と立ち尽くす。私がこれほどまでにも驚いているにはきちんとした理由がある。それはゲームではロベリアに何度も殺された強敵だからである。まさか占い館【フルール】の店主がロベリアだとは想像もしなかった。知っていたらここには来なかっただろう。



「リーリエ様、今日は占いをしに来たのではないのでしょうか」



 私が黙り込んでいる姿を見たメローネは、独特の雰囲気のある占い館に戸惑っていると勘違いして、助け舟を出すように代わりに答えてくれた。


 

 「そう……だったわ」



 私はメローネの言葉にあわせる。



 「……占って欲しいのなら席に座るがよい」



 フードで隠れたロベリアの顔は口元だけしか確認はできないが、口角が上がり笑みを浮かべているように感じた。しかし、その笑みは微笑むというよりも怯えている私をあざ笑っているように感じた。



 「……はい」



 私は「はい」と返事するしか道は用意されていなかった。私は覚悟を決めて椅子に座る。



 「お嬢さん、私はお客様の守秘義務を第一に考えている。だから、このエリアには隠蔽魔法が掛けられていて、付き添いの方には恋の悩みを相談しているように聞こえるのじゃよ。なので安心して本心を告げるがよい」



 ロベリアはまるで私の心を見透かしているように呟く。私の目的は占いではなく呪いのアイテムが欲しいのである。



 「……」

 「お嬢さん、何を怯えているんだい」



 私は恐怖でロベリアの姿が大きく見える。まるで私はロベリアのてのひらに乗せられている気分である。


 

 「話したくないのら話さなくても良い。その代わりにこの水晶へ手をかざしてごらん」



 テーブルの上には30㎝ほどの灰色の水晶が置かれている。私は手をかざすか迷っていると、吸い込まれるように手が水晶に向かって動き出した。ゲームでのロベリアの別称は【先読みの魔女】、闇魔法を使って相手の考えを読み解くことができる。ゲームでの戦闘はターン制のバトルなので、先を読むことができるロベリアの回避率は100%と設定されている。その為、何度攻撃をしても全てミスになり全く攻撃が当たらない。攻略方法をしらなければ絶対に勝てない相手であった。ちなみに余談であるがローゼの場合は、光魔法で闇魔法を無効化できるのであっさりと倒すことが可能なのである。

 ゲームと同じ世界ならロベリアは闇魔法を使って相手の考えを読み解いて占いをしているのだろう。そう考えると私の目的は既に知っているのかもしれない。水晶に手をかざすという行為は演出に過ぎないと考えた方が妥当であろう。私は考えが読まれているかもしれないと思うと全身から汗がにじみ出る。この場所に呪いのアイテムを探しに来たことは既にバレているかもしれないが、私が転生者であることだけは絶対にバレではいけないと防衛本能が訴える。私はあえて呪いのアイテムが欲しいと強く願いながら水晶に手をかざす。


 

 「……。お嬢さんは占いではなく、これが欲しいのだね」



 ロベリアは薄気味悪い笑みを浮かべながら椅子から立ち上がりアイテムが並んでいる棚に向かう。そして、2つのアイテムを手にして椅子に座る。



 「これはお嬢さんが欲しがっている呪いのアイテムだよ。これで存分に恨みを晴らすがよい」


 

 ロベリアの言葉尻だけ捉えると私が呪いのアイテムを欲しいことは先読みされたが、自分に使いたいことは先読みされていないと思い少しホッとした。ロベリアは禍々しい黒いオーラを放つ不気味なブレスレットとリングを私に手渡す。私は目当ての品だけではなくもう1つ呪いのアイテムもゲットすることになる。



 「占い師さん、ありがとうございます。これで私の未来も晴れることになると思います。でも、呪いのアイテムなど使わずにきちんと話し合えば理解してもらえるのかもしれませんね」



 ロベリアが私に呪いのアイテムを手渡した時、一瞬だけ禍々しい笑みが消えて、暖かみのある笑みを浮かべていた。その笑みを見た瞬間にこの言葉が自然と出てしまった。

 

 ゲームでロベリアと直接対峙するのは、私がフォルモーント王立学院2年生の時である。終わりの森から魔獣が大発生して王都を襲う。ロベリアはその混乱に乗じてフォルモーント王国の国王レーヴェ・シュテルネンナハトの暗殺を目論むのである。

 ロベリアがレーヴェ国王の命を狙う理由、それはロベリアがレーヴェ国王の元彼女だからだ。20年前、第1王子であったレーヴェとロベリアは恋に落ちる。しかし、自分の娘をレーヴェ王子に嫁がせたい当時の宰相は、ロベリアを言葉巧みに騙して、終わりの森の洞窟に誘い出して酷い目にあわす。この悪行はロベリアと別れたいレーヴェ王子の指示だと聞かされたロベリアは生きる意味を失った。その後、洞窟に監禁されて死を待つだけのロベリアに手を差し伸べたのは、終わりの森に住む終焉の魔女であった。終焉の魔女は生きる屍状態だったロベリアに生きる希望を与える。それは、己の若さと引き換えに闇の魔法を授けレーヴェ王子に復讐をするチャンスを与えたのである。ロベリアが40歳なのに80歳前後の老婆に見えるのは、闇の魔法を手にした代償である。闇の魔法を手にしたロベリアは20年以上の歳月を費やし憎悪の種を集めて、多量の魔獣を発生させて復讐をする。

 このまま何もせずに4年が過ぎれば、憎悪の種を集めたロベリアは魔獣を多量発生させて王都を襲うことになる。もちろん、その目論見はローゼもしくは私によって食い止められるはずだ。私は主人公の座を放棄するので、実際はローゼが食い止めることになるだろう。しかし、本当にそれで良いのだろうか?ロベリアを救う方法はないのだろうか?と私はロベリアの暖かみのある笑みを見た時に感じたのである。だから、私は「でも、呪いのアイテムなど使わずにきちんと話し合えば理解してもらえるのかもしれませんね」と言ったのである。その真意は、きちんと話し合うことの大事さをロベリアに伝えたかったのである。


 ゲームでは私もしくはローゼに敗れたロベリアは、闇の魔法から解放されて本来の姿に戻る。その姿を見たレーヴェ国王は人目もはばからずに涙を流してロベリアを抱きしめる。お互いに真実を知った時、ロベリアは息を引き取り死を迎える。もし、ロベリアが復讐でなくレーヴェ国王ときちんと話し合えば未来は変わるのかもしれない。私はその可能性に賭けたのであった。



 

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