第2話 兄の分岐点

 私は立派な馬車に乗り【鑑定の儀】を受けるため、領内にある神殿へ向かう。



 「リーリエ、案ずることはない。必ずお前も立派な騎士になれるはずだ」



 私の不安げな顔を見た父は私を励ましてくれるのだが、不安な顔をしているのは【鑑定の儀】の結果だけではない。実はもう1つの理由がある。それは昨日思いついた秘策を成功させるためのアイテムが実際に存在するのわからないからである。ゲームではアイテムは私が直接入手したわけではなく、兄から入学祝いとしてもらったアイテムなのである。私の記憶では、公式のホームページにアイテムの入手場所が説明されていた。兄がアイテムを入手した場所は王都にある占い館【フルーフ】だったはず。王都に行くには私が住んでいる領地から馬車で3日はかかるので、幼い私が1人で行くことは親が許してくれない。そして、本当にあのアイテムが存在するのかも定かではない。秘策を思いついた私であったが、不安が払拭されることはなかった。



 ※シュヴェールト・レーヴァンツァーン リーリエの父 40歳 男 身長182㎝ 黒髪のツーブロック 一重の大きな赤の瞳 端正な顔立のガタイの良いイケメン親父。



 「はい、お父様」



 私は渾身の笑みを浮かべて父を安心させることにした。そもそも、【鑑定の儀】で魔法士向きの属性を引き当てれば、あのアイテムを探す必要もないはずだ。それにもし、3属性でなければゲームとは似た世界であり、ゲームとは同じ世界ではないことが立証され、私の秘策も徒労に終わるはず。私は3属性でないことを切に願った。



 隣町の神殿に到着した私は、【鑑定の儀】が行われる大理石で作られた荘厳な部屋に案内される。鑑定は直径30㎝の透明な水晶に手をかざすと、魔力の属性に反応して色が変わる仕組みになっている。火なら赤、水なら青、土なら茶色、風なら白色に光る。私は目を細め眉間にしわを寄せながら恐る恐る水晶に手をかざすと、最初に青く光り続いて茶色、そして最後に白く光った。



 「おめでとうございます、公爵様。リーリエ様は3属性を有しています。これは聖騎士になる資質をお持ちかもしれません」



 驚きと喜びを隠しきれない神官長が、大声で父に祝福の言葉を述べる。



 「うむ。当然の結果だ」



 父は今にも泣き出しそうなくらい嬉しい気持ちをぐっと抑えて、威厳を保つために冷静を装うが、神官長に見えないように強く握りしめた拳を背中に隠し、渾身のガッツポーズをしていた。しかしその一方、私は地獄の底につきおとされたかのような絶望の表情を浮かべていた。



 「リーリエ、どうしたのだ」

 「……」



 この世界はゲームと同じ世界だという証拠を示された私はそのまま神殿で気を失ってしまった。



 気が付くと私は自宅のベットで寝かされていた。



 「リーリエ様、お目覚めになられたのですね。体調は良くなりましたか?」



 メイドのメローネが優しく声をかける。



 「もう、平気よ。お父様はどうしているの?」

 「旦那様は明日王都へ向かわれますので、残っているお仕事を早急に終わらせているところです」


 「え!どうしてお父様は王都へ行くの?」

 「5日後にメッサー様の【剣聖試験】がありますので、旦那様も同行されるのです」



 ※ メッサー・レーヴァンツァーン リーリエの兄 15歳 男 身長175cm 栗毛のウルフカット 二重の赤い瞳 端正な顔立ちは父とそっくりである。



 1年に1度王都では【剣聖試験】が行われる。兄は今年の秋、王都にあるフォルモーント王立学園へ入学するためには、【剣聖試験】で下級騎士に合格する必要がある。15歳で下級騎士に合格するのは、前世で例えるならば、中学3年生で難関大学に合格するくらいに難しい。順を経るなら見習い騎士を受けるのが妥当である。しかし、フォルモーント王立学院に入学する条件は下級騎士以上が大前提となる。もちろん、5大貴族という地位とお金で入学する道も残されてはいるが、近衛騎士の称号を持つ父がそれを許すとは思えない。それに、ゲームでは兄は下級騎士に合格してフォルモーント王立学園に入学しているので心配は無用である。だから私は兄のことなど全く心配はしていない。この会話で一番大事なことは明日王都へ行くということである。



 「私も王都に行きたい!」



 都合が良く訪れた王都へ行くチャンスを逃すわけにはいかない。



 「リーリエ様、無理をなされてはいけません。お体を大事にして下さい」



 メローネは私の体のことを真剣に心配してくれている。



 「もう、大丈夫よ」



 私が神殿で倒れたのは体調が悪いからではなく精神的ショックである。しかし、秘策を成功させるためのアイテムを入手できるチャンスが訪れたことにより、私の気分はうなぎのぼりに良くなった。私はベットから颯爽と飛び降りて父が仕事をしている書斎に向かった。



 「お父様、私も王都へ連れて行って」



 書斎の扉をノックもせずに開いて大声で叫ぶ。



 「リーリエ様、扉を開ける時はノックをして下さい。行儀が悪いですよ」



 書斎には父と執事のセバスチャンがいた。


 ※セバスチャン 白髪の初老の男性。


 

 「リーリエ、もう体調は良くなったのか?」



 父はセバスチャンとは対照的に優しい笑顔で声をかけてくれる。



 「元気もりもりです。だから、私も王都へ行きたいで――す」



 私は前世の記憶にあった元気もりもりポーズをして元気度を猛アピールした。



 「ハハハハハ、本当に元気になってみたいだな。3属性を授かったリーリエなら剣聖試験を見学するのは良い勉強になるだろう。よし、連れていってやろう」

 「お父様、大好き」



 私は勢いよくジャンプしてお父様に抱き着いた。お父様は私を快く受け止めてくれて、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。

 


 

 「メッサー様、【鑑定の儀】の結果によりリーリエ様が3属性持ちだと判明されました。このままでしたら時期当主の座はリーリエ様になる可能性があります」

 「嘘だろ?俺は長男だぞ。親父の後を継ぐの俺のはずだ」


 「レーヴァンツァーン家では剣技の才能を重視しています。後世に剣技の才能を受け継がせるには、3属性持ちのリーリエ様を選ぶのは当然の流れだと思います」

 「……」


 「メッサー様、落ち込んでいる暇などありません。次期当主の座を守るにはリーリエ様以上の力を見せつける必要があります」

 「1属性の俺が3属性持ちのリーリエに勝てるのか」


 「不可能ではありません。私にお任せてください」



 ゲームの説明では妹思いの優しい兄は、この日を境に豹変して私を憎むようになり、事あるごとに私の邪魔をすることになる。まず、最初に兄が私にしたことは、私がフォルモーント王立学園へ入学した時に、アイテムをプレゼントしたことであった。


 

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