京都下鴨 神様のいそうろう
望月麻衣/角川文庫 キャラクター文芸
序章
あの特別な日を、わたしは昨日のことのように覚えている。
あれは、わたしが小学二年生になって間もない頃。
待ち合わせ場所がここだから、と母は
新緑が目に鮮やかに映る春である。
境内を行き交う人たちは浮かれた様子だったけれど、わたしの心は沈んでいた。
足取りは重く、お腹がしくしくしていて、背中の中心は石を押し付けられたように苦しい。目に映るのは、砂利道だけ。
「
前方から母の
その
実際に『降りてきた』わけではない。けれど、その時のわたしにはそう感じられた。
「大丈夫ですか?」
わたしの前に降りてきたその方は、そう言ってわたしの背中を優しく
その瞬間。
ふっ、と呼吸が楽になって、背中の重さが、お腹の痛みがなくなっていた。
自分になにが起こったのか分からず、戸惑いながら視線を上げると、そこには水干を
小さな顔の中に、形の良い目鼻が
神様だ、とわたしは思った。
彼がわたしの背中を摩った途端に、具合が良くなったし、何より、こんなに美しい少年がこの世の者なわけがない。
わたしは拝むような気持ちで、ありがとうございます、と小さく会釈をする。
手を合わせなかったのも、しっかりお辞儀できなかったのも母が近くにいたためだ。
きっと、この神様の姿も、母には見えないのだろう。
そう思っていたのだけど……、
「萌子、心配してくれているんだから、お礼くらい言いなさい」
母が
わたしは戸惑いながら、母と神様を交互に見た。
「お母さん、この方が見えるの?」
小声で
「当たり前じゃない。ありがとう、君。もしかして、神社の子?」
と、母は少年に向かって、にっこりと微笑む。
「いえ、あなた方をお迎えにあがったところです」
今度は母が、えっ、と戸惑いの表情を浮かべた。
「
それが、わたしとかの方の
以来、八年間、彼はわたしにとっての『神様』だ。
これは平凡なわたし、春宮萌子が美しい生き神様をただひたすらに推す……もとい、前世の記憶と不思議な力を持つ美しい青年・賀茂理龍と神様を尊むものがたり。
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