第4話 砂地に惑う獣


ズザッズザッズザッ(砂を踏みしめる音)


レイン「スーーッ …ふぅ……そろそろかな」


レインは汗を拭くと、出発の前日にデクノーツ街で買っておいたターバンを巻き付けた。


この世界の砂地は暑くない、それどころか大気は凍りつくような冷たさで、砂地には旅人を惑わせる幻砂というものが存在した


幻砂とは広大な砂地に迷い込み命を失った生物の思念がその場に停滞することで魔力砂が反応し幻覚を見せる現象の事である。


そして死者の思念が停滞しやすいという事は、同時に魔物との遭遇率が高いという事を意味していた。


僕は何度か師匠と戦闘訓練としてこの砂地に訪れていたのでそれをよく理解していた


ふとレインの頭に、過去にあった幻惑の砂地でのトラウマが蘇った


レイン「ハウリングサーベル……」


そう…この砂地には、 超特殊危険生物ランクCクラスのハウリングサーベル… 通称 砂隠れの轟虎が生息している


レインは1度この砂地で修行をしていた際に師匠とはぐれた事があった。焦っていたレインは幻砂の事を忘れていたのだろう、微かに見えた師匠の後ろ姿を必死に追いかけていた。師匠に追い付いたと思った矢先、レインは死を覚悟した。


グルルルルル!(獣の唸り声)


気が付けばハウリングサーベルの縄張りに踏み込んでいたのだ。

迷うこと無く襲いかかってきたハウリングサーベルにひと噛みでやられそうになったその時、緑の光と共に師匠が現れた。師匠は獣払いの魔法を使いハウリングサーベルを撃退してみせた。レインはそのお陰で何とか危機を脱する事が出来たのだった。



レイン(おっし、気を引き締めないと……)


そしてこの幻惑の砂地には本来使えないと困る必需品の方位磁針が機能しないという特徴があった。そう、この砂地を攻略するのに関してレインが頼れるのは自分の感だけなのだ。


レイン「…ふぅ、こうなるのなら感知魔法の一つや二つ覚えとけば良かったな〜…」


レインは愚痴を吐きながら、ズサズサと歩を進めていた。


そんな時、何かの影がこっちに走って向かって来るのが見えた。


レイン(!……もしかして、ハウリングサーベル!……………いやそれにしては小さ過ぎる、これは…人影か!)



レインはまず幻砂によるものか確認めるため、低級の風魔法を使った。



レイン「頬を撫でる涼やかな風よ杖に集いて敵を葬れ!マッハウィン………」


ガタガタガタガタッ


レイン「なっ、なんだ!?ただの低級魔法なのに魔力暴走を起こしてる!」


こっちに向かって来ている人影はそんな事お構い無しと言った風にレイン目掛けて飛び上がった。


人影「てりゃぁぁぁぁ!!」


この時レインは目撃した


レイン「幻砂じゃない…これは、獣人族!?」


レイン目掛けた獣人族の大振りが直撃しそうになった時、魔力暴走を起こしていた風魔法が暴発した。


レイン「うわぁぁぁっ!!!」


獣人族「キャァーーー!!」


2人共に吹き飛ばされ地面に打ち付けられた。


レイン「うッ…痛い」


でも唯一救いだったのは地面が砂で衝撃が吸収された事。


レイン「…!そういえばさっきの子は!」


獣人族「ゴホッ…ゴホッ……わ…たしが、助けないと…」


レイン(!?…この子の目、幻覚を見ている目!しかもこれは……)


獣人族「絶対に負けないっ!」


レインは確信した。


レイン(これは幻砂の影響なんかじゃない!第三者によって意図的にかけられた幻惑魔法だ!)


幻砂は幻を見せて旅人を惑わせる現象ではあるのだがある一定の距離以上近付くと消えて見えなくなる特徴があり何より実際にいる対象に幻砂が重なり幻を見せる事などありえないのだ。


レイン(となると…解幻魔法を使ってどうにか目を覚ましてもらいたいところだけど)


獣人族「うおりゃぁぁぁぁ!!」


レイン「うぉっ、ちょっと!待って!」


レイン(この鋭い爪の大振り、避けるだけでいっぱいいっぱい……とても詠唱する余裕なんてない)


それに今の僕の身体は無詠唱魔法師に変化している途中だからか魔力のコントロールが乱れてしまって上手く魔法が扱えない。


レイン(これじゃあ下手に動けないな、これは街で買っておいた幻砂対策の魔力の笛の出番かも)


魔力の笛とは空気中に含まれる魔素を吸収し貯める性質を持った笛で、笛を奏でる際その魔素を消費する事で旋律によった様々な効果を発揮する事が出来る代物である。


レインは必死に逃げながらその魔力の笛を使う隙を探した。


レイン「流石に獣人族なだけあってなかなか獲物を逃がしてくれない…こうなったら、」


レインは地面にある砂を掴むと相手の大振りの回避際に砂を投げかけた。


獣人族「んぎゃぁぁぁぁ!!」


少し悪い気がするけど思った通り隙が出来た!レインは急いで魔力の笛を取り出すと幻惑解除の旋律を奏でた。


♪~~~~、


レインの吹いたその音色は砂地中に響きわたった。


ほわ~~(辺りの幻砂が晴れる様子)


レイン(幻惑魔法にも効果あると良いんだけど…)


獣人族(ん…ここは…さっき黒いローブの仮面男に……砂をかけ……られて…マイ…ユ)


バタッ…


その獣人族はぼーっとしたと思うと地面に倒れ込んだ。


レインは急いでその子の元に駆けつけた。よく見るとその子は身体中傷だらけで、立っていたのが奇跡というレベルだった。


レイン「どこから来たんだろ?放っておく訳にも行かないし…」


レインはリュクサックを前に担いで自分に巻いていたターバンをその獣人の子に巻き付けると優しくおぶった。


レイン(とりあえず次の村まで連れて行って様子見ないとだな…)


レインはなるべく早く村に着けるよう急ぎ足で向かった。


僕が獣人の子をおぶって二時間が経ったという頃、


レイン「これは…アルマドラクダの管理小屋かな?…すみませーん、誰かいますかー…」


シーン………


辺りを見渡したがアルマドラクダらしき姿も管理人の姿もどこにもなかった。


レイン(この小屋…元アルマドラクダの管理小屋で今は使われてないってとこか)


見た目はボロっちかったが休憩をとるには申し分なかった。


レインはリュクサックから魔法具のエアルベットを取り出した。大きさは手のひらサイズなのだが魔法を使うとセミダブルぐらいの大きさのベットが完成する。


レイン「エアル」


レイン心を落ち着かせ詠唱無して唱えてみた。


・・・・・・


レイン「やっぱまだダメかぁ…」


スーー…バンッ


すると時間差で突然手のひらサイズだったエアルベットがセミダブルベットに変わった。


レイン「よし!まだ魔力が安定してないからか発動までにズレがあるけど上手くいったぞ!」


これがレインにとって初めての無詠唱魔法になった。


レイン(まずはこの子を寝かせてっと………、この子って女の子だよな……)


レイン(寝てるとは言え女の子だし……僕は床で寝るか、)


レインは固い砂混じりのレンガの床で眠りについた。


「に…………ん、にぃ…ちゃ…、兄ちゃん!」


レイン「…!おはようございます、師…匠」


獣人族の子「ん?…師匠?誰のこと言ってんだ?」


レイン(うぅッ、ツッ……体痛ぇ……って、誰だっけこの子……)


獣人族の子「兄ちゃんが助けてくれたんだろ?」


レイン(………あ!)


レイン「君、まだ動かない方がいいよ!」


レインは慌てて昨日傷だらけだった獣人の少女にそう言った。


獣人族の子「傷の事、心配してんのか?それなら大丈夫だ、もともと獣人族は傷の治りが早いからな」


そう言われてみれば昨日の傷がほぼ無くなっている。


レイン「へぇ~、獣人族ってすごいんだね」


獣人族の子「それはそうとなあ、兄ちゃん!白耳で白い尻尾の獣人族を見かけなかったか?」


レイン「ん~…君以外に獣人族の子は見てないよ」


獣人族の子「そっか…」


それを聞いた彼女の顔からは不安と怒りが感じとれた。


レイン(僕にはまだ何が何だか分からないけど放っておける感じでもないし力になれるならなってあげたい……まずは何事も話を聞いてみないと…)


レイン「君はどうしてあんなに怪我をしていたの?」


それを聞くと彼女は話し始めた。


獣人族の子「私とその子、…マイユっていうんだけど、マイユは謎の病を患っていて私達の小さな村では治せないらしいんだ…だから私達はマムト村に住むという仙人様に助けてもらうためこの砂地を渡っていたんだ。私ら獣人族は鼻がきくからここを通った先人達の路を辿って迷うこと無く進む事が出来た、だけどそんな時だった…あの黒いローブの仮面の男が現れたのは……」


レイン「仮面の男?」


獣人族の子「そう、そいつ奇妙な言葉を話し始めたと思うと魔物を操り突然私達に襲いかかってきた。私はすぐに避ける事が出来たんだけど、マイユは病のせいでとっさに動けずにそいつに捕まってしまった………マイユを助ける為に後を追ってたんだけど気が付いたらここに居たって訳…」


レイン「マイユに何かされる前に救い出さないといけない、ならまず先決なのは仮面の男の情報収集する事だと思う。出来る限り早く次の村に向かって話を聞こ……」


冷静さが崩れるように泣き出すと彼女は言った。


獣人の子「アイツ、この娘には利用価値があるって…言ってたんだ!だから…今助けに行かないと……いけないんだ!」


そう言うと彼女はボロの管理小屋から出ようとした、レインは急いでその子の肩に手を置き引き止めた


レイン(ダメだ…今のこの子は冷静さを失ってる、ここで止めないと状況が悪化するだけだ)


レインは彼女を安心させる為に作り笑いを浮かべてこう言った


レイン「ぼ く に ま か せ て !」


それを見た彼女の呼吸は徐々に落ち着き、平常心を取り戻していった。


ルルハ「ごめん、ありがとう…少し落ち着いた」


それからレイン達は情報収集をするためここから近い最初の目的地であるグクテト村に向かって再出発する事にした。


ルルハ「そういえば私の自己紹介してなかったな!私の名前はルルハ・ガルモッド!村で1番大きなガルモッド家の長女なんだ!ルルハって呼んでくれていいぜ」


レイン「僕はレイン、レインって読んで

もらっていいよ…よろしく!」


ルルハ「おう!よろしくな、レイン!」


そうしてレイン達は次の村目指して出発した

このまま無事に着けるといいが……

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