Annus Horribilis~拝啓、終わりの世界より~
しょーたろう@プロフに作品詳細あります
序章
第1話
20XX年7月某日―。
その日も、いつも通りだった。
変わったことといえば、ジョセフの軽口がいつにも増して軽い事くらいだろう。
鳥の羽根と比べても、きっと天秤はジョセフの方に傾くだろうな。
「どうも、静かだが、エリー。なんか、俺に対して失礼な事、…考えてるんじゃないだろうな?」
私の考えを見透かしたのか、棚の備品を機械で読み取りながら、背中越しに語り掛けてくる。向き直りながら、別の機械へと結果を入れ込んでいた。
「まさか。」
私は、肩を竦め、水の入ったケースを近くへと下ろす。
「貴方に対する正当な評価を下していただけだわ。」
「そりゃ、どうも。是非、内容を聞きたいもんだな。」
彼は、私がそれを伝えるわけがないとわかっているからか、そのまま、計数作業へと戻っていった。
私たちは今、核シェルターの整理をしていた。
パパが無理して備え付けたけれど、備品の管理をしないもんだから、古いのも新しいのもゴチャゴチャ。たまらず私は、幼馴染のジョセフに応援をお願いしたのだけど―。
「二人とも作業は進んでるー?」
「また痴話喧嘩かい?オシドリ夫婦もいい加減にしてくれよ。」
細かい作業が向いているとは言えない彼の性格に、私は他にも助っ人をお願いした。
「おいおいオシドリ夫婦ぅ?勘弁してくれよ。こいつと夫婦になんてなったら、喧嘩を売って歩いたって余っちまうよ」
「『喧嘩するほど仲がいい』なんて言葉が、東洋にはあるらしいぞ。」
彼はダニエル。優秀なエンジニアで、PC全般にとても詳しい。
なんか、黒い噂もあるみたいだけど……。きっと優秀な彼を妬んだ誰かさんの
「なんでもいいから、さっさと終わらせちゃいましょうよ。夕方から、雨が降るらしいわ。」
男二人の間を割るように歩いていく彼女はマリオン。
私の一番の親友で良き理解者だ。彼女を一言で表すなら『鉄人』だ。
男顔負けの体格に、バリバリに高い運動神経。
走るのだけは、苦手みたいだけど。
「ん、なに?私の顔になにかついてる?」
荷物を置いた彼女が、怪訝そうな
「いや、なにも。」
「変なエリー。」
下唇の内側を見せるようにして、不思議そうな表情を作ると彼女はまた、荷物を運びに戻ってしまう。
これが、私たち。
なんの変哲もない、どこにでもいるような仲良し4人組。
こんな日々が続くと、そう思ってたのに―。
「みんな!その場に伏せて!!」
「どうしたんだ、マリオン。血相変えて。トイレは奥だぜ。」
「言ってる場合じゃ―」
マリオンの言葉を遮るように、外で爆発音が響く。
よろめく私を、ダニエルが支えてくれる。
「ありがとう。」
私の言葉に、笑顔だけで答えると、ダニエルはマリオンの言葉の意味を尋ねる。
「マリオン……ゆっくりでいいから。説明してくれ。」
その言葉に、過呼吸気味だったマリオンは深呼吸をすると
衝撃的な事実を口にする。
「核が……放たれたわ。」
こうして私たちの日常は、非日常へといとも簡単にすり替えられた。
私たちの気持ちなど、置き去りにしたままで―。
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