虎松編2話 2024年11月27日 16:00頃


  「18時30分に会場で待ち合わせしよう」


 「一緒に行けばいいじゃないのよ」

 「他の誰もが貴方を、今日だけはダンスパートナーとして狙っているのよ」

 「会場につくまでに、横取りされちゃうわ」

 

 「儀礼服の紬を前にしたら」

 「ダンスパーティーどころではなくなってしまう」

 「ご容赦願おう」


 「ふふ」

 「それは困るわね」

 「まずはダンスパーティーの約束を果たしてもらわないと」


 「ああ、フィナーレダンスはそれからだ」


 「紬」

 「いつまで少女聖騎士でいるつもりだ」


 「いい加減、少女聖騎士から女聖騎士にクラスアップするレベルなんじゃないか」

 「今日、紬を女聖騎士にしてみせよう」


 「女聖騎士、ね」

 「もう、そんな頃なのかしらね」


 「ああ、間違いないさ」


 「それじゃあパーティ会場で」


 紬と別れ、自室に戻らず、僕は走りだしていた。

 

 なーにが、女聖騎士にしてみせようだ。

 そんな事、臆病でチキン童貞な僕に出来るか。

 僕だって、少年聖騎士だよ。

 

 僕は、走る事をやめなかった。

 怖かったから。 


 紬ちゃん、ごめん、僕はもう無理だよ。

 約束は破ります。

 僕は逃げ出しています。

 君とももう会う事もないかもしれません。

 僕は、もうだめなんです。

 元から、だめなやつなんです。


 上林月恵が死んでも、全てが終わったわけじゃない。

 上林月恵はラスボスなんかじゃない。

 

 オロチなんて遠い存在じゃない。

 ガイウス・ユリウス・カエサルも。

 ナポレオン・ボナパルトも。

 秦の始皇帝も。

 アレクサンドロス大王も。

 

 敵は、人類の敵はいくらでもいる。


 僕はもう、逃げ出します。


 それに、今は2024年11月27日の16:00頃だ。


 今日の19時からは、何が起きるか知っているだろうか。

 そんな事は、誰もが知っている。


 初めての本格的なフルダイブ型VRMMORPGエターナルファンタジーオンラインのサービス開始なんだ。

 生きてエターナルファンタジーオンラインがプレイできるなんて、思ってもいなかった。

 もしかしたら、死んで、エターナルファンタジーオンラインの世界に転生する。

なんて事はありえるかもしれないと考えてはいたけれど。


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