第34話


  「なんだコラァ」

 

 「もーいっぺんゆーてみぃ」


 「ええ、言ってやるわよ」

 「水守なんて、何もしてこなかったじゃない」

 「人類は、人類でなんとかしてきたのよ」

 「その癖に人類の祖先面して」

 「私も、水守には怒りがあるわよ」

 「水守に怒りがあっておかしいのかしら」

 「水守に怒らない貴方達の方がおかしいわよ」


 メルメちゃんの前に立ち、私も怒りを言葉にする。

 メルメちゃんから怒りを私に向けるだけでなく、これは本当の私の怒りよ。

 

 「お姉ちゃん」


 「逃げられるかしらメルメちゃん」


 「お姉ちゃんも、水守に怒りがあるんだね」

 

 「当然よ。あるに決ってるじゃないの」

 「けど、逃げられるなら逃げた方がいいわね」

 「この数の怒りを向けられて、勝ち目はないわ」


 「逃げても何の意味もないよ」

 

 「さっきの上林月恵かもしれないって奴も」

 「もうまとめてやっちまえ」


 「やってしまいましょうよ」

 「これ以上ごちゃごちゃ言うのもばからしいわ」

 「痛い目に合わせてやりましょう」


 「やっちまえー」


 「上林の偽物もロリガキも」

 「俺達を守ってくれた水守に暴言吐いてんだぞ」

 「やっちまう事に決めたぜぇ俺は」

 

 群衆の怒りがのぼっていく。


 「そうか、君は」


 義徒が、こちらに近づいてくる。


 「ごめんなさい」

 「水守一同を、端守の私が代表するには不足だが」

 「この場で謝罪させてくれ」


 義徒が、メルメちゃんに向かって深く頭を下げる。

 嘘偽りを感じられない謝罪だ。


 私も、なんとなくながら分かってきていた。

 このエターナルファンタジーの世界は、水守が人類の祖先として人類を守っている世界にある、平和な世界のエターナルファンタジーだ。

 そしてメルメちゃんは、水守が何もしなかった世界の人間で、そこからこのエターナルファンタジーにログインして繋がっている。


 私は、メルメちゃんがいる世界では、殺人者達を従ていた悪の親玉。

 大勢の人を殺害していた悪役。

 メルメちゃんが私に向ける怒りは本物で、でもその怒りを私にぶつけられても、何もできない。

 義徒と違って、謝罪する事すらできない。

 それなのに、義徒からは心からの謝罪が感じられる。


 私も、この世界での義徒にどれだけ怒りをぶつけても、何を言っても、何の意味もない。

 もう、何も意味がないんだ。



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