仕事での絡み
「え、どうしてもですか?」
「はい、どうしてもと隊長が言っておりまして・・・・」
食事をした次の日に出社したら、仕事開始して10分以内に別部署らしき人が入ってきて、”通信関係の指導をしてほしい”と言われた。
「私自体はできるけど、他に教えることができて教えることが上手い人って沢山いますよね?私がやる必要はないのでは・・・・」
「すみません、本当に。しかし、隊長はずっと”エミリーじゃないとダメだ”と言って聞かなくて・・・・このままだと俺がクビになりかねないんです!お願いします!」
なんか隊長に振り回されて悲痛な叫びをあげてる人がいる。それにしても、なぜ私の名前を知ってるの?そりゃあ私は有名だけどさ、それはどっちかっていうと、”ブランド微笑み”としてで、本名は知られてない・・・・はず。同僚からは”アベラールさん”と呼ばれているし、ファーストネームを呼び捨てにされてる人は・・・・
『エミリー、俺は今でもエミリーのことが好きだ。今はいいけど、今後少しでも俺を異性として思う瞬間があるなら返事をしてくれ。』
あれは色情霊に憑かれてああなったはずなのに、なぜか思い出すと顔が赤くなる。それにしても、ファーストネームを呼び捨てにする人・・・・ちょっと引き受けて会ってみようかな!もしかしたらただのストーカーかもしれないけど。
「わかりました。ひとまず一回だけ行ってみます。それ以降に関しては一旦保留にさせてください。私の予定は、今日の午後ならあいていますが、それがダメとなると一ヵ月以上無理なので、ダメならまた言ってください。」
「はい!」
なんか安堵した表情で走って去っていくところを見るに、振り回され具合も末期なんだろうな。
そのあと、今日の午後は開いてると言われたので、急遽行くことになった。
訓練室と呼ばれる場所についたら、すでに女性4人と男性一人が待機されていた。その男性は・・・・
「クロヴィスさん?」
なぜかクロヴィスさんがいた。そういえば同じ企業に就職しているとか言ってたっけとか思い出したが、条件はそろっているのだろうか。
事前に隊長あてに、”光属性魔法と闇属性魔法が両方使える人で、教えたい人と人数分だけ待機させておいてください”という内容の手紙を書いておいたから、その隊長の人が間違って配属してた、ていうオチじゃなければクロヴィスさんは条件を満たしていることになる。
光属性と闇属性というのは、対義属性だ。対義属性というのは真逆の性質を持つ属性のことで、両方習得するのは至難の業である。まあ、光属性と闇属性は対義属性の中では、一番両方習得している人が多い属性ではあるけど・・・・。
「え、なんで?」
「なんで隊長の名前を知ってるの?」
「もしかしてこの人が隊長の想い人なの!?」
「マジ!?隊長には高嶺の花ね!」
「・・・・お前ら。」
「「「「すみません!」」」」
ざわざわしていたのだけど、その内容から察するに、クロヴィスさんは隊長のようだ。どうやら隊長はクロヴィスさんのことだったらしい。・・・・色情霊、本当に祓ったのかな?
「えっと、教育担当のアベラールと申します。皆様は光属性と闇属性、両方を習得しているんですよね?」
「はい、そうですね。」
「ここにいる人たちは全員出来ますよ。」
「それはクロヴィスさんもよね?」
「うん、もともとバランス型だからね。」
「じゃあ、授業を始めます。」
教えてほしい内容は、”離れていても光属性魔法と闇属性魔法を放つことで指揮や通信などができるようになりたい”らしい。
なら、こちらの業界でも使われる信号でいいかなということで、”モールス信号”と呼ばれるやり方を教えようかなということです。
まあ、いきなり口頭で教えられても覚えられないのはわかりきっているので、紙に書いて覚えてもらおうと思って、事前準備はしてきた。
前提の話をしてから、モールス信号が書かれた表を渡す。そして、”これを覚えて各々が使えて読み取れるようになればいい”ということを説明した。モールス信号のことを数時間ほど勉強させた。
「そろそろ休憩しましょう。」
そろそろ私も疲れたので、休憩することにした。少し訓練室の中を歩こうかなと思って立ち上がる。
「クロヴィスさん、ちょっと訓練室の中を探索してもいい?」
「OK、案内するよ。」
そのOKという返事はよくわからないが、ニュアンス的に了承の返事だろう。それにしても、訓練室ってやっぱり訓練してるのかな?気になるな。
ちなみに、授業は訓練室の中の一室でやっていたので、ゆっくり見るのは初めてだ。
訓練室を出ると、剣と剣がぶつかり合う音や、魔法が発動する気配などが感じられた。ボーっと眺めていると、一人の女性が近づいてきた。
血色のよい真っ白な肌についている、濡れたカラスのような美しい髪と、同じような色に見えてよく見ると無数に光が入っている瞳と、顔の全部に神秘を感じるような女性だ。一つ指摘するとしたら・・・・
「クロヴィスさん、未成年を雇ってるの?」
身長がどう見ても未成年にしか見えないところだろうか。胸は結構あるけど、身長150cmもないと思う。身長だけを見れば11歳から12歳ぐらいにしか見えない。それも含めて、まるで・・・・
「いや、彼女はれっきとした成人女性だよ。」
「こんにちは。クロヴィスさん、その人って・・・・エミリーさん、よね?」
クロヴィスさんと呼んで、私の名前を知ってる人・・・・誰だろうか?記憶がないときに出会っていたの?
「うん、エミリーで合ってますよ。」
「よかったわね。二人とも、お幸せにね?」
異性の二人に対して”お幸せに”っていうって・・・・結婚、しか考えられないんだけど、どういうことなの?
「レイラさん、いつかかわいい子供を見せますよ。だから、待っててください。」
え、ちょっと待って?一旦落ち着け、私。まず、なんで私とクロヴィスさんが結婚することになってるの?色情霊に憑かれてるだけだよね?だったら一旦無視するとして、”レイラ”って名前のクロヴィスさんが敬語を使う人って・・・・
「あ、ごめんねエミリーさん。私の名前は”レイラ・イザード”っていうの。通信関係の教育担当になったみたいね。改めていうけど、よろしくね。関わることはないかもしれないけど。」
やっぱりそうだ。レイラ・イザードとは、”大賢者の旅”における女性主人公であり、第二次産業革命を起こした女性だ。市民革命を起こした”ライラ・イザード”の子孫と言われている。本編ではほとんどがレイラの視点になっている。
「レ、レイラ様、こちらこそよろしくお願いいたします!」
すごい緊張したような声ばっかり出てくる。
「クロヴィスさん、私の話、どんな話をしてるの?あんまり盛るなっていったよね?」
「盛ってないって!」
「じゃあ、なんでこんなにかしこまってるの?」
「・・・・」
「私の小説出してるよね?読んだんだけど、もうちょっと私の弱点とかを描写できてからにしなさいよ。」
「・・・・はい、すんません。」
訝しげな声で説教をするレイラ様と、縮こまるクロヴィスさんだが、二人は本当は仲いいんだろうなという雰囲気を感じる。ヲタクとしては喜ぶべきなのだろうが、なぜかこのときはもやもやしてしまった。
「あ、エミリーごめんね。レイラさんは強いんだけどね・・・・ちょっと性格が・・・・」
「性格が何だって?」
「す、すみません。」
「で、エミリーさん、クロヴィスさんの何なの?恋人?」
心底わくわくした表情と声色で言われたけど・・・・そっち方面では何もないよ?
「ただの友達ですよ?」
「そっかぁ、残念。クロヴィスさんがしきりにエミリーさんの話をしていたし、初恋だって聞いてたからそういう関係になってもおかしくないのに、残念ね。」
「へ?」
初恋?そうなの?こんなイケメンの?
「あ、告白の一つもされてないの?クロヴィスさんなら告白してそうだけど。」
「あれは色情霊に憑かれてるだけでは?」
「ええ、ないって!もしそうなら20年以上色情霊に憑かれてることになるから。とりあえずそれはないから大丈夫だよ。」
「え?」
だったら何なの?そうじゃないと、今までの言動は?なんであんな”私のことが好きです”みたいな態度をとれるの?
「エミリーさんって思ったより鈍感ね。実際エミリーさんはどうなの?クロヴィスさんのことが好きなの?」
「え?」
「まあ、今度飲みにでも行きましょう?そうしたらクロヴィスさんのエピソード、いっぱい聞かせてあげるから。」
「・・・・わかりました。」
この会話をして思ったのは、まず”口調がご令嬢っぽい”というのと、”レイラさんが以外とお茶目”というのと、”クロヴィスさんの初恋ってなんだろう”ということだった。
「そろそろ授業に戻りましょう。」
「そうだね。」
もやもやはいっぱい残るが、私は授業をすることにした。
あとがき
遅くなってしまい大変申し訳ございません。
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