第70話 3体目の蟲珀魔《こはくま》
「というわけで
「……我が王、それは拾ったとは言わないのでは?」
そのまま予定通りにクィマームのもとへ。けっこう長時間横になっていた気がしたけど、別にそんなことは無かった。
心配性なクィマームが俺を探しに来なかったのだ。
あの霧の中、そんなに時間が経っていないのか?
目の前で紅茶を飲むクィマームは悠然としている。
「とにかくそれは間違いなく
「知り合いなのか?」
「ええ。まあ随分前になりますね。共闘したことは無いですが」
「え? どういうこと?」
同じ
この形態で封印されていたのか? だとしたらなぜ彼女はこの
「そんなに不思議そうな顔をされなくても……。彼女は主を試すんですよ。社会性がないというか、自分本位というか」
虫に社会性なんて求めるなよ、と彼女の前で言ったら失言だな。
ヒトラーもびっくりの全体主義者の王、個人主義の対極なのだから。
「まあ、お前が言うならそうなんだろうな」
嘘である。話半分で合わせているだけだ。
正直彼女の目には、エルフやトレントはもちろん、日本人だって社会性があるようには見えないだろう。
クィマームも眷属も、「集団の利益のために死ね」を貫徹している。
私腹を肥やすことに腐心する上層部、優秀だが言うことを聞いてくれるとは限らない末端、両者の板挟みに苦しむ中間管理職。
どいつもこいつも社会性を欠いているように見えるに違いなのだ。
トレントなんて猶更だな。トップが「組織のために死ぬな。自身のために生きよ」とか言ってるんだし。
「ええ、だから私の知る限り初めてですね。
「そんなに珍しいの?」
「ま、私の知る限りですよ。
「そういうもんか」
たしかにこの世界は広い。
重力の法則が変わらないなら、この星は地球と同じくらいの大きさはあるのだろう。
ニンゲンの活動範囲は地上に限定されるから、洋上は無視できるとしても、航空機はまだ無いのだ。
世界が狭くなる前だ。
商人による売買の連鎖が大陸を端から端までつないで1枚の金貨を運んだとしても、一人の人間が横断することなどなかっただろう。
「で、今呼び出していいと思う?」
大事な問いだ。
これが気になったからクィマームに聞きに来たのだ。
「ええと、巣の中ではやめてください。彼女とは反りが合いませんので。それと彼女の体力的な問題で呼び出せないことはあり得ますが、その場合彼女は躊躇なく拒むので気にしなくていいですね」
「分かった。戦力は多い方がいいし、ちょっと呼んでみるよ」
「承知しました。あ、それともうひとつ」
「なんだ?」
「
「……いざ鎌倉タイプなのね。了解」
ああ、
まあ、人間もそうか。
そう思いながら外に出た。
あれ? やっぱり見晴らしが少し良くないか?
「……お前のしわざか?」
新しい
召喚光の後、6本腕の
「え、はい。空から見えづらかったので」
「空?」
「はい。私は蜘蛛の
? 飛んでるのは話の論理の方なんじゃないかな?
「え? クモって空飛べたっけ?」
「え? 飛べないんですか?」
目がギョロギョロ動いた。こういうところは蜘蛛っぽいか。
しかし、さっきは地球と似てるなあとか思ってたけど、こっちの世界のクモ、俺の知り合いと違う?
「あ、地球の蜘蛛は俺のこと知らないよな。知り合いではないか」
「……あのう、我が君、私なにかやっちゃいました?」
突然ライトノベル系主人公みたいなこと言い出した。
しかし、けっこうオズオズとした感じ。この様子を見るに、この
「えーと、その私はクラウディアです。特技は雷を落とすことと御昼寝をすることですよろしくお願いしするンゴ?」
いけない。俺も基本的にコミュ障だったな。どう返していいか分からないままフリーズしていたら、クラウディアがバグり出してしまった。
まあ、バグなのはもともとなんですけどね。
「そうか、とりあえずよろしくな、クラウディア」
あとこれも言っておかなければならないだろう。
「君の特技ってさあ、気配を消すことだったりしない?」
「ひぎゅ」
あ、変な悲鳴を上げた。
なにかトラウマを刺激してしまったのかもしれない。
クィマームも良く知らないと言うし、こいつのことをもっと知らなくてはならないな。
かくして、3体目の
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