1999年・桶川ストーカー殺人事件~野放しにされた最強最悪ストーカー~

44年の童貞地獄

第1話 白昼の惨劇

1999年10月26日午後12時50分、埼玉県桶川市のJR高崎線桶川駅西口にあるショッピングセンター桶川マイン(おけがわマイン パトリア桶川店)近くに跡見学園女子大学二年生の猪野詩織(21歳)が自転車でやって来た。

今日の大学の講義は午後からだ。

詩織は電車に乗ろうと自転車を歩道上の自転車置き場に止め、鍵をかける。


鍵をかけ終わった詩織が駅に向かって歩き出そうとした時だった。

彼女の背後から迫る男がいた。

紺色のスーツに青いシャツ、小太りの30男。

ちょっと普通のサラリーマンには見えない風体の男である。


男は彼女のすぐ近くに近寄るや、その手にはいつの間にかナイフが握られ、それで詩織の背中を刺した。

驚いて思わず振り返ったところへ、胸にも一突きが入った。


「ああああああ!!痛ったあああい!!!!」


けたたましい悲鳴を上げてうずくまった詩織はそのまま地面に倒れ込む。


最初何が起こったか分からなかった通行人や近くの店の人はこの時ひったくりか何かだと思ったらしい。

「ひったくりだ!」と何人かが詩織を刺した男を追ったが、その姿を見失う。


その間に詩織の状態は深刻なものとなっていた。

刺されていることがわかって救急車が呼ばれ、その場に居合わせた何人かが「がんばれがんばれ」と励ましていたが、刺された右背部と左胸部からは血が流れ続け、最初手を動かしてはいたが意識はすでになく、顔色も血色を失ってゆく。


詩織は救急車によって上尾中央総合病院へ搬送されたが、午後1時30分に死亡が確認される。

死因は肺損傷に基づく大量出血によるショック死であった。


当初この殺人事件は通り魔殺人と思われていた。

この1999年には池袋や下関で立て続けに通り魔殺人が起きており、これも同様だと思われていたのだ。

だが、それは違うことがすぐにわかる。


目撃者の証言によると、刺した男は事件前から現場近くで目撃され、何も持たずにブラブラしていたという。

つまり最初から詩織を待ち伏せていた可能性が高いと見られたのだ。


さらに彼女は長期間にわたってかなり悪質なストーカーに遭っていたことが判明する。

極めつけだったのが、マスコミが被害者である猪野詩織の身元を突き止め、取材のためにその自宅にやって来た時のことだ。


被害者の弟とみられる高校生風の少年がマスコミを見て呆然とし、こう口走った。


「マジかよ。ホントにやられちまったのかよ…」

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