第3話 何故そうなる!?

 宿屋を出発して暫く歩いていると、行商人の荷台に乗せてもらえることになった。

 酷く不安定な荷台の中で俺は瞑想を初めた。

 昨日の夜から寝ずに僧侶の治癒魔法の能力を上げる方法を探して、荷物の中にあった聖典と魔力に関する文献を読んでいた。

 言語はほとんど日本語で読解も簡単だった。「勇者の旅路」の作者は日本人だし、設定を練り込むのが面倒で日本語なのかもしれない。

 聖典を読み込んでみたものの、具体的にどうしたら魔力を上げることが出来るのか明言されていなかった。

 聖典曰く、「自分自身に打ち勝て!」とのこと。

 だいぶ大雑把なんだよな…。

 そこで俺はあえて集中できない場所で瞑想を行ってみることにしたのだ。


 すごい気持ち悪い…。もう酔ったのか?さっきから身体を揺すられているみたいだ。

 目を開くとオリヴィアが腕を掴んで揺すっていた。

 

「…酔うからやめてくれ。」

「ごめんなさい。返事がなかったから…。」


 そこでオリヴィアは素直に手を離した。


「悪いが、もう一度言ってくれ。」

「うん。ずっと目を閉じて何をしてるの?」

「魔力を上げる修行。」

「面白い方法だな。成果を見せてくれよ。」


 エアハルトは目を輝かせて顔を近づけてくる。


「そんなすぐに効果がでる訳ないだろ。」

「そうか?まぁ、近いうちに見せてもらうよ。」


 そこでガタッと音をたて、荷台が傾いた。


「どうした!?」


 エアハルトが真っ先に飛び出していった。続いてオリヴィアも出ていき、俺はしぶしぶ荷台の中から這い出た。

 きっと魔物にでも襲われたのだろう。俺がいたところで戦力になるとは考えにくいし、隠れていた方がましだ。しかし、ただでさえ悪い印象しかないんだから、これ以上卑怯者のレッテルを貼られることは避けたい。

 嫌々ながら外に出るとやはり襲ってきたのは角の生えた大きな獣の魔物だった。一見すると強そうだが、この世界では人の形をした魔物の方が強い。


「カイ!行商人を守ってくれ!」


 エアハルトが指示をだす声も切羽詰まったような雰囲気はない。

 昨日徹夜で文献を読んでいて本当に良かった。確か、防御魔法は僧侶でも使えたはずだ。それを使えればいい。だが、一度も実際に使えたことはない。

 何とか魔法を展開しようと四苦八苦しているところに、二人に敵わないと踏んだのか魔物が突然標的を変えてこっちに突っ込んできた。

 くそっ!なんでもいいから出てきてくれ!手を空中にかざすと魔法陣がやっと出てきた。ホッと胸をなでおろしたのも束の間で、魔法陣が紫の光を放った。なんだこれ?と困惑していると、ドサッと魔物が倒れる音がした。


「助かりました!ありがとうございます!」


呆然としている3人をよそに、行商人が俺にそう言い放った。



・・・・・・・・・・・・・・・

 そこから歩いたり、また商人の馬車に乗せてもらったりして、夕方に目的地であった伯爵領にたどり着いた。

 それまでの道地はエアハルトは呑気なもので「カイはいつも俺たちを驚かせてくれるな!」と笑っていたのに対して、オリヴィアは終始困惑した様子だった。いや、実際には俺が一番困惑していたのだが。

 伯爵領には多くの冒険者もいて、ずいぶん賑わっている。


「とりあえず、伯爵の邸宅まで行こうか。」


町並みを眺めながら2人の後ろを歩いていると後方から声をかけられた。


「よお、どっかで見たことのあるツラだと思ったら腰抜けのカイじゃないか。」

「…どちら様ですか?」


 振り返るとみすぼらしい男の冒険者が2人立っていた。


「都合の悪いことは忘れたふりか?」


 男の1人が胸ぐらを掴んだ。多分、2人はカイの過去の知り合いか何かで今の俺には全く知り得ない人物だった。

 なんとか適当にやり過ごせないかと考えているうちに間にエアハルトが入った。


「俺の仲間に何か用か?」

「仲間?ハハ!こんな無能なやつを仲間に入れてるんだ。お前達はとんだ能無しだな!」

「どうしてそんなに酷いことを言うの!」


 普段恥ずかしがり屋なはずのオリヴィアまで声を荒げる。どうでもいいから無視しようとも言い出せない雰囲気になってしまった…。


「攻撃魔法も使えない上に治癒魔法もド下手なんだから無能は本当のことだろ!」

「それは違うな、カイは治癒魔法も使えるし、攻撃魔法も使える。お前たちよりずっと強い。」

「はぁ?僧侶が攻撃魔法?何ふざけたことを言ってるんだ。」

「疑うのか?なら勝負しよう。」


 今すぐにエアハルトの口を無理矢理塞いでやりたいところだったのに体が動かない。冷や汗だけが滴っているのが分かる。

 エアハルトが近くの壁に貼ってあったポスターをおもむろに引き剥がした。


「これで勝負しよう。」


2人はエアハルトの手にあるポスターをまじまじ眺めてからニヤッと笑った。


「俺達は構わないぞ。この条件じゃ、カイに勝ち目はないしな。」


 2人は笑いながら去っていった。

 一体なんのポスターだったのかと俺もポスターを確認する。


「…正気か?」

「もちろん。」


 エアハルトは文字通りの爽やかな笑顔を向けてくる。

 内容は伯爵領内の森にいる魔物の討伐数を競い合う大会だった。しかも2週間後。


「よし、2週間以内にここを立とう。」

「それは駄目だ。伯爵様から周辺地域の討伐依頼があるかもしれないし。」

「…当日は2人も手伝ってくれるんだよな?」

「行けたら行く。」

「頑張って、カイ。」


 エアハルトから吹っ掛けたのにそれはないだろ…。どうしたものか考えながら、また3人で伯爵の邸宅に向かって歩き初めた。

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