勇者パーティーの僧侶は世界を滅ぼしたい
春野清秋
第1話 転生する
「はぁ?なんだこれ!」
呆れて見ていたスマホをベッドに投げつけた。俺が見ていたのはネット小説、「勇者の旅路」だ。
この小説は別に特段面白いわけでもなかったが、大学が夏休みに入り、想像を絶するほど暇だったから読み始めたものだった。
全く期待などせずに読みはじめた。にしてもこれは酷い。中盤まで物語は良く言えば王道、悪く言えば目新しさのない話だ。主人公で勇者のエアハルトが様々な困難に直面しながらも仲間と協力し、魔王を倒す。ここまではいい。ここで終わってくれれば良かったんだ。すべてを滅茶苦茶にしたのが最後の最後だ!
最後の文「そして世界は滅びました。」―
俺が勘違いしていただけで、まだ続くのか?と確認しても完結済みになっている。
「こんな雑な終わり方があるか!クソ作者!」
椅子の上で暴れていると、椅子が後方に勢いよく倒れた。
「いった…」
目を覚まし、起き上がるとそこはどこまでも続く暗闇の世界だった。そこに光に包まれた1冊の本が浮かんでいる。
「なんだ…これ。」
まだ状況が飲み込めていない。さっきまで自室にいたはずだ。
手を伸ばすと本は突然喋りだした。驚いて手を引っ込める。
「
「おい、待て。死亡したってどういうことだ!?」
本を掴もうとした瞬間、身体が光に包まれる。あまりの眩しさに目が眩み、強く目を閉じて、もう一度目を開くと俺はベッドの上にいた。固く、随分と粗末なベッドで部屋には装飾品もなく、ベッドと机があるだけだった。
何が起きたか分からず、ぼんやりしていると、部屋の扉がバンと開かれた。
「起きていたのか、カイ。」
「あぁ、ちょうど起きたところだ。」
落ち着いて答えたが、内心焦りまくっていた。カイ!?「勇者の旅路」のドクズ僧侶のカイのことか!?
「…変なことをきくが、お前は誰だ?」
「なんだ、まだ酔が覚めてないのか。自分が所属するパーティーのリーダーを忘れるなんて。」
「…エアハルト?」
「そうだ。どうしたんだよ、カイ。いつにも増して可怪しいぞ。もう1人で酒場に行くのは止めてくれ。お前が大暴れしたせいで酒場の主人に俺が怒られたんだぞ。」
どうやら目の前にいるのは主人公、エアハルトで間違いないようだった。そして、まだ魔王は討伐されておらず、旅の途中らしい。
エアハルトは「勇者の旅路」の言葉を引用すると「そよ風の生まれ変わり」、「月の光のような柔らかな笑顔」とある。まぁ、爽やかで優しそうな人物ってことだろう。なかなか背中がムズムズするような文章だ。
改めてエアハルトを見ると確かに金髪に緑の瞳で容姿も悪くない。
エアハルトは将来を約束された勇者だ。おだてつつ、冒険の邪魔さえしなければ問題ないだろう。
「悪かった、もう酒は飲まない。」
「はいはい。明日にはここを出発するから体調を整えておけよ。」
エアハルトは呆れ果てたような顔をして出ていった。
謝ったのになんだ、あの態度。
ここで俺は気づいた。カイは作中でやらかす度にエアハルトに謝り、二度としないと誓いをたてた。勿論、それが守られることはなかったが…。
「はぁ、俺信用0じゃん」
何気なく机を見ると、そこには1冊の古ぼけた本があった。急いてその本を手にとると、あの暗闇の中で光を放っていた気味の悪い本と同じに見えた。
恐る恐る開いてみると、見慣れて言語でこう書かれていた。
ミッション!
1、魔王を倒せ
2、世界を滅ぼせ
達成できなかった場合はこの世界でもう一度死亡する。(期限は今から1年)
俺はどうやらこの世界を滅ぼすらしい。
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