第12話 妹を思い出しました

「冷静になったわ」


 突如愛莉がそんなことを言い出した。

 風音の額に少し汗が滲んでる。


「茶道部の素晴らしい理念は分かりましたがそれがどうしてカフェに繋がるんですか?しかもお金を取るんでしょう?茶道部とカフェはどのように繋がったの?」


 それから……と愛莉は風音が用意していた料金表に目をやった。


「どうしてゆーまとの写真撮影が有料なの?私の彼氏が販売されているようで気は良くないのだけど」


 俺たちは顔を見合せた。

 たぶん、誰もが思ってると思う。


((((カフェの問題には気付いたのに、お茶飲んだだけで彼女ヅラはやめないんだ))))


「誰か答えてくれない?答えないならカフェまでは許可できないわ。私の彼氏を売るような真似はしないで欲しい。ゆーまは金で買えるような男じゃない」


(それが、買えちゃう男なんですよ、会長さん)


 だが、ここで生徒会長の機嫌を損ねるのは最悪だ。

 お金は欲しいから、どうにかしてカフェまでは許されたい。


 風音と視線だけで高速会話する。


「どうするんだ?」

「知らない。それっぽく答えて。金稼ぎに意味があるわけないでしょう」

「君の方がたぶん得意だろ?そういうのは」

「彼氏の口から言った方が納得するでしょう」


 ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……深呼吸してから答えた。


「資金集めだよ。葉っぱも無料じゃないんだ。高級な茶葉を使うためにもお金が必要。やっぱりお茶の味を決めるのは最終的には葉っぱだからさ、高いもの買いたい」

「ふーん。それなら仕方がないわね」


 どうやら納得したらしい。


 内心で胸を撫で下ろすと、愛莉はスマホを取り出した。


「ゆーま。さっそくツーショットしましょう」


 パシャっ。

 ふたりでハートマークを作って撮影した。


「ツーショット3000円だっけ?払うわね」


 俺に3000円渡してきた。


「いらないけど(さすがに少しでも機嫌を取っておきたい)」

「そこはフェアにいきましょう。みんな払うのに私だけ払わないのはフェアじゃないでしょ。茶葉を買うのに使って」


(真面目だなぁ。まぁ生徒会長っぽいけど)


「じゃあね、ゆーま。部活動、頑張ってね。応援してるから」


 彼女ヅラの生徒会長が部室を出ていった。


(かわいいなぁ、生徒会長)


 内心では色々言ってるけど別に生徒会長は嫌いじゃない。

 かわいいじゃん。ちょろくて。しかも健気で逆に応援したくなる。



 そのあと、これからの予定をみんなと話し合って俺たちは部室を後にした。


 涼音パパの待つ校門まで向かったんだけど、そこで涼音がこんなことを言い出した。


「あっ。忘れ物しました」


「何忘れたの?」


「教科書です。予習しようと思ってたのに」


 予習するなんて真面目だなぁ。


「姉さん、そんなのいいじゃん?一日くらい」

「そうはいきませんよ。勉強して少しでも将来の可能性を広げたいのです」


 ふたりの会話を見ているとふと呟いてしまった。


「仲良いよね、ふたり。羨ましいよ」


「そうですか?」

「そうかな?」


「うん、いいと思う。俺にも妹がいたけど、話してくれなかったし。嫌われてたんだろうな」


 なんでか分かんないけど。

 なんとなく嫌われてたんだろうなぁ、ってのはわかる。


 不思議だけどさ。あ、俺嫌われてんだなっていうのなんとなく分かるよね。

 うん。まぁ、いいや。妹の話は。

 嫌われてるなら俺も嫌うし。

 あんなやつの話したくないし、顔も思い出したくない。


 話を変えよう。


「涼音、忘れ物取りに行こうよ」


「はい」


「私は待ってるよー」


 風音は眠そうに目をこすって車の中に。

 俺と涼音は校舎の中に向かっていくことにした。


(俺も玉には予習してみようかな)


 涼音が頑張ってるし、俺も少しだけ頑張ろうかなって思うようになった。

 いつも机の中に教科書とか放り込んでるけど。

 一冊くらい持って帰るか。


「涼音、俺も教科書持って帰るよ。だから先に車まで行ってて」

「はい。ではまた後で」


 俺と涼音のクラスは違う。

 俺は自分のクラスまで向かっていくことにした。


 教室まで向かって扉を開けた。

 薄暗い教室の中……人がいた。

 女の子。


 俺と中にいた人物の目が合った。


 ありえない人がそこにいた。

 中にいた人物は笑顔を作った。


「こんばんは、兄さん」


 そこにいたのは俺の妹の双葉だった。


「なんで?こんなところに?」


 妹は俺よりも年下。

 この学園のこの校舎にいるわけがないのだ。


 この学園にはいわゆる中等部とか高等部がある。

 俺が通っているのは高等部。

 しかし、妹は中等部には通ってない。


 そもそも通っている学校が違うのだ。

 こんなところにいるわけが……。


(いや、待て)


 でも、それは元の世界の話。

 この世界の妹がもしも。



「そんなに不思議?私がここにいるの。中等部と高等部、同じ敷地内だよ?目と鼻の先。移動しようと思ったらいつでも移動できるよね?」


 ニヤッと笑ってた。


 俺の考えは恐らくだけど当たってる。


(この世界の双葉はたぶん、この学園に来てる。しかも通ってるのは中等部なんだ)


「それとも、そういうこと知らないかな?」


 訳知り顔だった。

 なんだ?今の含みを持たせたような言い方。


 気付いてるのだろうか?

 俺がこの世界の人間じゃないって。


「あなた、私の本当の兄さんじゃないよね?」


 ニヤニヤと笑いながらそう聞いてきた。


 間違いない。

 この子、俺が平行世界から来た人間だって気付いてる。


「かわいそうな兄さん。こんなにかわいい妹を前にしてもまだ警戒してるなんて」


 ピョンと机から飛び降りた。

 ちなみに、座っていたのは俺の机。

 なんだろう?机の角がしっとりと濡れているような気がするけど、気のせいか?


 いや、気のせいだと思いたい。

 気のせいだと思わなければ、俺はどうにかなってしまいそう。


 双葉は両手でスカートの裾を掴んでた。

 それから、バサッと下から上にたくしあげた。


 双葉は、履いてなかった。

 なにをとは言わないけど。


「私の予想が正しかったらさ。兄さん、私の事好きじゃない?」


 机に両手をついて、おしりをこっちに向けてきた。


 明らかに誘っている。

 ゴクリ。

 唾をのみこんだ。


「ヤッていいの?」

「聞かなきゃ分からない?かわいそうに。もちろんいいんだよ?」


 俺は……


 ゴキブリホイホイに釣られるゴキブリの如く。


 その誘いに乗ることにしてしまったのだった。


「おっぱいもいいんだよ?」

「ありがとうございます双葉ちゃん。愛してるぅぅぅぅぅぅぅぅ」


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