家出少女は夢を見るか

ねくしあ@カクコン準備中……

生活:序

 とある8月の昼下がり。

 真夏の雲が呑気にたゆたう中、とある家では内乱が起こっていた。


「――もういい! お母さんなんて知らない!」

「ちょっと未澪みれい! あんたどこいくの!?」


 耳障りなほどに響く2つの声。

 片方は怒りと嫌悪感に包まれた女子高生の、もう片方はその母親が心配する声だった。


「お母さんはもう黙って!」


 未澪みれいと呼ばれた少女が、頭の上の方で結ばれたポニーテールを激しく揺らしながら玄関のドアを乱暴に開けた。

 その装いは高校の制服であり、先程武器として使い捨てたスクールバッグも持たずに一歩、思い切り外に飛び出したのだ。


 立派な理由も、なんの計画性もないこの一連の行動は、要するに家出と呼ばれるものであった。


「もう……! なんで毎回あんなに口うるさく……!」


 文句をぶつぶつ呟きつつ拳をぎゅっと握り、一歩一歩を力強い足取りで進んでいく未澪。


 そのまま十歩を数えたところで、ふと地面の質感に違和感を覚えた。


「……あれ、地面に草?」


 家の辺りはコンクリートばかりで自然が少ない。たかが十歩歩いたところに草原などなかったはず。

 そう考えた未澪は、ふと辺りを見回してみる。


「……え?」


 そこは生まれ育ち見慣れた、閑静な住宅街などではなかった。


 どこまでも、どこまでも果てしなく続く——青々とした大草原だったのだ。


 

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