第46話 独占欲

 時間も遅くなっていたので、眠そうな清蘭はひとまず家に帰し、その後に俺と沙耶は近所のファミレスへ移動した。常に金のない高校生にとって、1000円以内で食べられるチェーン店が徒歩圏内にあるのは非常にありがたいね。


「それで、沙耶。何かあったの?」


 俺がたらこソースのパスタをフォークに巻きながら尋ねると、沙耶は少し不貞腐れたように、ストローで烏龍茶を吸いながら呟いた。


「……きよくん、LINE全然見てくれないから」

「LINE?」


 慌ててスマホを開く――うわっ、通知が100近く溜まってる。ライブのことで頭がいっぱいで気づかなかった。


「きよくんがライブ行くのは覚えてたんだよ? でもどうしても不安になって送らずにはいられなくて……ごめんね。重くて」

「そ、そんなことないよ」


 むしろ責めるべきは俺の方だ。LINEの通知に気がつけるタイミングはあったし、自分から連絡することもできたし……きっとこれまでも無意識に沙耶を不安にさせてたんだろうな。彼氏として不甲斐ない。


「……きよくんの周りって、可愛い女の子多いよね。日向ちゃんとか、心優ちゃんとか、つぐちゃんとか」

「まあ、たしかに。否定はしないけど」

「やっぱり心配になっちゃうんだ。誰かにきよくんが取られちゃうんじゃないかって」

「で、でも。みんな彼氏いるから……」


 すると沙耶はゆっくり首を横に振った。


「交際ってさ。所詮は口約束なんだよ」

「……口約束」

「うん、だから義務も責任もない。どんなに好き合っていても、少しのきっかけで簡単に切れちゃうの」

「そう、なのかな」


 正直納得はできない。口約束だろうと契約は契約だと思う。彼女の告白を受け入れた時も、俺は沙耶の幸せを背負う覚悟だったし。

 でも……誰もがそうでないことも、わからないわけじゃない。俺のようなモテと縁遠い人間もいれば、息を吸うように次々と付き合える人間もいるもの。きっと沙耶はこれまで数多くの関係を紡いでいて、だからこそ俺とは、恋愛への考え方が違うのかもしれない


「ごめんね、きよくんを疑ってるわけじゃないんだ」

「それは……わかってるつもり」


 たとえ恋愛観が違っても、俺が沙耶を信じると決めた以上、どんな沙耶の不安も俺は受け入れたい。義務としてじゃなく、権利として。


 ――その時、俺のスマホの着信が鳴った。


「あ、双葉から電話だ」

「……出ないで」

「えっ?」


 沙耶のすがるような瞳に、俺の手が止まった。鳴り続ける着信音に、周囲の喧騒がかき消される。


「でも……」

「お願い、きよくん。私だけを見て」


 沙耶の表情はあまりに苦しそうで、それ以上は何も言えなかった。

 俺はスマホをテーブルに置き――やがて電話が切れた。程なくして、元の賑やかさが帰ってくる


「……ごめんね、こんな彼女で」

「大丈夫、気にしないで」


 これでいいんだ、きっと。

 口約束だろうと、かりそめだろうと、自分が幸せだと信じられるなら、そこに幸せはある。ならば彼氏として目指すべきは、沙耶がこの幸せを信じてもらうこと。

 たとえそれが、他の何かを捨てることであろうとも――俺は沙耶の隣にいたいのだ。

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