ゼロカロリーライター

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『ゼロカロリーライター』

なんでえ、今日は作家の兄ちゃん来ねえのか。

こんにゃく、仕込んだのによお。


深夜26時30分 当てもなく人を待つ。


自動ドアが開いて、寒風が入り込む。

こちらの熱視線をいちべつもせず

ソフトドリンクコーナーに向かう客。

(兄ちゃん、いらっしゃい)。

ゼロカロリーのビタミンドリンクを

ご所望かと思えば、何やら青いラベルの飲料。


「いらっしゃいませ」


「あー、あと、こんにゃくを二つ」

「今夜はあれですかい? こんにゃくで晩酌かな?」


「それも良いですね。でも、下戸だし、これからが仕事なので」

「その青いのは何味なので?」


「ああ、これ? 乳酸菌サイダーですよ。

ダメじゃないですか! 店員さんが訊いちゃ」

「へへ、面目ないです。

乳酸菌サイダー、これもゼロカロリー。

そう言えばお客さん一回り小さくなりましたね」


「痩せたってことですかあ?

今、間食抜きダイエット中なんですよ」

「夜中のおでんは太らないので?」


「具材によりけりでしょ。

こんにゃくは大丈夫だと踏んでいますが?」

「飽食の時代に好きな物食べないなんて

さながら修行僧だねえ」


「ダイエット中なら当たり前だと思うけどなあ。

長居は無用。邪魔者は去ります」

「またのお越しを」


兄ちゃんは去って行く。

コンビニエンスストアは回転率が命。


それでも深夜帯は融通が効くこともある。

今夜も客と秘密の会話。

ダイエット中の作家の兄ちゃん。

案外、グルメ本とか執筆中だったりして。


深夜27時00分

また凪の時間が訪れながら、長い勤務の余韻を楽しむ。

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