4万文字の戦争

薬瓶の蓋

プロローグ

 テレビカメラが何台も集まっている。

 突き抜けるような沖縄の青空の下、デモ隊はこれまでになく大人数であった。これまでは老人が多かったが、動画共有サイトの呼びかけで集まった、という若者が多数集まっている。米軍基地のゲート前で気勢を上げていた集団が徐々にフェンスに沿って移動を始める。警戒および警護に当たっている警察車両が集団が移動するにつれて動き始める。


「9条を守れ!」

「戦争反対!」

「アメリカ軍は出ていけ!」


 不意に黒地に白いアラビア文字の旗がはためいた。

 シュプレヒコールを上げていた集団の一部が黒旗を掲げてフェンスへ向かって突進していく。車道側を警戒していた警察官たちは反応が一瞬遅れた。

 アイアンカッターを用意していた集団は一気にフェンスを切り倒し、基地内へと乱入していく。いつも通り、行進をするつもりだったデモ常連の老人たちが後続の若者たちに踏みつけられ、悲鳴を上げた。

 基地内に設置された巨大スピーカーが警報音を発する。


「アメリカ軍は出ていけ!」

 火炎瓶が森林地帯へ向けて投げられた。同時多発的にあちらこちらから火が上がる。


「やめろ!」


 警察官たちの怒声が響くが、交通整理程度の人数しかこの場にはいない。暴徒と化した若者が一人の警察官に殴りかかった。途端に周囲の若者も一人の警察官を取り囲み、引き倒し、踏みつけ始めた。


「トマレ!」

 半円を描くようにライフルを構えたアメリカ兵たちが周囲を取り囲んでいた。木立の向こう側には青と赤の警告灯が回転する車が何台も詰め掛けていた。

「両手ヲ上ゲテ、膝ヲツキナサイ!」

「両手ワ見エル位置ニ置ク!動クト撃チマス!」

「医療兵!」


 血まみれになって動かない制服姿の警察官の傍でアメリカ兵が叫ぶと担架と共に数人の兵が駆け寄った。周囲のデモ隊が次々と拘束されていく。

「斉藤さん!」

 同じように血とアザに塗れた顔をした警察官が動かない警察官に取りすがった。

「銃が無い!」

 地面に横たわったまま動かない警察官のホルダーは空だった。取りすがった警察官の指さした空のホルダーを見てアメリカ兵たちに緊張が走る。即座に周辺デモ隊の検査が始まる。


 拳銃を所持していた一人と周囲のデモ隊は別の車輛に乗せられた。日本の救急車がフェンスの外側の道路を走ってくる。基地の奥からもう一つのサイレンが急速に近づいてくる。

「斉藤さん! 斉藤さんは大丈夫でしょうか?」

 周辺から民間人が連行され、地面に横たわった警察官に応急処置をしていたアメリカ兵たちが立ち上がった。駆け寄って来た通訳が気の毒そうに伝える。

「心肺停止状態です。これから救急搬送しますが、難しいでしょう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る