齢四十の格ゲーマー、プロになる!
砂糖甘彦
第1話 齢四十のおっさん、格ゲーマーになる!
───eスポーツ───
近年急激に発展してきたこの競技は、ただ娯楽として消費されてきたゲームで優勝賞金が数億円を超える夢のスポーツとして市場と世間に認知されるようになって10年を超えた。
オタクのゲーマーが世界チャンピョンと呼ばれ、ゲームが上手い人間がゲーマーの若者の間では人気者だ。
こうなれば必然、中高生の『なりたい職業ランキング』にはプロゲーマーという文字が爛々と輝くのである。
憧れの対象であるプロゲーマーは、日々ゲーム配信をし、企業案件や各種ストリームイベント、大会への参加など輝かしい日々を送っている。
「ゲームしてるだけで金稼げるなんてズルいよなぁ」
そう言って斜に構えた態度を取っているのは俺だ。
重い一重に三白眼。年とともに浮き彫りになるほうれい線がチャームポイントの中年サラリーマンである。
人生無難にをモットーに大学卒業後は一般企業に就職。
女性関係は箸にも棒にも掛からない独り寂しい人生だが、現在は目出度く中間管理職として胃をすり減らしながら労働義務を立派に果たす生活を送っている。
唯一誇れるとするならば、学生時代にバンドをやっていた事だろう。まあ大学サークルレベルの下手くそベーシストだった訳だが、自分なりには精一杯頑張ったつもりである。
「なら安田課長もゲームやったらいいじゃないですか」
なんて気軽に言ってくるのは今年新卒で入社した加藤
「加藤君の若さなら気軽に始められるかもしれないけどよぉ、プロレベルは反射神経とか色々と大切なんだろ?」
おっさんに若者と競わせようだなんて鬼畜の所業。これがキラキラ若者パワーである。
「いやいや、安田課長の学生時代って格ゲー全盛期ですよね?今のトッププロも40代だったはずですよ。」
「そんな与太話信じるのはお前くらいなもんだぞ加藤君?プロゲーマーっていったら鍛え抜かれた操作技術と天性の反射神経が大事だなんて俺でも分かるもんさ。」
「嘘じゃないですよ!ほら、これ見てくださいよ。」
そう言って差し出されたスマホの画面には確かに俺と同年代のおっさんがインタビューに答えている姿が映っていた。
───改めまして、日本最年長、そしてプロゲーマーとして最長のキャリアを持つ松田
───ご丁寧に紹介いただきありがとうございます。持ち上げられるのは少しばかり面映ゆいですが。
───いえいえ、今日の日本eスポーツの先駆者といえば松田選手の功績が大きいと断言できますよ。ゲームの強さも勿論ですが、お一人で米国企業と交渉しスポンサーを獲得する行動があってこそ日本で初のプロゲーマーが誕生したのでしょう。
───ありがとうございます。まさかあれから20年余りもプロとして活動出来るとは思ってもみませんでした。
───松田選手は今年で43歳ということですが、加齢による衰えなど感じないプレイですよね?なにか秘密はあるのでしょうか?
───秘密もなにも大層なものではないです。歳を重ねると出来なくなるプレイもありますが、逆に、読み合いや戦略性などは今が一番の実力だと思っています。
インタビュー動画はまだ続いていたが、加藤くんがぐいっとこちらに身を乗り出して熱弁し始めるので冒頭しか視聴できなかった。
「ほらね?安田課長だってプロとまではいかなくても可能性はあるっすよ!!」
「確かに俺より年上なのにプロかぁ、世界には凄い人がいたもんだな。」
「安田課長!この松田選手がやっているNightFightClubは反射神経よりも相手との読み合いと技のコンボが重要なんですよ!」
相手との読み合いかぁ、、、確かにそれならば年食ってる方が強い部分もあるのかもしれないな。
「よし加藤!ちょっと興味が出てきたからそのゲームがどういうものか教えてくれよ。」
「NightFightClub、略してNFCってゲームなんですけど所謂格ゲーっす」
「格ゲーって路上喧嘩とかTEPPANとかああいう?」
格ゲーなら始めるのも吝かではない。
なにを隠そう大学時代は清く正しい健康優良不良少年だったもんだから、バンドメンバーとゲーセンに集まっては朝までTEPPANをやるのが鉄板だったんだ!!
SO!!!
☆TEPPANが鉄板☆
意識を現実に戻したほうが良さそうだ。
「その格ゲーっすね。運営がeスポーツに力を入れているみたいでバランスがかなり良いっていう評判です。」
「格ゲーってバランスが悪いもんじゃないのか?」
「え?」
「いや、な?俺がハマっていた時代はワンコンボ食らったら10割なんてザラにあったんだよ。」
「そんな分かりやすい嘘、今どき赤子だって信じませんよ」
後に知ることとなるのだが、実際に今と昔では格ゲーのバランスはかなり変わっていたのだ。
俺がゲーセンでTEPPANをやっていた時代は、メーカーからしたら筐体を買ってくれるゲームセンターが顧客なものだから、いかに回転効率を上げて1Play100円を回して貰うことに注力して作っていたわけだ。1コンボで試合が決まるなら、平均プレイ時間は45秒程度だっただろう。45秒で100円を回収できるなら、各キャラにぶっ壊れコンボを実装するのも納得である。
だがしかし、パソコンや家庭用ゲーム機が一般に普及しゲームを購入するのはプレイヤー本人にシフトしていった。
その結果回転効率を重視するのではなく、遊戯体験を向上させるためにゲーム全体のバランスを良くしていったというのがこの話の真相である。
現在ではゲームバランスが悪いと、購入すら見送られるというのが、ジャンルを問わずどのゲームにでも言えることだろう。
「その、10割コンの話は知らないっすけどみんなに平等、完全実力主義!なんと言っても読み合いが醍醐味のNFCは年齢性別問わずにおすすめできます。」
なんてメーカーの回し者みたいな事を言いやがるもんだから
「実績のない加藤君におすすめされてもなぁ」
なんて意地悪く返してしまった。大人としては情けない態度だったなと反省である。
「いやいや!別ゲーですけどMOBAってジャンルのゲームでEAサーバーTOP100に入った事あるんですよ僕!?」
何だかよく分からない横文字を並べておけば年上を騙せると思っているのが今時の流行りだ。
話を聞き流す分には実害もないので適当になっておいてやろう。
「モバってゲームで100位なんだな?凄いぞ加藤君、君はそれを誇って堂々と生きてくれ。僕はNFCで立身出世してやるから!」
「安田課長!絶対MOBAって何だか分かっていませんよね?MOBAって、いうのは...」
ともかく、NFCという格ゲーはバランスが良く、読み合いが重要な格闘ゲームって事は分かった。
これならば中年のオッサンでも楽しむことは出来ると淡い期待位は抱けたので、帰ったら早速ダウンロードする事にしよう。
───こうして昼休みの他愛ない雑談から一人のおっさんプロゲーマー誕生への物語が始まったのである。───
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読みたいジャンルが投稿されてなかったので、自分で書いてしまえと始めました。
処女作ですので温かい目で読んでいってください。
コメントや高評価励みになりますので、ぜひお願いします!
砂糖甘彦
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