事前に予算が組まれている系の小説

ちびまるフォイ

予算内の最善を尽くす

「ここはいったいどこだ……!?」


あたりは殺風景な真っ白い部屋。

ドアも窓もない。



キャラ(グレードC)使用料 … 2万円

殺風景な部屋 使用料 … 10万円

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残金:88万円



すると、壁に映像が投影された。


『気がついたようだな。

 これから君には世界を救ってもらう』



プロジェクター料 … 5万円

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残金:83万円



「世界を救うだって? なんの話だ!」


『これを見たまえ』


映像が街に切り替わる。

やたら角が生えた怪獣が大暴れし、街を破壊していた。


「お、俺の街が! お前の差し金か!」


『ちがう。あの怪獣は宇宙からの刺客。

 そして君はその怪獣に対する唯一の可能性。

 あの怪獣が見えるというのがなによりの証拠だ』


「他の人には見えないのか?」


『ああそうだ。君にしか見えない。

 というか見えちゃうと実体化しないといけないから

 めっちゃ予算がかかる』


「な、なんの話だ」


『とにかく、君があの怪獣を倒すんだ。

 そのためにこの場所へ来てもらった』


「だからってこんな場所に閉じ込めることないだろう!」


『細かい情景描写を入れると、

 建物の使用料やロケ料が発生するのだよ』


「だからなんの話だよ!」


すると、床からノートパソコンがせり上がってきた。



ノートPC購入 … 12万円

ウイルス対策ソフト … 2万円

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残金:69万円



『これから君にはこのPCで怪獣を倒してもらいたい』


「ちゃちすぎるだろ! なんか衛星兵器とかないのか!?

 惑星レーザーとかで怪獣をこのPC操作で狙い撃ちできるとか!」


『そんな大層なものがこの小説に登場できるか!

 出資されている小説じゃあるまいし!』


「なんの話だ!」


『……君には伝えておこう。

 この話には予算が事前に組まれている』


「……はあ?」


『君が対して人気もなく、名前もない没個性系主人公なのも。

 すべては予算内で話をまとめる必要があるからだ。

 本当は私だってカッチョいい個性的な主人公を使いたい』


「いくら金がないからって、

 こんななにもない部屋でPC操作だけさせて

 そのうえ怪獣を倒せなんて無理があるだろう!」


『じゃ、じゃあ予算内であれば展開を操作してもいいよ……』


「それじゃ重火器をくれ」


『そういうのは無理』


「なら電話」


『電話? それくらいなら……』



中古スマートフォン代 … 9万円

電話利用料 … 1万円

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残金:59万円



電話を手にするなりいろんな場所に電話をかけはじめた。

PCではネットショッピングを初める。


『いったい何をしているのだ?』


「あんたが怪獣を倒せって言ったんだろう。

 そのための準備だよ」


『ネットで買い物してもここへは届けられないぞ?』


「いいんだよ、ここじゃなくて」


『あの、あんまり派手にお金使わないで。予算が……』


「怪獣を倒さなきゃここから出られないんだろ!? ガタガタ言うな!」


『ひ、ひいぃ』


すでに立場が逆転していたが、言い返す言葉もなかった。

ガツガツと予算が削られていく。



残金:40万円




残金:30万円




残金:20万円




残金:10万円




残金:5万円




『ああ、お願いだ! これ以上予算を削らないでくれ!

 これ以上予算がなくなったら、もうなにも展開できない!』


「もう十分だ。これで完璧だ!」


『え……?』


「ほらPCの画面を見てみろ」


すると、街にはさまざまなトラップが仕掛けてあった。


高層ビルの間に走るワイヤートラップと爆弾。

足を止めた怪獣に浴びせる薬品。

怪獣の注意を引き付けるためのアドバルーン。


すべてホームセンターやネットショッピングで購入できる。

それらで怪獣撃退トラップを作り上げてしまった。


『す、すごい! あのスズメの涙ほどしかない予算でこれほどのものを!』


「金がなくても知恵はある。人間はそうやって進化してきたんだ」


『知略で暴力の怪獣を制する! なんてアツい展開なんだ!』


「さあ、あとはこのスイッチを押せば作戦開始だ!」


と、今まさに激アツな展開を迎えようとしたときだった。

水を差すように電話が鳴った。



「はいもしもし?」



「ええ、ええ、あ……え? 本当ですか?」



「はい……はい……どうも。はい……失礼します」


電話が切れる。


『こんなタイミングで何だったんだ?』


「その、大手企業からの電話だった」


『ますますわからない……』


「なんか、高層ビルの間にトラップ仕掛けて

 アドバルーンをたくさん出しただろう?」


『え、それがなにかまずかった?』


「いやその逆。宣伝効果が予想以上に大きくて

 なんか今めっちゃ感謝された。それで……」


『そ、それで……』



「なんかめっちゃお金を出資してもらった」




残金:99億9999万円





すると! 何もなかったはずの部屋は急に巨大ロボットへと変形!


今まで仕掛けていた罠や作戦はもう無いものとし、

巨大ロボットと怪獣とのぶつかり合いが始まった!!


巨大ロボットは搭載されているロケットパンチ、

目からの熱戦ビーム、そして飛行ユニットでもって怪獣を翻弄!


激闘の末、ついに怪獣を暴力で制したのだった!!




巨大変形式ロボット … 80億円

ロケットパンチ(片腕) … 1億円

熱戦ビーム改造費 … 8億円

飛行ユニット … 10億円

ロボットの充電代 … 9999万円

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残金:0円

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