高校生が五万円でやったこと
タカテン
これは俺のエゴなんだ
第1話:最悪な再会
「あれ、アッキーじゃん? どうしてこんなところにいるの?」
中学を卒業して以来、約一年ぶりに出会った
久しぶりの再会だというのに、まるで昼休みの教室で、とっておきのくだらない話を披露するかのような気安さで話しかけてきて、ぱっちりとした目をあの頃のように少し揶揄い気味に細めながら、口角をにぃと歪めてくる。
あまりに自然体な篠原の仕草……対して俺は多分アホみたいな表情を浮かべていたんじゃないかと思う。
それぐらいここで篠原と出会うのは全く想像もしていなかったし、実際いまだに信じることができなかった。
卒業してから地元で顔を合わせることなんて一度もなかったくせに、どうしてこんな都会の、しかも曰く付きの通りにいるんだ、こいつは?
おまけに今は、いい感じに出来上がった大人たちが辺り構わず笑い声を撒き散らし、夜の帳が降りるのを拒否するようにネオンが世界を煌びやかに照らし出す、昼間とはまるで違う大人の顔を街が覗かせてくる時間帯……。
まったく、そんな時間の、こんな場所に、高校生が居ちゃダメだろ、篠原!
って、それは俺もだけど。
だけど俺たちは再会してしまった。
おかげでさっきから俺は、頭の中が戸惑いと疑問と、そして何よりもこんなところに来たのを篠原に知られてしまった羞恥心で大混乱だ。
それでもそんな俺とは裏腹に、動揺した様子なんか微塵も見せず、ただただ楽しそうに中学の頃のような軽口を叩いてくる篠原に付き合わされていると、次第に落ち着いてきた。
冷静になって頭が回ってくると、別の考えも出てくる。
そうだ、篠原はたまたまここに居合わせただけで、何も関係ないのかもしれない。
ここがどういう場所なのか知らなくて、俺が何をしに来たのかも分かってないのかもしれない。
だったら適当に話をして、また今度みんなで一緒に遊ぼうねなんて約束を交わし、何事もなかったように別れれば何も問題が――
「で、アッキーは何しに来たの? もしかして私を買いに来てくれたのかな?」
――って思ったのに、篠原ときたらおもむろに俺の目をじっと見つめてきて、笑顔でそう言い放った。
通りには篠原以外にも十人ほど、俺たちよりも年上の女の人が、等間隔の距離を置いて立っていた。
みんなスマホに目を下ろし、一見すると誰かと待ち合わせしているように見えるけど、そうじゃない。
俺は友人から聞いて知っていた。
彼女たちは、男の人に体を買ってもらうため、ここに立っている。
そして信じたくないけれど、篠原もそうだったらしい。
たしか家がそこそこ裕福で、中学の頃は女子だけでなく男子の友達も多いけれど、誰かと付き合っているといった噂もなく、ただただ普通の女の子だった篠原がどうして、と思わずにはいられない。
けれど篠原を責めることはできなかった。
だって俺も一般的な家庭で育ち、それなりに有名な進学校に進み、ごく平凡な高校生なくせして大胆にも、身分不相応にも、そして死ぬほど情けないことに――
女の人を買おうとして、ここにやって来たのだから。
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