第18話
「なんで!?」
「なんでって……こんなおじさんと来るよりも、小学生同士の方が盛り上がるだろ。今の親御さんも大切にした方がいい。おまえのお母さん、オレが命の恩人で、スイミングスクールの先生だからオレが凛音と二人で出かけるといっても反対したりしないが、内心ではけっこう心配してると思うぞ」
「僕は、シュウちゃんと一緒に花火を見たかったからシュウちゃんを誘ったんだよ! 前世の義理で誘ったと思ってるの!?」
愁はまた、困った顔をする。
「……凛音は、プールで溺れた時に、前世の記憶が戻ったんだよな?」
「そうだけど……」
「それまでは、オレ以外に大切なものがあって、幸せに暮らしていたんだろう?」
諭すような口調。
「…………」
間違いじゃない。平凡だけど、それなりに幸せな人生を六年間送ってきた。
だけど、それがなんだっていうのだ。
「記憶が戻ってくれたのは嬉しい。でも、凛音には、黒崎凛音としての新しい人生がある。前世の記憶や、関係性に縛られなくてもいいんだ」
凛音は思わず立ち上がった。
とっくに空になって足元に置いていたかき氷のカップが転がる。
「シュウちゃん、レイチェルと付き合ってたんだよね?」
立ち上がったことで愁よりも目線が高くなった凛音は、ずいぶんと大きく成長した前世の幼なじみを見下ろしながら、震える声で問いかけた。
「……そうだが、もう昔の話だ。あいつとはなんでもない」
「別れたのは、リンネの死を引きずってたから?」
「……ああ」
「でも、もうリンネが生き返って罪悪感も薄くなったから、シュウちゃんだって新しい人生を歩んでいいってことだよね?」
「…………」
いきなり言い合いを始めた大学生と小学生を、周囲にいた人たちが『なになに?』と言わんばかりに振り返ってくるが、みんな花火の打ち上げ時間を目前に控えて浮き足立っているので、すぐに隣にいる仲間との会話に戻っていってしまう。
「レイチェルとじゃなくても……誰かと、この先、付き合ったりすることもあるかもしれない。たとえば十年後には結婚してるかもしれないってことだよね?」
「それは……わからない」
「僕も……女の子か、男の子か、誰かわからないけど、シュウちゃん以外の人のことを好きになってもいいってことだよね?」
「それは凛音の自由だ」
「……僕とシュウちゃんが付き合うかもしれない可能性は、どれぐらいあるの?」
「……凛音?」
「忘れなければそれでいい、なんて思えないよ。せっかく再会したんだよ? 前世じゃできなかったこと、僕としようよ! 僕と付き合ってよ……!」
勢いよく言葉を吐き出したあとで、はぁはぁと呼吸が乱れる。
花火前でにぎわう周囲のざわめきが、ほんの少し、大きくなった気がした。
呆然と凛音の言葉を受け止めていた愁だが、我に返ると、あわてて立ち上がり、凛音の口元を押さえきた。
「場所、変えるぞ。いいか?」
「うん……」
至近距離から小声で囁かれて、ドキリとする。
愁はかき氷のカップをきちんと回収してから、凛音の手を引いて歩き出した。
こんな時まで真面目なんてシュウちゃんらしいな、とこっそり思う。
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