乙女ゲームヒロインの兄ですが、王子様はどうやら俺のことが好きみたいです
でかくてつよい鳥
第1話
青天の霹靂だった。久住ナオ、十五歳。高校入学を控えた、自堕落な春休み。家族でそうめんを啜りながら、夜ご飯にそうめんってやばくない? うける。とはしゃぐ妹と、お父さんがもう少し頑張ってくれれば毎日カツ丼なんだけどね、明日もそうめんだねと笑う母と、お父さんはそうめん好きだぞ、毎日そうめんでも良いくらいだ、と視線を逸らす父がいる食卓で、俺は唐突に閃いた。
ここは、乙女ゲームの世界だ。
それと同時に、朧げな記憶が浮かぶ。そうだ。俺は前世、ここではない世界で、この世界をゲームとして遊んでいた。何をして生きて、何をして死んだとか、そういうことは思い出せないのに、このゲームのことだけがぼんやりと思い出せる。そしてなんと、そのゲームのヒロインが、俺の大事な大事な双子の妹だ。てことは、俺って…主人公のお兄ちゃんポジション…ってこと…? めちゃくちゃにモブキャラじゃないか。活躍するシーンないだろ、そんなやつ。ていうか、いたっけ? 実は血の繋がりがなくて…とか。一卵性の双子で顔もめちゃくちゃ似ているから、そんなこともないし。あったとして、ここまで一緒に育ってきた兄妹を今更恋愛の相手としては見れない。
まあとにかく、自覚をすると展開が早くて、次の日からなんと、特定の人物の頭上にパラメータが見えるようになった。妹は「友好度」で、街中で偶然出会った中学のクラスメイトの女の子は「好感度」だ。恋愛対象か否かで表示が変わるのだろう。「あっ、久住さんこんにち…なんだ、兄の方もいるんだ。へえ…」と視線を逸らしたその子の好感度が最低を超えてマイナスだったことは忘れることにして、俺は今後の対策を練る。
この後に控えているのは、高校入学イベントだ。家から一番近いという理由で、妹と俺は同じ学校へ進学を決めている。しかし。
「あっ、ナオ〜今月のジャンプ読んだ? くそおもろいよ。特に読切が最高。これはいずれ連載するね」
ご覧の通り妹──久住リオは、よくある乙女ゲームのヒロインと比べて、びっくりするくらいに男まさり…というか、なんだろう。ガサツだ。今もジャンプの端っこの尖った部分で足をかきながら、まだ完全に乾かしていない髪を頭上でひとまとめにして、パジャマもちゃんと着ていない。というか、女の子がくそとか言っちゃだめじゃないか。
このままではまずい。ここは乙女ゲームの世界だ、それも主人公は妹だ。自覚をしてしまったからには、なんとか妹に、最高のエンディングを迎えて、最高の幸せを手に入れてほしい。そのためには、同じ学校へ通うことになっている、かつ、事情を知っている俺が、全力でサポートをしてあげるしかない。つまりは、そう。これから出会うことになる「王子様」との恋愛をサポートしてあげなくては。
「リオ、お兄ちゃんがんばるからな!」
「なに? 急に大きな声出さないでよ」
一週間夜ご飯がそうめんという珍事でもご機嫌な妹が見せた、何か異端なものを見つめる視線なんてお構いなしに、俺はリオと硬い握手をする。こうして俺の「スーパーウルトラハッピーエンド計画〜〜義兄と書いておにいさんと呼んでくれ〜」はスタートしたのだった。
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