多種族世界では男性が足りてないようです

@suritati333

第1話 転移してエルフさんに拾われた

 アキラはいつもの帰り道を歩いていた。いつもと同じように何も変わらない日常、のはずだった。


「へっ?」

 

突如何もないはずの平面の道路で躓きこけたようにバランスを崩した。

 地面に向かい勢いよく打ち付けられるであろうと思った体は地面を貫通し、アキラはその場から完全に姿を消した。


 次に目にした景色は全く知らないものであった。

 とりあえず分かることは街の中である、ということ。さらにその街にいる人たちには体に変わった特徴が見られた。

 耳が長かったり、翼が生えていたり、小さかったり、大きかったり、それに加えてその人たちの全ては女性だった。


「ここは、どこ...?」


 地面に座りながら、そう呟くアキラに街の住人たちの視線が少しずつ集まりだす。

 周りの人たちがアキラに対しざわつきだした。それを見たアキラは徐々に不安感を覚え出した。


「その...大丈夫?」


 後ろから話しかけられたアキラはそれに対してびくりと反応し振り返るとそこには耳の長い銀髪の女性が立っていた。


「えっと、多分?」


「多分って?なんか困ることでもあったの?」


 優しくそう聞いてくる彼女のおかげかアキラは少しだけ落ち着きを取り戻し、自分の身に何が起きたのか理解し始めた。


「何言ってるか分かんないと思うんですけど、気づいたらいきなりここにいて、今家に帰る方法も分からない状況で」


 いきなり飛ばされた知らない場所、不安を感じていたアキラは、そこで初めて話した相手である耳の長い銀髪の女性に自分の状況を話した。


「うーん、つまり迷子?」


「あ、はい、そんな感じです」


 耳の長い銀髪の女性はアキラの話を聞き、迷子であるという結論を導き出した。

 それに対しアキラもなんと説明していいのか分からないものの、確かに自分の状況はそれに似ていることに気づきそう答えた。


「んーそっか、どうしよっかな、とりあえず名前は?私はアルマ」


「アキラです、アルマさん...ですね」


「頼れる知り合いとかはいる?」


「その、多分いないです。いるとしてもここからすごい遠いので連絡取る方法がなくて」


 ここが異世界、もしくは日本からははるか離れた場所だと考えたアキラは連絡を取れる知り合いなどいないと思った。


「そうなんだね」


 そう頷いたアルマだが、口の端がぴくりと動いておりニヤつくのを隠していた。


「じゃあさ、うちくる?もう1人同居人がいるけどそれでも良かったら」


「え?いいんですか?」


 これはチャンスとばかりに家へと誘うアルマに対し、少し遠慮気味ながらも他に頼る相手がいないため乗り気なアキラ。

 それを見たアルマは驚きながらもアキラのその態度を疑問に思った。


「えっと、女2人だけど大丈夫なの?」


「はい、僕は大丈夫ですけど、逆にそっちが大丈夫ですか?そのお金とか本当に何も持ってなくて」


 会話がうまく噛み合わず、2人の頭上にクエスチョンマークが浮かび上がる。


「そういうことじゃないんだけど、アキラくんがいいならいっか」


ーーー


「はい着いたー、あれが私の家だよ」


「おお、凄い大きな家住んでますね」


 アルマの住んでいる家はかなり大きくそれを目にしたアキラが感嘆の声を漏らす。


「ふふ、でしょー?これでも稼いでますから」


 それに対してニヤリと笑いながらお金のハンドサインを作るアルマ。


「それじゃ、入って入って」


「し、失礼しまーす」


 ドアを開け、こっちこっちと誘うアルマに付いていきながらも、初めて入る異性の家に少し緊張している様子のアキラ。


ーーー


 その後どこの部屋を貸すのか、家の大まかなルールなどを教えてもらい、その部屋でアキラが寛いでいるとノックが聞こえた。


「アキラくん、ちょっと来れる?」


「はい!」


 扉の外から聞こえるアルマの声に対し元気に反応し、そのまま出迎えに行く


「そ、そのさーなんていうか、タダで家住ませてあげるのもアレだしさ、ちょっと条件つけようかなって思ってさ」


「あ、はい、僕に出来ることなら何でも」


 何やら変な様子のアルマを疑問に思いながらも何でもと答えるアキラ。

 その回答に対し「何でも...」と小声で繰り返しながらゴクリと喉を鳴らす。


「じゃあさ、1日1回ハグなんてどうかな?アキラくんお金ないって言ってたしさ、最近なんか人肌が恋しくてね、だから一番いいのは何かなって思った時に思いついたんだ。ね?どうかな」


「は、ハグですか?」


 早口で捲し立てあげるアルマのハグという言葉に反応し抱きつく時に当たるであろう大きく膨らんだ胸を見る。


「あ、流石に嫌だったよね、やっぱなしなし、今のは聞かなかったことにして欲しいな」


 その反応を見てすぐさまやらかしたと思い、今の発言を無かったことにしようとする。


「嫌とかじゃなくて...なんていうかアルマさんは僕とハグがしたいんですか?」


 素直に僕もしたいとは言えないが、ハグはしたいため遠回しにもう一度チャンスを狙いに行く。


「それは...はい、したいです」


 先ほどまでは興奮のあまり勢いで言ったものの一度冷静になった後にもう一度ハグをしたいと頼み込むのには羞恥心が込み上がってくる。


「じゃあ、条件それでいいです」


「へっ!?いいの?」


 それを聞いたアルマの顔はパァッと笑顔になった。

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