第12話 今は一人で泣いてます。辛い事がありました。
「うう……! ううう……! うううううう……!!」
わたしは一人、部屋のベッドで泣きました。
わたしが馬鹿でした。
わたしが馬鹿だったせいで、たっくんが、わたしと付き合わないという判断を下してしまいました。
どうして……! どうしてどうしてどうして……!
なんだかんだでたっくんもわたしが好きだと、そう思っていたのに……!
なのにたっくんは、わたしより、親友なんて存在を優先してしまった!
そんなの……そんなの……
「許せない……」
わたしの感情は、たっくんに振られた悲しみから、急速に何もかも許せないというどす黒い感情へと変わっていきました。
わたしにとって、これはそれくらいの重みを持った出来事でした。
許せないのは、たっくんもでしたが……
「海斗くん……わたしは今、到底あなたを許せそうにないです……たとえあなたが何も悪い事をしていないとしても……あなたは、わたしからたっくんを奪った、張本人なのですから……!」
それなのに、たっくんはわたしに海斗くんと付き合い続けてほしいと思っているんだ……
たっくんにとっての何より大切な親友が、わたしにメロメロにされちゃってるから……!
「馬鹿過ぎる……! 馬鹿過ぎます、わたしは……!」
もうわたしの心はぐちゃぐちゃでした。
わたしは泣き続けて、泣き続けて、泣き続けて……
どうやって夕ご飯を食べたのかも、覚えていません。たっくんが気を利かせて、部屋の前まで持ってきてくれていたようでしたが。
「その優しさを! どうしてもっと、もっともっと、わたしのために発揮してくれないんですか……! どうして海斗くんに発揮しちゃうんですか……!」
それすらも、わたしにとっては恨み言の対象でした。
そうして、さらに泣き続けて……
やっとの事で涙が枯れてきたわたしに、例の発作がやってきます。
「うう……! うううう……! ううううううう……!」
寂しい……!
寂しい寂しい寂しい……!
発作の酷さは、今までを遥かに上回るものでした。
たっくんを失ったばかりであるという事実が、わたしの雑魚雑魚メンタルに効いているのでしょう。
わたしは、寂しくて、寂しくて、寂しくて……
でも縋るものは他に何もなくて……
ただ、ただ、闇の中に沈んでいきます。
それはある種の自虐的な心地良さがあって……
わたしは、自分がこのまま死んでもいいなと思いました。
その時です。
>五花へ。今日は遊んでくれてありがとう。五花は、今なにしてる?
そんなメッセージが着信したのをベッドに置いていたスマートフォンが知らせてくれました。
途端、わたしの中には複雑な感情が次々と吹き荒れます。
「遊んでくれてありがとうって! わたしが海斗くんで遊んでただけじゃん! 酷い事ばっか言ってさ!」
そうでした。
この朝森海斗という人物は、たとえその内情が酷い物であったとしても、わたしに感謝のメッセージを送ってしまうくらい、わたしに惚れ込んでいたのでした。
しかし、「今なにしてる?」か……
いっそ話してやろうかな……
>今は一人で泣いてます。辛い事がありました。
思い切って、そうメッセージを送ります。
>大丈夫……じゃなさそうだね。ねぇ、ちょっと通話しないかい? 僕なんて頼りにならないと思うかもしれないけど……こういう時くらい、僕は五花の力になりたいよ。
>通話はちょっと困ります。家に同居人がいるので。
たっくんに海斗くんに泣きごとを言っている姿は聞かれたくありませんでした。
>じゃあ、どこか公園とかで話そうよ。そんなに遠くはないんだろう?
時計を見ると、時刻は9時をちょっと回った所でした。
まだ外出するには遅すぎない時間です。
>じゃあ、今から、森上公園で。
わたしはそういって、外出の準備を始めます。
服は……まだ制服のままだったな、そういえば。
これでいっか……めんどくさいし……
わたしは一人、家の扉を開けて、外に出ます。
鞄も何も持たず、スマートフォンと財布だけをポケットに入れて。
公園までの道のりは、街灯に照らされて明るく、それほど不安を感じる道のりではありませんでした。
ですが、今もまだ、先ほどの発作の影響は残っています。
寂しい……
寂しい……
歩けば歩くほど、そんな思いがわたしの中から溢れ出てきます。
そうして歩くのも辛い道のりを進み続け、やっとの事で森上公園の入り口に到着します。
それは街の一角にある子ども向けの小さな公園で、一軒屋2つ分程度の敷地に、ブランコや滑り台、砂場が配置され、砂場の傍にベンチが2つありました。
わたしはベンチの所に歩いていくと、海斗くんが反対側から自転車に乗って現れました。
「……やぁ」
海斗くんは自転車をベンチの脇に止めると、わたしの方を振り返り、挨拶をします。
「……はい」
わたしは短く頷き、海斗くんに近づくと、その脇のベンチに一人で座ってしまいます。海斗くんはその横に、少しだけ距離を離して座りました。
「ずいぶん泣いてたみたいだね……それに、なんというか、すごく辛そうだ」
「……はい」
公園の灯りに照らされた海斗くんの顔は今日も格好良くて、そういう人物にこうして心配されているというのは、世の女子からすれば羨ましがられるシチュエーションなのかなとちょっと思った。
「……五花はさ、いつもは僕から見ると、強くて、明るくて、炎みたいにみえる時すらあるんだけどさ」
いきなり何を言うのかと思った。でも、何か言う元気も無くて、ひとまずそのまま話を続けさせる。
「でも、五花の瞳にはさ、どこか、深い闇のようなものが眠っているって感じるんだ。それは、たぶん五花が話してくれない、過去の悪い想い出とか、五花が感じている良くない感情とか、そういうものが原因なんじゃないかと、勝手に思ってる。あってるかな?」
「……そうですよ」
わたしは、わたしがこの海斗という人物を観察していたように、海斗という人物も、いつの間にかわたしの事を観察していたんだな、と驚いた。
そしてその観察眼が鋭い事は、どこかたっくんを想起させる。
そうなのだ。
この仲良し二人組は、違うところも多いけど、根本の所でどこか似ているのだ。
そう思うと、わたしは、この海斗くんには、たっくんの代わりになれるポテンシャルが秘められているのではないかと感じた。
「もし良かったら、話してみてくれないかな? 五花の、支えになりたいんだ。少しでも」
だったら、たっくんにも話せていないわたしの過去を、この海斗くんに話してみるのも面白いかもしれない。
「……いいですよ」
そうしてわたしは、海斗くんにこのわたしの物語を話す事を決めた。
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