大手Vtuber事務所を濡れ衣により追放された俺、新事務所で相方が転生した元超人気Vだったんだが
未(ひつじ)ぺあ
第1話 炎上
それは、いつも通りVtuber朝活配信を始めようとしていた、朝のことだった。
【『きらぶい』の
【会社の金横領したとかま?】
【えぐすぎ】
【さすがにこれはやばいって】
【他にも、マネとか運営に暴言吐きまくったらしいよ】
【きも】
【そういうことするやつだったんだ、もっと炎上しろ】
「……は?」
配信用PCを立ち上げた瞬間、けたたましい通知音と共に目に入った、荒れに荒れた文の羅列に、俺はただ唖然とその光景を眺めていた。
Vtuber活動を始めて早一年。
大手Vtuber企業『きらぶい』4期生として奇跡的にオーディションに合格し、今ではチャンネル登録者20万人を抱える。
設定としては、「天界から舞い降りし好奇心旺盛な悪魔見習い」。いかにもな厨二キャラだ。
見た目は、長めの黒髪に切長の緑の瞳。左耳にはピアスが三つほど開けられており、十字架が刺繍された黒いパーカーを着ている。背中には黒い翼が生えており、ビジュは満点、俺自身もかなり気に入っている。
そして大手企業に属する手前、炎上につながる行為はもちろん、発言にも人一倍、細心の注意を払ってきたつもりだ。
ゲーム内に出てくる際どいシーンではコメントを控えたし、女性ライバーさんとのコラボの際には常に一定の距離を保って、降りかかる火の粉を入念に払っていた。
そんな俺が、会社の金を横領? 運営に暴言? 当然、するわけがないだろう。
「一体何でこんなことに……ま、まさか!?」
震える手でコメ欄を一通り見、事態をようやく飲み込んだあと、俺は息も荒く拳を机に叩きつけた。
「金を横領しようとしていたのはあいつだ……来栖らるり……あいつだったじゃないか!! あいつが俺に罪を被せやがったんだ!!」
来栖らるり。彼女は俺の同期であり、会社の金を横領しようとしていた張本人だ。
『きらぶい』4期生は、俺を含めて4人で構成される。
その中の一人、来栖らるりは、異例の速さでチャンネル登録者130万人を達成した、今や『きらぶい』の看板アイドルだ。
設定は、「夢の国から脱走してきた由緒正しき一角獣」。
紫と桃色、水色が入り混じったくるくるロングヘアに、額から生えた金色のツノ。目はジト目気味で、パステルカラーのゴスロリを着ている。
甘ったるい声と見た目、またリスナーを『彼氏くん』と呼ぶなどから、今や男性リスナーが九割を占める。ガチ恋勢から熱烈な支持があり、その距離感やキャラが見事大ウケ。テレビにも何度か出演したことがある、今や大人気Vtuberだ。
時は遡り、約二週間前。
らるりを含めた4期生でオフコラボをした時のことだ。
配信開始前、たまたまテーブルに置いてあったらるりのスマホが目に入り、そこで横領の証拠となり得る怪しげなメールが目に入ったのだ。
さらに送信元は、『きらぶい』の運営の一人。
運営側とらるりがグルで横領を計画していることに気づいた俺は、動揺を隠しきれないまま、他の同期が離れた隙に、こっそりとらるりに話しかけた。
「あのさ……! らるり、俺の勘違いだったら謝る。だけど……さっき、らるりのスマホに通知が来てて。そこで、ごめん、偶然メールの内容が見えちゃったんだ」
「……なぁにー? つゆゆん、なにを見たのぉー?」
「その……ああいうのは、大ごとになる前にやめた方がいいと思うんだ! 立派な犯罪だぞあれ!」
俺はそう遠回しに、でも力強く忠告した。ここまで彼女の積み上げてきたものが、犯罪行為によって崩れてしまうのは、同期としても防ごうとするのが道理だろう。
まだらるりは立ち止まれる。そう願って、俺は必死に声をかけた。
–––––––だが、そんな俺を前に、らるりはハッと息を吐き。
「何言いだすかと思えばぁー、らるりの足元にも及ばない雑魚がー、一丁前に注意とかしてこないでくれますぅー?」
今まで聞いたことがないほど低い声で、歪んだ顔で、俺を嘲笑ったのだ。
「ら、るり……?」
「これまでは同期のよしみでよくしてやってたけどさぁー、何その言いがかり、きもっ。てかお前、前からずっとずっとずぅーっと思ってたんだけどさぁ! 自分の数字見たことありますーぅ? お前が箱内で一番足引っ張ってんの! わかるー!?」
「ぁ……」
ゴミでも見るような目で、らるりは俺を見下していた。まるで、悪いのは全て俺だと言うように。自分には一切の非がないと言うように。
「お前その反応、もしかしてらるりと同等とか思ってた? なら甚だしい勘違い乙すぎなんですけどー! これちなみに、同期みんな思ってるから。前、お前抜きの同期みんなで焼肉行ったんだけど、お前の愚痴で死ぬほど盛り上がったわー」
「……」
「インキャでビビり。大して面白くもないゲーム配信ばかり、トーク力皆無の雑談配信ばっか。そりゃあ伸びないか、あははっ!! お前、本当になんで『きらぶい』入れたんだろうねぇ!?」
「……っ」
「てか、何? 横領とかあられも無い悪評ばら撒いて、らるりの人気を下げようってわけ? 手段がきしょすぎ。ただでさえ足手纏いなのに」
足手纏い。
そう言われた瞬間、俺は悔しさのあまり、血が出るほど強く下唇を噛んだ。
実は、デビュー数ヶ月後から、らるりの態度にはかなり問題があった。
らるりがコラボ配信枠を立て忘れたことなんて何度もあり、その度に俺が休みの時間を削って、急いでサムネの編集などを行っていた。無論反省の色なし。
らるりの失言を誤魔化すためにも、俺は常に必死のフォローをし、人一倍気を張っていた。
コラボ配信は何度もすっぽかされ、それに対してらるりは、リスナーに色目を使っての弁明。俺に対しての謝罪は一言もなかった。
らるりの3Dモデルの支払いが遅れて、危うく3Dお披露目会が中止になりかねなかった時だって、らるりに脅迫まがいな手段を取られ、俺が渋々金を立て替えていた。今だに立て替えた金は返してもらえず、そのせいで一ヶ月もやし生活を強いられたこともあった。
他にも、俺が出した企画案は何個も盗まれ、その度に俺は泣き寝入りを果たしてきたのだ。
とうとうここで堪忍袋がきれ、俺は血管を顔に浮かび上がらせながらも声を荒らげた。
「流石に……流石にそれは言い過ぎなんじゃないか!? 俺がどれだけ、頑張ったと思ってる……! ふざけんじゃねぇよ!!」
「–––––あーあ、そんなこと言っちゃうんだ。でもこれも、お前の自業自得だよね。人生お疲れ」
「は……?」
らるりの最後の言葉が理解できず聞き返そうとしたが、その後4期生のコラボ配信の打ち合わせが始まってしまい、結局その件はうやむやになってしまった。
何度も俺から話しかけようと思ったが、連絡先をブロックされ、この二週間なんの会話も発生していなかった。
だがまさか、こうしてらるりから濡れ衣を着せられることになるなんて。
動揺で冷や汗が止まらない、胃液が逆流してくるのを感じ俺はトイレに駆け込んだ。
––––––––ぴぴぴ、と配信時間を告げるアラームが鳴ったのはその時だ。
三度ほどトイレで嘔吐を繰り返してから、俺はよろよろとアラームを止めに部屋に戻流。
「……ぁ……配信、しなきゃ……弁明、しな、くては……っ」
リスナーの誤解を解きたいその一心で、また、リスナーならわかってくれるという淡い期待で。
俺は運営からの配信禁止のメールを読まないまま、朝活配信の配信開始ボタンを押した。
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読んでくださり光栄です!
♡、★、コメント、すごく励みになります。投稿主のモチベのためにも、是非!!!
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